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https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5152.html
文字サイズ小でうまく表示されると思います 何故安価なのかは 33 33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 12 56 28.24 ID uEJYG+Qk0 いいわけ保守 なあハルヒ、このスレは本来SS投下をする為にあるんであって安価とかはまずいんじゃないのか? 投下が来た時の邪魔になるし、住人も良くは思ってないと思うぞ? 「そんな事はどうでもいいの! いい、キョン。この場合一番重要なのはプリンが生き残る事、それだけよ。 そりゃああたしだって、本当は投下を期待してF5押しながら支援カキコしてたいわよ。でも今は規制のせいで 住人が殆どいないじゃない!」 そりゃあ、まあそうだが。 「明日になればきっと誰かが戻ってくる、あたしはそう信じてるもの! だから私は意地でもここを存続させる から邪魔しないで!」 ……なあ、ハルヒ。お前、なんでそんなにプリンの存続にこだわるんだ。 「え?」 別に今もアナルは生きてるんだし、規制されてる人が帰ってきてからスレを立ててもいいだろ? 「……だって」 ん。 「だって……ここがなかったら、あたしとキョンのSS書いた人が投下してくれないかもしれないじゃない」 なんだ、声が小さくてよく聞こえな「うるさい!! バカキョン! いいから存続させるの! いいわね!」 1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 09 12 27.95 ID uEJYG+Qk0 8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 09 48 25.98 ID uEJYG+Qk0 適当にはじめてしまおう 何事もない日常が喜び。 ハルヒに振り回され続けてきた俺は、たまに本気でそう思う事がある。 でもまあ、ここまで退屈だと逆に何か起こってくれないかね? なんて思うのは 贅沢なのだろうか。 せっかくの休日だというのに今日は何の予定もなく、朝から何度も確認しみても 携帯の電源は入っているのに着信はない。 これは神様が俺に休憩しろとでも言っているどうろうか? だとしたらその余暇を楽しむ何かまで準備して欲しかったってのは、望み過ぎ なんだろうな。 10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 09 55 41.85 ID uEJYG+Qk0 出かけるあてなどないのだが、とりあえず着替えてだけおくか。 クローゼットの中の私服は、我ながらレパートリーが少ない。ああそうだ、買い物 に行くなんてものいいかもしれないな。 結局、着なれたいつもの服装に着替えた俺は―― 11 反応なければ適当にいきます 1 誰か誘ってみるか 相手指定可 2 今日は一人で行動しよう 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 10 06 50.18 ID uEJYG+Qk0 適当~ 誰か誘ってみようか? そう思って携帯を開いてはみたが何となくその気にならない。 たまには一人で出かけてみるか。 俺は開いたばかりの携帯を閉じてポケットに入れると、自分の部屋を後にした。 休日だというのに、街に溢れかえっているのはスーツや事務服に身を包んだ人ばかり だというのはどうなのかね? 週に一度は魂の安息日があってもいいと俺は思うぞ。 そんな上から目線で、実際にファーストフードの2階席から歩道を見下ろしながら 簡単な朝食を済ませる。 12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 10 13 39.95 ID uEJYG+Qk0 一人だと相手を選んで店を決めたりしなくていいから気楽でいいな。 いつもの休日なら、気忙しく食べ終えて移動するだけの食事なのだが今日は違う。 多少冷えて適温になったコーヒーをゆっくりと飲みつつ、俺はゆったりとした時間を 楽しむ事にした。そういえばマックのコーヒーはおかわり実はできるらしいが、本当 なんだろうか? こんな小さなコップにおかわりってきついだろ、頼む方も持ってくる方も。 時間は……10時か。 手元のレシートで会計時間を見るとまだ20分しか経っていない。 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 10 21 21.40 ID uEJYG+Qk0 やれやれ、気忙しいのは俺も一緒か。 嘘をついても仕方ない、早くもこののんびりとした時間に俺は退屈しはじめていた。 あてもなくぶらつくのもいいが、どうせなら何か――ああ、今日は服を買うんだったな。 空になったゴミが満載のトレーを片付けるついでに、俺は店にあったフリーペーパーを 一部もってきた。 今日の俺にはそれほど資金に余裕があるわけでもないし、何軒も店を回る気力もない。 よさそうな店が無いかページをめくっていくと、まあ俺でもなんとか手が出そうな店が 数軒見つかる。 それは ↓ 1 駅裏のアーケードにできた個人経営の店だった 2 最近人気のブランド物を扱う専門店だった 15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2008/09/14(日) 10 24 47.67 ID /F2MYmMC0 1 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 10 29 22.74 ID uEJYG+Qk0 「あっれー? キョン君じゃないか!」 駅裏のアーケードの一角、つい先日できたばかりらしいその個人経営の店の前で、俺は やけに元気な先輩と出会った。額によくわからないインドちっく? なバンダナを巻いて 笑っているのは言うまでもなく鶴屋さんである。 「おんや? あれ? 何故だろう、鶴屋さんは俺を見つけて駆け寄ってきた途端、何かを探すようにオーバー リアクションで俺を起点にぐるぐると回っている。 どうかしたんですか? 「どうかもなにかも、キョン君。君、一人なのかい? ええ、今日は一人です。 俺の返答がよほどショックだったんだろうか、鶴屋さんの笑顔が一瞬固まる。 17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 10 35 41.93 ID uEJYG+Qk0 「え、あ。あっははー! その、うん。なんだ。人生は長いぞ少年!」 突然俺を抱きしめて、鶴屋さんは意味のわからん事をいいながら背中をばんばんと叩いて きた。 え? あのどうしたんですか? 「まあハルニャンは気まぐれな所もあったりするからさー、ちょろっと離れる事があっても 元通りになる時は磁石みたいにばちーんって一瞬だよ!」 あの、鶴屋さん。 ↓ 1 よくわからないが誤解を解こう 2 まあいいか、このままにしておこう 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県):2008/09/14(日) 10 36 54.51 ID RpStx02Y0 1 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 10 46 14.02 ID uEJYG+Qk0 よくわからないが誤解を解こう ハルヒとは別に何もないですよ。今日はたまたま一人で買い物に来ただけなんです。 「へ? ……あ、そうだったんだ。ごっめんねー!」 とか言いながら俺の頭をぐりぐりと撫でる鶴屋さんを見て、うちの妹が大人になったら こんな感じになるんだろうか? と俺はシャミセンいじりに邁進する我が家の暴君の十数年後を 想像してみた。 「で、キョン君はあたしのお店の記念すべき最初のお客さんになってくれるのかな?」 へ? あなたのお店? 「あれー? 知ってて来てくれたんじゃなかったのかい? 本日12時オープンのファッション 雑貨『なまらすて』をよろしくぅ!」 持ってきていたフリーペーパーを見てみると、確かに店の連絡先の所に鶴屋という文字がある。 実は高校生向きファッションショップというカテゴリーと、駅から近いという理由だけで選んだ んだけどな。 22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 10 54 37.56 ID uEJYG+Qk0 なまら……すて、北海道の訛りなのか外国の挨拶なのかそのどちらもなのかよくわからない 名前だ。だが店の名前が意味不明なのに対して、店の商品は実にわかりやすい品揃えだった。 高校生向きと言うだけあって、俺でも簡単に手が出る値段の商品がそれほど広くない店内に 空間を意識しながら展示してある。 「開店までまだ1時間あるけどキョン君なら入っちゃってもいいにょろよ?」 それは、その有難い申し出だ。だがいいんだろうか? 「いいんだって、だって私店長さんなんだもんね!」 俺の返事を聞く気はないのだろう、さっそく俺の腕を掴んで鶴屋さんは店内へと案内というか 拉致してくれた。 流石は鶴屋さんといった所だろうか。店内に並んだ商品はどれもはずれがなく、適当に買って 帰っても後悔はしない様に見える。 「さーて、じゃあキョン君に似合いそうなのは……と」 どうやら一緒に服を選んでくれるつもりのようだ、 ↓ 1 せっかくだが一人で選ぼう 2 ここはプロに任せよう 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 11 06 31.83 ID neBvtuvmO 2 24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 11 14 29.82 ID uEJYG+Qk0 ここはプロに任せよう。俺のセンスがどれ程のものかくらいわかってるさ。 「キョン君は無理にかっこつけた服よりも、ポイントでセンスが光る服の方が合ってると思うん だよね」 俺と服とを交互に見ながら、鶴屋さんは駄菓子でも買うかのような勢いで服を集めていく。 あの、それもしかして全部。 「もっちろん試着してもらうよ! さあさあ、とりあえずこれとこれで着てみて! こっちを 上に着るんだからね?」 試着室になかば押し込まれるようにして閉じ込められた俺は、まあ仕方ないかとため息をついて 見つくろってもらった服に着替え始めた。 ――これが、俺か。そうか。 数分後、全身が写る鏡の前に居たのは俺が見てもそれなりに見える外見の男だった。さっきまで の、延滞したビデオを返しに行く途中にしかみえない男はもうここには居ない。 服で印象が変わるなんて無いって思ってたが、選ぶ人によってはあるんだな。 「もーいーかいっ?」 あ、はいどうぞ。 「御拝けーん……おー! さっすがあたし、完璧じゃないかー!」 俺もびっくりしました。 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 11 21 18.14 ID uEJYG+Qk0 次に着せようと持ってきていた服をあっさりと投げ捨てて、鶴屋さんは俺を試着室から引っぱり 出すってああ、待って下さい! 靴を履いてないんです! 「いやー、素材は悪くないと思ってたけどこれは予想以上。カツオがマグロになっちゃったねー!」 それってどっちが上なんでしょうか。 ちなみに外国だと、どっちもツナだったりするらしいですよ? 「ねえ、キョン君。これから一緒にどこかへお出かけしないかい?」 ええ?! って貴女はこのお店の店長さんなんでしょう? 「大丈夫だって! 初日だからバイトさん雇ってるし問題無いっさ!」 って、その ↓ 1 やっぱりまずいですよ 2 まあいいか 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(新潟・東北):2008/09/14(日) 11 24 41.39 ID 3wOPtLBVO 2でお願いします 27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 11 38 07.56 ID uEJYG+Qk0 まあいいか、たまにはハルヒ達以外の人と遊んだっていいだろ? 俺は大人しく頷き、それを見た鶴屋さんは向日葵の様な笑顔を浮かべた。 「みくるから色々聞いてはいるんだけど、キョン君はどんな所で遊ぶのが好きなのかな?」 そう言われると、どことかは無いですね。 ティーンズ雑誌の表紙を飾ってもおかしくないレベル、つまりは道行く人の誰もしも振り返るような 外見の鶴屋さんと二人っきりで歩くのは、普段の俺ならご遠慮したい。 だが今の俺ならば、そんなに自分を卑下しなくてもすむはずだ。多分。 「あっれー? キョン君元気ないくないかい?」 鶴屋さんは、呼吸が感じられる程近くで覗き込んでくる。 思わずのけぞった俺の胸に指をあてながら、 「あたしが選んだ服を着てるのにそんな自信なさげな顔じゃだめさー? さあ笑って! ね!」 今更なんだけど鶴屋さんの喋りがよくわからない; 誰か鶴屋さんのセリフが多いSS知ってる人いないかい? 28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 11 48 14.40 ID uEJYG+Qk0 そう言って俺の頬をひっぱる鶴屋さんの顔に、何か言葉以上の感情があるような違和感を感じる。 ……あ、そうか。鶴屋さんは俺に気を使ってくれてるんだな。言葉の所々に感じるニュアンスと、時折 俺の顔を見つめてくる仕草が気になってはいたんだ。 鶴屋さんは多分、俺がSOS団の誰か。まあ、多分ハルヒとの間で喧嘩でもしてると思ってるんだろう。 そう思うのも無理もない程に、俺の行動にはSOS団の誰かが関わっていたからな。 ようやく俺に笑顔が戻ったのを見て、鶴屋さんは満足げに頬をつまんでいた指を離す。 「さ! 今日は記念すべきキョン君とあたしの初デートだよ! 気合い入れてエスコートして、彼女の ハートをがっつりお持ち帰りしちゃってね?」 えっと、それはどこから突っ込めばいいんですか? ……反応なし。おかしいな、俺の反論はどうやら鶴屋さんには聞こえない様だぞ。なんて便利な耳だ。 さて、とりあえず歩道で立っていても仕方ない。どこかへ行くとするか……。 ↓ 1 公園でいいかな? 2 図書館に行ってみよう 3 休みだけど学校に行ってみようか 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 11 52 34.81 ID neBvtuvmO 1 34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 13 04 28.27 ID uEJYG+Qk0 言い訳書いてる暇がどこにあったのかと 休日の公園は騒がしい街とはうって変わって、子供連れの主婦が数人しか見えない。 俺の隣を歩く鶴屋さんは絡んでくる子供の相手をしたり、やれ空に浮かぶ雲の形が何に似ているだのと はしゃいでいる。 いいね、これこそまさに安息日ってやつだ。 俺は俺でそんな彼女の姿を目を細めながら眺めつつ、のんびりとした時間を楽しんでいた。が。 「ねーキョン君さ。……みくるが秘密を打ち明けた公園にあたしを連れてきて、どうしちゃうつもりなのかなー?」 平穏な時間はあっさりと終わった。 って今のはマジなんですか? まさか朝比奈さんは鶴屋さんに全部話してしまっているとか? ↓ 1 鶴屋さんも、朝比奈さんが未来人だって事知ってるんですか? 2 俺には、その。何の事だかさっぱりです 35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 13 09 22.03 ID UndwICEDO 2で つか爆睡かましてたらアナルが落ちてたorz 36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 13 23 16.93 ID uEJYG+Qk0 俺には、その。何の事だかさっぱりです。 いくら朝比奈さんがうっかりさんでも、禁則事項に関わるような事を口を滑らせるとは思えない。俺は冷や汗を かきながら鶴屋さんに嘘をついた。 しばらくの凝視の後。 「……そっかー。そうだよね、うん。ごめんごめん! ちょっとさ、みくるの様子が変だったから気になっててね」 え、朝比奈さんがですか? 疑う様だった鶴屋さんの眼差しが消える。 「みくるからキョン君の話を聞いてた時にね? この公園でキョン君に何か大切な事をお話したって所までは教えて くれたんだけど、それ以上先はどー頑張っても教えてくれなかったのさ~」 ……朝比奈さん、そこまで話したら誰でも気になると思いますよ? 「それで、もしかして君が何かみくるといけないお話でもしちゃったのかなって思ってね~。……ねえキョン君」 はい。 「みくるはさ~、なんていうかぼんやりさんでおっちょこちょいで目が離せない所ばっかり目立っちゃうけど、 本当は色々溜めこんじゃう娘なのさ。だけど人には言えない性格なのか、言えない内容なのかわかんないけど、 自分だけで頑張っちゃっててね~……そんなみくるもさ、キョン君には話せる事が多いみたいだから助けになって あげて欲しいな?」 最後の方は寂しそうな声で、鶴屋さんはそう言った。 39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 13 39 38.67 ID uEJYG+Qk0 俺にできる事なら。 もちろんこれは俺の本音だ。心のオアシスでもあり部室の天使でもある朝比奈さんの手助けになるなら、頼まれる までもなくなんだってするだろう。 パッと笑顔になる鶴屋さん。 「よろしく頼んだよ!」 そう言って鶴屋さんは背伸びをすると――冷たく柔らかい何かが触れる――素早く俺の頬にそっと触れるキスをした。 な、な。え? 驚く俺とは対照的に、鶴屋さんは平然とした顔で自分のポケットで振動していた携帯を取り出して何やら確認をしている。 そして急に顔をしかめて 「えー! そんなぁ~……残念だけどキョン君、あたし今すぐお店に戻らなくちゃいけなくなっちゃったよ。在庫が 尽きちゃって大変なんだって」 ええ? ってああ、俺の事は気にしないでいいですよ。 ところでさっきのはいったい、ってここは聞くべきなのか? 「ほんっとごめんよ? この埋め合わせは絶対するからー……絶対するからねー!」 手を合わせて謝ったかと思うと、すぐさま走り出し、何度も振り返りながら鶴屋さんは去って行った。 鶴屋さんの姿が見えなくなった所で、そっと自分の頬に触れてみる。 ……どうやら、さっきの白昼夢の類ではないらしい。 一人公園に取り残された俺は、自分でも意味のわからない溜息をつきつつ家路についた。 なんていうか、ハルヒとは別の意味で台風みたいな人だな。 42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 13 58 13.27 ID uEJYG+Qk0 その日、久しぶりに自室のクローゼットに新しい服が追加された。並べてみると、そこだけ自分の服じゃないみたいで なんだか変な感じがするな。 次の休日が待ち遠しいなんていつ以来の感情なのかわからない、俺はその日の出来事を思い出しながら眠りについた。 ――翌日、いつもなら気だるい通学路も普段の20%増し程度の元気で登り終え、平均より10分程早く教室に入った 俺の目に入ったのは机にのびているハルヒだった。 めずらしいな、あいつにしては。 俺が席についてもハルヒは動こうとしない、流石にここまでくると気になってくる。 おい、大丈夫か? 俺の声に数秒遅れて、ハルヒがゆっくりと顔を上げる。 「……ああ、キョン。いつ来たの?」 今さっきだ。 「そ」 再び机との同化作業に戻るハルヒ。 ハルヒ、体の調子が悪いのか? 保健室に行くならついて行ってやるが。 「いい。……昨日、親戚が1歳になった赤ちゃんを見せに来たんだけどね。その相手をしてて本気で疲れてるだけ」 そりゃあ……大変だったな。 お前の相手をしている俺達の大変さが少しはわかったか? なんて本音は言わないでやるよ。なんせ俺は充実した 休日だったからな。 「キョンは」 ん? 「キョンは昨日何してたの?」 ああ、俺か。 ……さて、ここで鶴屋さんの名前を出すべきか…… じゃあ安価で ↓ 1 やめておこう。昨日は買い物して終わったよ。 2 まあいいか。昨日は鶴屋さんの店で買い物してきた。 3 たまには驚かせてやるか。昨日は鶴屋さんとデートだったんだ。 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(神奈川県):2008/09/14(日) 13 59 47.34 ID npWD+ams0 3 44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(dion軍):2008/09/14(日) 14 09 56.12 ID /F2MYmMC0 古泉君スタンバイ 45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 14 11 50.23 ID uEJYG+Qk0 たまには驚かせてやるか。 昨日は鶴屋さんとデートだったんだ。 「はあ?!」 でかい声をだしつつ即座に体を起こすハルヒ。 おでこ、真赤だぞ。 「えっあっ……ちょっとキョン。今のって本当なの?」 前髪でおでこを隠しながらハルヒは睨んでいる。 嘘か本当かと聞かれれば……本当なんだが、まあ古泉の気苦労を増やすのも悪い気がする。あいつに恨みがある訳でも ないしな。 冗談だ。昨日買い物してたら偶然あってな、服を選んでもらったんだ。それだけさ。 「……あ、あんまり変な事言わないでよ。でもまあ、よくよく考えてみれば鶴屋さんがあんたみたいなのとデートする なんて地球が逆回転を始めるよりありえない事よね。一瞬でも信じたあたしがどうかしてたわ」 そうかい。 ずいぶん安くなっちまったな、地球。 46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 14 21 37.98 ID uEJYG+Qk0 これでこの件は終了。 だったらよかったんだけどなー。それから時間は進み今は昼休み、どこかへでかけていくハルヒを見送り、のんびりと 弁当を広げていた俺の携帯が振動をはじめた。相手は……古泉? 箸を置いて、なんとなくその場で話すのを躊躇った俺は廊下に出てから受話ボタンを押した。 もしもし。 「何があったんですか?」 主語がないぞ、古泉。それにそれは俺のセリフだ。 「すみません、ですが答えて下さい。涼宮さんに何かしましたか?」 何かって……特に思い当たらないが。 「実は、ついさっきいつになく巨大な閉鎖空間が発生しました。これは涼宮さんにいきなり大きなストレスがかかったと しか考えられません」 落ち着けって、まあやばいのはわかった。でも俺はここ数時間ハルヒの頭を叩いたりもしなかったぞ?叩かれはしたが。 それに授業中だったから特に何かあったとは思えん。 「確かにそうですね……、ちなみに、貴方の言う物理的な理由では涼宮さんにストレスがかかる事は殆どありません。 ありえるとしたら……そうですね、貴方が涼宮さんの目の前で誰かとキスをする、そんな状況を見れば今のような閉鎖空間も 発生しえるでしょう」 古泉、ここは学校だぞ? そんな事がある訳……あ。 「ど、どうしました?」 49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 14 35 38.75 ID uEJYG+Qk0 あ、いや。実は昨日、俺は鶴屋さんと買い物をしてたんだが。 「はい」 そこでキスされたんだ。 「……」 痛いほどの沈黙が流れる。 で、でも、あれは不可抗力だったし昨日の事なんだから今回は関係ないだろ? それに俺はハルヒには、買い物中に 鶴屋さんと会ったとしか言ってないぞ。 「事実はともかくとして、もしも涼宮さんがその事を鶴屋さんに確認に行ったら」 古泉の言葉に、俺が想像した鶴屋さんのリアクションのどれもが、あっさりキスの一件まで伝えてしまう姿だった。 「すみません、僕は機関の仕事に戻ります。すみませんが涼宮さんの事をお願いします!」 おい待て古泉! お願いするったってな? ――ええい、切れてやがる。 別に俺はハルヒと付き合ってる訳じゃないのに、そこまで気をまわさなくちゃいけない理由ってのはなんなんだろうな? ああそうか、世界崩壊の危機だったな。……笑えねー。 ともかくだ、ここは ↓ 1 ハルヒを探そう 2 長門に相談しよう 3 朝比奈さんに話をしてみよう 50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 14 37 16.58 ID neBvtuvmO 1 52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 14 46 21.17 ID uEJYG+Qk0 ともかくだ、ここはハルヒを探そう。 鶴屋さんとハルヒが会ったっていうのが本当なら、多分2年の教室の近くに居るはずだ。 生徒で溢れかえる昼休みの廊下を、俺は世界を救うべく全力で走っていた。 そこら中から感じる奇異の視線。 そうだな、俺もこんな変なのが居たら目で追うだろうよ。 ついでに言えば入学したばっかりの頃のハルヒはこんな視線をいつも受けてたんだろうな。 幸運にも教師に見つかる前に、俺は2年の教室まで辿り着いた。 えっと、鶴屋さんは……しまったあの人が何組なのか俺は知らないじゃないか? 朝比奈さんに電話した方が確実なんだろうが、ともかく今は時間が惜しい。俺は順番に教室の中を覗き込みながら ハルヒの姿を探していった。 そんな不審行為を繰り返していると、 「あっれー? キョン君じゃないかー」 廊下を歩いて来たのはまさに渦中の人、鶴屋さんだった。 54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 14 55 44.12 ID uEJYG+Qk0 53 本当に言ってねー 鶴屋さん、ハルヒがここに来ませんでしたか? っていうか何か話しませんでした? 「ハルニャン? きたよー、昨日キョン君とチューしちゃったーって言ったらめがっさ怒って何処かへ行っちゃったにょろ」 ――世界が停止したかと思った。……古泉、最悪な方向にビンゴだぞ。 急な運動による胃痛と、止まらない頭痛に思わず頭を抱える。 あーくそう! なんで朝、俺はあいつにあんな事を言ってしまったんだ? そんな事言うつもりはなかったのに! 「ちょっと大丈夫かい? 顔色が真っ青だよ?」 ええまあ、これくらいなんてことないんです。はい。 これから起きるかもしれない事を考えれば、俺の体調不良なんて1ジンバブエドルと等価なんです。 それで、ハルヒはどこへ? 「あっちだよ。でもどこに行くかは聞いてなかったな~」 ともかく今は動くしかない、俺は疲れた体に鞭打って再び廊下を走りだした。そして間もなく階段の踊り場に辿り着く、 ハルヒは上か? 下か? 1 上 2 下 3 一人では探しきれない、誰かに助けを頼もう 55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 15 05 18.49 ID neBvtuvmO 上 59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 15 18 34.75 ID uEJYG+Qk0 書き手が一人の間はこれでもいいかもね 上に行ってみよう、なんとなくハルヒと言えば高い所にいるイメージがある。それに一度降りて上がるよりは、先に 上がって降りた方が体的にも楽だろう。 これで重労働は最後だと気合いを入れて階段を上った先には、ああそうだ、そういえばここだったんだな。 あの日、部活を作る事を思いついたハルヒに拉致されてきた屋上への扉があった。 鍵は……開いている。 勢いのままに扉を開けたそこには……、誰も居なかった。 一応ぐるりと回ってはみたが、広い校舎の屋根部分に簡単な柵がついているだけで誰の姿も隠れる場所も見当たらない。 くそっはずれか? 「おーい、キョン」 誰かの声が下から聞こえてくる。この声は、 「お前そんな所でなにやってんだ?」 グランドから叫んでいたのは谷口の奴だった。隣には国木田の姿も見える。 おい! ハルヒを見なかったか? 「涼宮? 涼宮ならさっき部室棟の方に歩いてたぞー? っていうかお前午後の授業さぼるつもりか?」 「キョンー。僕の机の上に置いてあったお弁当はキョンの机の中に入れておいたからねー」 二人の声を最後まで聞く事無く、俺は本日何回目かの全力疾走を自分の足に命じた。 62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 15 37 36.41 ID uEJYG+Qk0 じゃあとりあえず16:00で一回切れる様にごまかします 30分程の用事もあるし 詳しい言い訳は 33 俺の選択のどこに間違いがあったのか、それともそもそも俺の選択など何の意味ももたないのか。 昼休みが終わる鐘が鳴って静まり返った廊下を俺は必死に走っていた。 授業中のクラスの近くを通るのはなるべく避けながら、ともかく部室棟へと急ぐ。 中庭から見えるグランドでは谷口達がサッカーに興じているのが見える。 ああくそっ! いったい俺は何をやってるんだろうなーもー! 部室棟の中は当たり前だが静まり返っている、俺の階段をかけのぼる音だけが大きく響き、ようやく部室の前まで 辿り着いた時は、今度は俺の荒い息だけが響いていた。 頼むぜハルヒ、ここに居てくれよ? 会った所でなんて言えばいいかなんてわからないが、会わなけりゃアウトな事だけはわかる。 息を飲みながらドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。 扉の向こう、部室の中に居たのは…… 1 よかった、ハルヒがそこに居た。 2 古泉、なんでお前がここに? 3 長門、お前だけか。 4 すみません、間違えました。俺を見つめるいくつかの不審な目、間違ってコンピューター研の扉を開けていたらしい。 65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 15 47 07.84 ID neBvtuvmO 2 68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 15 56 34.43 ID uEJYG+Qk0 古泉、なんでお前がここに? 部室の中に居たのはハルヒではなく古泉だった。 「貴方こそどうして、涼宮さんを探していたのではないんですか?」 探して辿り着いたのがここなんだ。で、お前は? 「閉鎖空間の発生地点がここなんです、僕は外の状況を確認するために一度出てきた所なんですが……まさか、もしかして?」 古泉は驚いた顔で部室の窓を見つめる、……嫌な予感がする、しかもそれが的中してしまうような……。 まさか、ハルヒは。 俺の言葉に頷く古泉。 「どうやら、涼宮さんは自分で作った閉鎖空間の中へ入ってしまったようですね」 悪い予感ってのはなんでこう当たるんだろうな、誰か教えてくれよ。 「神人は広範囲に分散して現れていますが、万一涼宮さんが遭遇してしまったら終わりです。すみませんが……」 わかってるよ、俺も行けばいいんだろ? 「申し訳ありません」 今回は俺の不注意が原因みたいなもんだ、気にしなくていい。 74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 16 40 11.76 ID uEJYG+Qk0 なんだろう、ここ。 気がついた時、あたしは不思議な場所に居た。 そこは見た目はあたしのSOS団の部室なのに、一切音が無く窓の外は色が無い灰色の世界が広がっている。 この場所にあたしは……うん、きっとそう。ここに私は来た事がある。 ともかく誰か居ないか探さないと。 77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 16 59 05.25 ID uEJYG+Qk0 まるで気圧の違う場所に入ったかの様な違和感。 「もういいですよ」 目を開いた時、そこにあったのは数秒前と変わらぬ部室の風景。そして窓の外に広がる灰色の世界だった。 今の所、窓の向こうに青白く光り輝く巨人の姿は見えない。 「学校の傍の神人は閉鎖空間の発生した時に退治しました。ですが、神人が再び現れないとも限りませんので 急いで涼宮さんを探しましょう」 ……そうだ、簡単な方法があるじゃないか! 「え?」 俺は窓を開けて中庭を見回す、そこにハルヒの姿は見えない。が ハルヒー! 俺の声が静まりかえった校舎の隅まで響いていく、ええいもう一度だ! ハルヒどこだー! 再び響き渡る声に、返ってくる返事はなかった。 「……これは、盲点でした。確かに大声で呼べば早いですよね」 でもダメみたいだな、もう遠くに行ってしまってるのか? 「いえ。涼宮さんの反応がここで感じられる以上、少なくとも学校の敷地内に居る筈です」 なるほど ↓ 1 もう少しここで呼びかけてみるか 2 二手に別れて探しに行こう 3 僕となるべく離れないでください。神人が出現した時に僕が居なければ危険です。 78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 17 01 20.54 ID neBvtuvmO 2 79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 17 12 29.31 ID uEJYG+Qk0 なるほど、二手に別れて探しに行こう。ハルヒが学校から出てしまったら探しきれなくなる。 「了解です。何かあったら古典的ですが大声を出してください、すぐに駆けつけます」 ああ、その時は頼むぜ。 とりあえず古泉はまず部室棟を探し、終わったら本館の上階を。俺は本館の1,2階を探す事になった。 静かな本館の中、俺の歩く足音だけが廊下に響く。 途中までハルヒ出て来いよーなどと叫んでいた俺だが、今はそれにも疲れ、とにかく教室という教室を順番に 調べて回っていた。 ハルヒが何故出てこないのか? まあ理由は色々考えられる。 例えば、あいつがこの世界で寝ているとか気を失っているとかそんな理由で俺の声が聞こえなかった。まあ、 これならいいんだ。これなら。 問題なのは、俺の声が聞こえたけど出てこなかった……つまり理由はわからないが俺達から逃げていたら? そうなったらちょっと厳しいかくれんぼになるぞ、なんせ範囲は無制限なんだ、。 80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 17 20 14.76 ID uEJYG+Qk0 職員室を見た後、1階の各教室を順番に回ってきたが成果0。古泉の声も聞こえてはこない。 いったいハルヒは何処にいるんだ? とりあえず足は止めないが、俺はあいつが行きそうな場所を考えてみる事にした。 あいつが一人で行きそうな場所か……あ、そういえば校舎内をくまなく探した事があるって前に言ってたな。 それだけで全ての場所が候補になるってのはきついぜ。 でもまあ予測だけでも立てるとすれば、だ。 ↓ 1 あいつは屋上で何か投げてなかったか? 2 プールのふちに立ってるのを見た事がある気がする。 3 あ、音楽室はどうだ。前にピアノを弾いてた様な。 81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(コネチカット州):2008/09/14(日) 17 25 59.37 ID neBvtuvmO 3 89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 18 21 06.58 ID uEJYG+Qk0 あ、音楽室はどうだ。前にピアノを弾いてた様な。 1,2階の捜索を終えていた俺は、とりあえず音楽室へと向かった。 「ねえキョン、なんだかすごい1年生がピアノの演奏してるんだって。見に行かない?」 そう国木田が聞いて来たのは入学式が終わって数週間後の昼休みの事だった。ちなみにそれはハルヒが ありとあらゆる部活に仮入部を繰り返してはどこにも入部しないという意味不明の行動に勤しんでいた時 でもある。 だから俺はそのピアノを弾いてる凄い1年ってのもハルヒの事だろうと思い、行くのを躊躇っていたの だが――あいつがピアノを弾く姿ってのは想像できないな――怖いもの見たさ、って奴だろう。 弁当を食い終えて重くなっていた腰を上げていた。 人だかりのできた音楽室の入口、開いたままの分厚い扉の中から聞こえてくるピアノの音。 俺が人垣の隙間から背を伸ばして見たのは…… あいかわらず上手いな。 俺の言葉と同時にピアノの音が止む。 あの時と同じ音楽室の分厚い扉の向こう、防音になった部屋の中で一心不乱でピアノを弾くハルヒの姿がそこにあった。 99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 19 10 49.37 ID uEJYG+Qk0 どうやら見つけたみたいですね。 本館の中を歩いていた時、そのピアノの音は聞こえてきた。それと同時に不安定だった涼宮さんの気配も 一瞬強くなり、また小さくなる。 なるほど、音楽室でしたか。これは盲点でした。 この建物に居る人の気配は僕と彼、そして涼宮さんだけ。となれば涼宮さんと一緒にいるのは彼しかいない。 何とか事態は解決に向かいそうですね――そう思って一息ついた古泉を待っていたかのように、グランドの中央に 神人はその姿を現した。 「……キョン」 どうやら本気で弾いていたらしく、ハルヒの息はあがっている。 なるほどね、気を失っていたのでも俺達から逃げていたのでもない。本当に声が聞こえない所に居たとは 予想外だったよ。 だが見つけたのはいいが、これからどうすればいいんだ? 「ねえ……」 そこまで口にして、ハルヒは黙ってしまった。ただでさえ物音がしない防音室の中に、痛い程の沈黙が広がる。 かといって俺から口を開こうにも、なんて言っていいのかわからないんだが。 101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 19 11 29.53 ID uEJYG+Qk0 これは……僕ひとりでは厳しいかもしれません。 グランドの上に現れた神人はサイズは小さいものの全部で3体、通常であれば能力者4人以上で対応するのが セオリー。だが今はそんな事を言っている時間はない、もしも涼宮さんに万一の事があれば文字通り全ては終わって しまうのだから。 赤い光が浸み出して光の球体が体を包み込む。 頼みましたよ? 近くの教室の窓から飛び出した僕は、一番近くに居た神人の左腕を切断しながら舞い上がった。 パサリと何か紙をめくる音がする、見ればハルヒは楽譜を取り換えてピアノの上に置く所だった。 ……さて、何を聴かせてもらえるんだろうね? 壁際に置かれた椅子を一つ取り、ハルヒが見える位置に置いて座ると流れるように音が溢れ出した。 俺にはピアノ曲なんてもののタイトルはわからないが、ハルヒが弾いたのは優しいメロディーだって事はわかる。 その曲に聞き惚れつつハルヒを見てみれば……楽譜の意味あんのか? ハルヒは俺の顔を見ながらピアノを弾いて いた。時折目を伏せたり、また見開いて見つめてきたりと表情を変えるハルヒに合わせるように、曲もまた変化して いく。 102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 19 12 09.77 ID uEJYG+Qk0 これは……いったいどういう事なんでしょうね。 神人を引き付けながら空中を浮かんでいた古泉が見たのは、突然静かになった神人達の姿だった。 これまでに数多くの閉鎖空間に入ってきたけれど、こんな事は初めてだ。 驚きつつも念のために距離を置いたまま様子を伺っていると、神人達の光量が緩やかに衰えていきやがてそのまま 消え去ってしまった。 「そんな? ありえない?」 神人は涼宮さんのストレスが無意識の中で実体化した物のはず、それが自然消滅するなんて事があるはずが……。 103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします(東京都):2008/09/14(日) 19 12 44.86 ID uEJYG+Qk0 ……ん、何か冷たい物が頬に……。 おぼろげな意識の中でそう感じた次の瞬間。 「起きなさい!」 俺の脳天に叩きつけられる何か。衝撃と共に目に入ってくる光景は……。 部室か。 「あんたまだ寝ぼけてるの? 岡部がめちゃくちゃ怒ってるんだからさっさと来なさい!」 座った俺の隣でハルヒが怒鳴ってる……って事は、そう言う事か。 「古泉君は先に行ったわよ。いい、あたしはちゃんと起こしたからね? まったく、古泉君と二人で部室で寝てる なんてあんた達なにしてたのよ?」 そうかい、そいつは悪かった。 でもお前のおでこが赤いのはなんでなんだろうな。 まだ意識ははっきりしないが、なんとなくどうなったかはわかるさ。つまり古泉はハルヒも含めて俺達3人が この部室で寝ていた事にしたって事だろう。そしてハルヒだけを起こしてやれば誤魔化せるって事か。 俺は世界の存続を祝いつつ、力の入らない体に活を入れようと腕をのばした。 あくびをしつつ、ふと気がつく。 ハルヒ。 「何よ。急がないと怒られるだけじゃ済まなくなるわよ?」 お前、何か俺にいたずらしたか? 何か頬が濡れてるみたいなんだが。 急にハルヒが俺に背を向けて扉に向かって走っていく、っておいハルヒ? 「しっ知らない!」 バタン! ……そう言い残してハルヒは部室から出て行ってしまった。 ……なんなんだ? あいつは。 涼宮ハルヒの失踪 終わり その他の作品
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いつものようにSOS団アジト唯一のドアはまるでSAT隊員に突入されるような勢いで開け放たれた。 もちろん蹴破ったのは我が団長様であり、他の団員はそんなことしないのである。 ハルヒはなにやら不機嫌な様子で団長席にあぐらをかいて座り、朝比奈さんに 「お茶!」 と、企業の上司が部下に使うような言葉遣いで命令を下した。 おおかた不機嫌なのは今日がやけに寒いからか、雨だからだろう。 それでも俺はこのピリピリした空気の緩和剤となるべく、ハルヒに声をかけた。 「おいハルヒ、今日はやけに不機嫌じゃないか、なにかあったのか?」 ハルヒは俺をキッと睨み、つばが飛んでくるような大声で 「外見なさい外!」 俺はこの雨は朝からだったので別段気にしていないが、 頭の中が年中からっ晴れはこの女には癪なことなのかもしれん。 「雨だな」 当然の感想なわけだが、ハルヒはなにやら呆れたようだ。 ふぃーっとため息をついて、こっちをジト目で見てくる。 「アンタねぇ、今朝の天気予報見てないわけ?」 「俺は朝はテレビ見ない派なんだ」 「じゃああたしが代わりに教えて上げるわ、今日はね、雪だって予報で言ってたのよ!」 「ほお」 俺の反応が乏しかったのかハルヒはさらにがなる。 「しーかーもー、朝から雪だって言ってたの!」 「それで不機嫌だと」 「そうよ! ここだと雪なんてなかなか降らないじゃない」 「確かにな」 もともと雪がふるような地域でもないし、仕方ないと思うのだが。 「雪が積もったらみくるちゃんを芯にして雪だるまつくろうと思ってたのにぃ!」 朝比奈さんが小さく悲鳴を上げた。 おいおい、そりゃ可哀そうだろう。風邪はひいちまうぞ。 「厚着してほっかいろ装備させればひかないわ、それにアンタも見たいと思わないわけ?」 朝比奈さんの雪だるま姿ねぇ……きっと愛らしいだろうな。うん。 「黙ってるってことはイエスね。あー、雪降らないかなぁ」 「どうだろうな、そのパソコンで見ればいいじゃねぇか、もしかしたら今日の夜降るかも知れんぞ」 「そうね!」 そう言ってハルヒはパソコンをつけた。 だがこの時間になっても振らないのだから半ば諦めていたらしい。 十分ほどしてスピーカーから音が流れた。 なんだか懐かしいの見てるなハルヒよ。開国してくださいよぉなんてもう何年前だ? クスクス笑うハルヒの面を横目に、俺と古泉はいつものようにボードゲームに興じた。 今日は人生ゲームのデラックスなやつで、俺は8人もの子供を抱える大家族になってしまった。 ただマス目に大不況到来だとかブラックマンデーだとかあるのはどうなんだ。 リアル過ぎではないだろうか。 結果は俺の勝ちだった。 古泉は最後の最後でテロに遭遇し、全財産の80パーセントを失ってしまった。 「テロに合わなけりゃお前の勝ちだったな」 「まったくです。次は勝たせていただきますよ」 「それは楽しみだな」 なんてちょっと小粋な会話を楽しんでいた俺達だったが、長門の本を閉じる音がした。 お、もうそんな時間なのか。 確かに時計をみるともう帰宅時間、といった頃合だ。 相変わらず精確だな長門は。原子時計でも内蔵してるんじゃないのか? 俺はイスから立ち上がって、コートを取ろうとしたときだ。 液晶とにらめっこしていたはずのハルヒが嬌声を上げた。 「雪が降ってるわ!」 振り返って窓の外を見ると、白い点々がフラフラと落ちていくのが見える。 だがさっきまで雨だったから、 地面に落ちた時点で溶けてしまいさぞかしグラウンドはぐちゃぐちゃだろうと思ったら、だ。 なんとグラウンドはまったく濡れていなかった。 雪がうすく積もり始め、茶色い地面がやや白がかっているではないか。 これは………と、古泉を見るとにやにやしている。 またハルヒの超能力が発動したらしいな。 まったくもって便利な能力だよ。なにせ天気まで変えちまうんだからな。 「明日は積もってるわね! みくるちゃん楽しみにしててよねっ!」 「は、はぁ~ぃ…」 力なく返事をする朝比奈さん。ご愁傷様だ。 「楽しみねー、キョン」 不意にハルヒが話しかけてきた。 と、おいおい長門に朝比奈さんに古泉よ、なぜ部屋を無言で出て行く。ちょっと待て。 しかしハルヒに返事をしなければならないので俺は止められなかった。なんてこった。 「ん? ああそうだな」 あーあ、これでハルヒと二人っきりだよ。 「アンタ雪合戦ってしたことある?」 雪合戦ねぇ……おもえば無いかも知れない。寒いのは好きじゃないんだよな。 「つっまんないわねー、雪といったら雪合戦でしょう! 石詰めたりして」 「それは危ないだろう……」 なんだコイツは。そんな危険なことやってたのかよ。 「冗談よ」 にっこりと笑うハルヒ。ちょっと可愛いな、なんて思ってしまった自分が憎い。 きっと明日の雪合戦では石入りのやつを投げてくるに違いないね。 「ならいいがな。さ、帰ろうぜ、みんな先に帰っちまったし」 「うんっ」 なんだ? やけに機嫌が良い。なんだか嫌な予感がするぞ? それとも雪が降ったのがそんなに嬉しいのか? 部室の明かりを落とし、戸締りを確認してから俺達は学校をあとにした。 雪は光を吸収するのか、この時間にしては道が暗い。 電灯がポツン、ポツンとあるだけで、その光景は神秘的でもあり不気味でもある。 遠くに見える街の光が、今日はいつもより美しく見えた。 隣を歩くハルヒは寒さですこし鼻を赤くしながら、雪を手のひらに積もらせたりしている。 高校生には見えないね。妹を思い出させるような無邪気ぶりだ。 「雪って冷たいわねー」 当たり前だろう氷なんだから。 「アンタってロマンとかそういうの持ってないわけ?」 アヒル口になるハルヒ。 「あいにくそういった感覚は持ち合わせてないんだ」 はぁ~、と大げさにため息をつくと、突然ハルヒは俺の手を握ってきた。 なんだなんだ? 俺の手で暖を取ろうって作戦か? そんな脳とは裏腹に素直にビートが早くなる俺の心臓。おいハルヒ、なんか喋れよ。 「あ、あんたにロマンってのを教えてやってんのよ」 街灯に一瞬照らされたハルヒの顔は真っ赤だった。 きっと寒さのせいだろう。いやそうに違いない。だが俺の顔まで赤くなるのはどういうわけだ。 恥ずかしさをまぎらわすために、俺はわざとそっけなく返事をした。 「ふーん」 いかん。ちょっと声が上ずった。余計に恥ずかしいぞ。 と、ハルヒが足を止めた。 「どうした?」 ハルヒは不安そうな顔でこっちを見上げる。 大きな目がいつもより潤んでいる気がする。 「アンタ…あたしと手を繋ぐのイヤ?」 そんな健気な声を出すんじゃないハルヒ! 思わず可愛いなお前、なんて言いそうになっちまったじゃないか。 「そ、そんなわけあるか!」 「じゃあ、嬉しい?」 「うっ……嬉しいに、決まってる…ぞ」 これじゃあクレヨンしんちゃんじゃないか。なんてかっこ悪いんだ俺よ。 途端ににっこり笑うハルヒ。 「これがロマンってやつよ!」 なんだよさっきのは嘘かよ。こいつの演技はどこまで徹底してるんだ…… 女優にでもなったらいい。可愛いし人気でるだろうに。 だけどこのままやられっぱなしなのは癪に障る。ここは反撃を繰り出してもいい場面だ。 「ロマンか……だけどなハルヒ」 「なによ?」 「俺はおまえと一緒に歩けるだけでロマンを感じてるよ」 ボン、ってな音が聞こえそうなくらい一瞬で顔を赤くするハルヒ。 これは面白い。 「そ、そ、そ、そうよ、あたしみたいな美少女と帰宅できるなんて、あんたは幸せ者だわ!」 噛みまくりどもりまくりのハルヒ。 「そうだな。俺は世界一の幸せ者だよ」 「あ、あたしも……だよ」 「ん? なんだ?」 「なんでもなーい!! 寒いから明日に備えて早く帰るわよ! 風邪引かないためにね!」 そういってハルヒは俺の手を握ったまま走り出した。 余計寒いぞ。 まぁ、幸せな気持ちなのは本心だから、嬉しかったりする俺がいるんだがね。
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涼宮ハルヒの日記 今日は、日曜日。 どうせみんな暇だろうと思って電話してみたけど古泉君は、 『すみません、今日はどうしても外せないようじがありましてそれではまた明日学校で、では失礼します』 なんというか古泉君らしい丁寧な口調で電話をきった。 で、みくるちゃんは『あっ、涼宮さんどうしたんですか?』と言ったので今日いつもの所にこれるか聞いたら『今日は、…ごめんなさいお買い物に行くから…ごめんなさい今日は行けません・・・』 みくるちゃんらしい言い方で電話をきった。明日学校でバニーの服を着せて門の所に立たせてやる「SOS団をよろしく~」とでも言わせながらあたしも一緒に 有希にかけたら『・・・・・・・・・』無言だし今日いつもの所にこれるか聞いたら『今日は無理』理由を聞いたら『今日は、お買い物』といって無言になった『そう、じゃ明日学校で会いましょ』そういって電話をきった 残るのは 『あっキョン今からいつものとここれる?』 『これるっていったいなにをする気だ?』 『いいからこれるの?これないの?』 『行けるかどうかと言われれば行けるが・・・』 『そ、じゃ2時に集合ね、遅れたら罰金だんねっ!』 『はいはい』 キョンは、予定も無く空いていた、そうと決まればさっそく着替えてしたくしていつもの所にいかなきゃ。 なんたって今日は、今日は、 キョンとデートなんだもん! 会ったらなにから話そう…いっそのこと告白でもしてしまおうか。 いや、SOS団の今後のことや夏休みのことでも話そうか。 なんだろう、話したいことがいっぱいありすぎてわかんないや とりあえず今日は、キョンとデートなんだし時間もある。 いそがないとキョンが先に着いてるかもしれない そう考えながらいつもの『所』に急いだ。 キョンの日記 さて今の状況から説明せにゃならんことに代わりないので説明するが、 えーただいまハルヒとデート中である。 集合場所に着くなり 「今日の予定変更」 「おいまて予定変更っていったいなにをするつもりだ?」 「なにって・・・・デ・・デー・・・」 「言いたいことがあるなら頭の中で整理してからいえ」 「じゃあ一回しか言わないからよく聞きなさいよ」 なぜかハルヒは大きく深呼吸してから三文字の単語を発した。 「だからデ・・・デートしようってぃって・・・」 「最後何言ったかよく聞こえなかったがなんていった?」 「だからデートしようって・・・いってんでしょ!」 一瞬、いやかなりの時間がたったか、今ハルヒはなんて言った?デート?あのハルヒがか? 「恋愛感情なんて一種の精神病の一種なのよあんなもんに時間を費やす理由を教えて欲しいもんだわ」 なーんていっていたハルヒがデート?ホワイ?なぜ? 「何よ・・・もしかして嫌?」 「いーやべつにかまわんが」 「じゃあきまりねっ!」 ハルヒは、100ワットはありそうなとびきりの笑顔を俺にむけ何処にいくかをいつもの溜まり場である北口前の近くにある喫茶店、とわ言っても毎回財布が軽くなっていくのが悲しい。 「遊園地?水族館?それとも…」 「おまえは何処にいきたいんだ?」 「遊園地!」 そうしていそいそ電車に乗りちょうど眠たくなってくる30分間を何とかのりきり隣町、とわ言っても乗り換えを二回もして2、30分ばかし歩いていかにゃならんとーい所にあるでっかい遊園地だ(隣町じゃなくて他県にある遊園地だ、クソなんで市内に造らなかったんだいまいましー) 「ほら、キョン早く早く!」 「待てよっ!」 券を買って中に入るととんでもない数の人がうごめいていた。 「これだけ混んでると進みにくいわね…」 ふと後を見てみると「最後尾」とかかれたプレカードを掲げている人をよく見ると 古泉がそこにいた。 「あっ古泉君じゃない?こーいずーみくーん」 「おや、どうなされたんですか?涼宮さんそれと…」 そのにやけた顔をこっちに向けるな。 「それより古泉君何してんの?」 「バイトですよ」 「バイト?」 胡散臭い事ぬかすな何かある絶対に何かある。 「ふーんじゃバイトがんばってね」 ハルヒが歩きだしたので着いて行こうとしたら 「涼宮さんと何かあったんですか?」 「どうもこうもいきなり呼び出されたかと思ったらこの通りだ」 「デート・・・ですかまぁ涼宮さんらしい誘い方じゃないですか」 「どこがだ」 「つまり涼宮さんはあなたとデートをしたっかたとよめますね、ですがそのままデートの誘いをする訳にもいかないと思ったんでしょうあなたが今日誘われた理由わなんですか?」 「いきなりこれるかどうかを問われたが」 「涼宮さんもあなたに断られるのが怖かったんでしょうだからいけるかどうかだけを聞いてきたそして希望通りの回答が帰ってきた…まあこんなとこでしょう」 「すなおにデートならデートっいえばokしていただろうに俺だって反対ばっかしてるワケじゃないってのによ」 「そこに乙女心が作用したんでしょう」 「こらっーキョン早く行くわよ!」 「それでわどうぞデートの続きをおたのしみください」 「そのまえに一つきいておく、今回は『機関』とやらは関係ないんだな?」 「ええまったくかんけいないですよ」 「じゃバイトせいぜいがんばれじゃな」 「・・・・こちら古泉ターゲットがそちらにいきました」 『了解。引き続きターゲットの動きに注意せよ』 「はい、わかりました、」 「キョン!早くしなさい!観覧車はすぐに混んじゃうだからね!」 「もう混んでるぞ」 「え…もうっキョンご早く来ないから混んじゃったじゃない!」 「古泉と話ていた時間は五分もかかってないぞ」
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ハルヒに頼まれて、この糞寒い中しぶしぶストーブを取りに行ったわけだが、途中で激しい雨に会い、俺はびしょ濡れで部室に帰ってきたのである。 自分で言うのもおかしな話だが、相当疲れていたのだろう…ストーブをつけて、そのまま机に伏して熟睡してしまった。 どれくらい時間が経ったのだろうか…目を覚ますとそこには、驚いた顔をしているハルヒがいた。どうやら俺が起きるのを待っていたらしい。 とりあえず俺も目が覚めたので、立ち上がって身支度をしようとした…その時だった。 頭がクラクラして目の前がだんだん暗くなっていくのがわかった。強烈な立ちくらみだと思ったのだが、 そうではなかったらしく、俺はそのまま床にバタっと倒れてしまった。 ハルヒ「ちょっと…キョン?」 俺は何か言おう言葉を探したのだが、それよりも意識を失うことのほうが速かった。 ハルヒ「キョン…キョン!?どうしたの!?目を覚まして!!」 冬のさむ~い日のことだった それからのことはな~んにもわからないのだが、古泉の話によるとハルヒはかなり取り乱していたらしい。 しきりに俺の名を呼んだり救急隊員の襟首をつかんで、「キョンは大丈夫なんでしょうね!?」や「何とかしなさいよ!あんたたちプロでしょ!?」と、 喚き散らしていたようである。 救急隊員の方々には少々気の毒な気もしたが、それよりもハルヒがそんなに動揺するとは夢にも思わなかった。 古泉「大変だったんですよ?病院に着いたと思ったら、いきなりお医者様に涼宮さんが掴みかかって、 それを引き離すのに随分時間がかかりました。看護師の方と僕達でやっとでしたから。必死だったんでしょうね、涼宮さんも。」 俺が病室に運ばれてからはハルヒも大人しくなり、静かにしていたそうなのだが… 古泉「ずっとあなたに謝っていましたよ。『わたしのせいね…ごめんね』と。いやぁ~あんな涼宮さんは初めて見ましたね」 あのハルヒが謝るとは…そんなレアな場面を見逃すとは…!? そして古泉に言われるがまま、俺は病室で休んでいた。横になっているとだんだん眠くなってきたので、寝ようと思って目を瞑った矢先のことだった。 ガチャ 扉が開いた。言い忘れたが、俺の病室は古泉の計らいで個室になっていた…おそらくこの病院も『機関』が関係しているんだろうな、 救急車を呼んだのは古泉らしいし。 目を閉じていたので誰が来たのかわからなかったが、声ですぐに誰であるかわかった。 ハルヒ「キョン…」 ハルヒである。「なんだ?」って返事をしようと思ったのだが、いつもと様子が違うので黙っていることにした。 ハルヒ「あたしがストーブ取りに行けって命令したからよね。寒い中、雨に打たれてびしょ濡れで…」 たしかにその通りだが、そういう言われ方をするとこっちが罪悪感を感じてしまうな。 ハルヒ「ごめんね…ごめんね、キョン…ごめんね。」 声が震えていた。もしかして泣いているのだろうか?ますます起きにくい状況になってしまった…。 ハルヒ「ねぇ、キョン?みんな心配してるのよ。みくるちゃんや古泉くんはもちろん、きっと有希だって…。それに私だって、心配してるんだから」 朝比奈さんが心配してる姿は容易に想像できる。古泉はどうだろうな…あいつはどちらかというと、お前の意外な反応を少し楽しんでるんじゃないか? 長門はわからんな。おそらく無表情なんだろうが、心配してくれてると結構嬉しい。 ハルヒ「だから起きなさいよ…団長命令よ…グスッ…団長が名前を呼んだら、団員はすぐに返事しなきゃいけないのよ…。 何度呼んでも返事しないあんたなんて…死刑…グスッ…なんだから…」 完全に泣いている。俺は葛藤していた。もう起きるべきか、まだこのままでいるべきか…。 というか、古泉は俺が目を覚ましていることを、ハルヒに黙っていたのか? さっきまでここであいつと話してて、あいつが出て間もなくしてハルヒが入ってきた。 だとしたら古泉はハルヒとすれ違って、当然ハルヒは古泉に俺の容態を尋ねたはずだ。 ハルヒの様子から察するに、古泉は「いいえ、まだ目覚めておりません」とか何とか言ったに違いない。 全く、悪趣味なやつめ…。 とまぁ~頭の中でウダウダ考えていると、何かが俺の手に触れた。 ハルヒの手だ…ハルヒが俺の手を握っている…。しかも両手で。 ハルヒ「あったかいでしょ?さっきまでカイロで温めてたのよ。また冷えたらいけないもんね。」 そりゃあ、ありがたい。どうせならその優しさを、俺が行くときにくれて欲しかったもんだが…まぁ今更言っても仕方ない。 ハルヒ「あんたが目覚めて元気になるまで、SOS団は活動休止よ。だって、あんたがいないと……つまんないもの…」 それからしばし沈黙が続き、再びハルヒは口を開いた。 ハルヒ「ずっと前に言ったでしょ?悪夢を見たって…あれね、実は悪夢ってほどでもなかったのよ…」 悪夢?あぁ、二人きりの閉鎖空間のことか。あんまり思い出したくないがな…。 ハルヒ「あのときね、その夢にあんたが出てきたのよ。灰色の世界でね、そこにはあんたと私しかいなかったわ。」 だから思い出させるなっつの… ハルヒ「そしたら急に変な巨人が出てきてね、周りをめちゃめちゃに壊しまくってるのよ。 私はその巨人に恐怖心はなかったんだけど、あんたは違ってたみたいね。私の手を引っ張って外へ連れ出したのよ。 あっ、ちなみに私達は学校にいたんだけどね」 ハルヒ「それからあんたは、私を校庭まで連れて来たのよ。私はその灰色の世界にいたいって思ってたんだけど、 あんたは言ったわ。『元の世界に戻りたい』ってね。」 そりゃそうさ。あんな世界に好き好んでいようって考える奴は、おまえ以外にいやしない。 ハルヒ「それからあんた何言ったと思う?ものすごい真面目な顔して、『ハルヒ…実は俺、ポニーテール萌えなんだ』 とか言い出したのよ。今思い出すと笑えるけど、あのときは呆れて笑うどころじゃなかったわ」 ああ、できることなら記憶から抹消したいよ。跡形もなくな。 ハルヒ「でもね、そのあとあんたは言ったわ。『反則的に似合ってる』って。結構嬉しかったのよ?照れ臭くて 『バカじゃないの!?』とか言っちゃったけど」 ハルヒ「私が呆気にとられてると…あんたは…私の唇に…キス…したのよ…。あんたは絶対に信じないでしょうけどね。 それで気が付いたら朝だったわ。起きた瞬間は、『どうしてファーストキスの相手がキョンなのよ!』って気分だったけど……今は……違うわ」 おい…何を言い出すんだ…ハルヒ…。 ハルヒ「あんたも知ってるように、私は負けず嫌いなのよ。だから…やられっ放しはイヤ…特にあんたにはね…。というわけで…次は私の番…」 ハルヒ…おまえ…まさか……! もうおわかりだろう…ハルヒは俺に、キスをした。俺がしたときと同じように…俺の唇に。長門のように正確ではないが、おそらく10秒くらいだろう。 ハルヒ「これで…おあいこね。1勝…1敗…。」 何の勝負だ…。ハルヒは俺の唇から離れると、耳元でささやいた。 ハルヒ「あたしがこれで目を覚ましたんだから、あんたも目を覚ましなさいよ。白雪姫みたいなことさせちゃって、 私はあんたの王子様じゃないわよ」 ああ、俺もお前のお姫様ではない。断じてない。 ハルヒ「じゃあね、キョン…次に来たときはいつものマヌケ面見せなさいよ」 今見せようと思えば見せられるんだがな、そのマヌケ面を…。 ハルヒ「じゃあ、またね…」 そう言ってハルヒは部屋を出た。おそらくは扉付近で言った言葉だろう。 それからしばらくして、俺は目を覚ました。といっても最初から覚めてたんだが…。 そのときはSOS団のメンバーが全員揃っていて、「おやおや、やっとお目覚めですか」と白々しい言葉もあれば、 「キョンく~ん」と可愛いらし~いお言葉もあった。いつもと変わらない無表情で、「そう」という一言もあったが。 我が団長はというと、あのときのあれは夢だったのかと思うほどのものだった。 なんせ目覚めた瞬間の第一声が「いつまで寝てんのよバカキョン!」、それに加えて強烈なビンタと来たもんだ…。 さっきのは別の人格か?ハルヒ… そして退院した俺は、すぐに学校へ復帰した。まぁ病み上がりってことで休んでもよかったのだが、何故かそんな気にはなれなかった。 教室へ入ると、ハルヒはいつものように頬杖をついて、不機嫌そ~に外を見ていた。 キョン「よっ、元気か?」 ハルヒ「あんたに言われたくないわよ。もういいの?無理しないで休んだほうがよかったんじゃない?」 キョン「ほほぅ、お前でも心配してくれることがあるんだな。」 ハルヒ「はぁ!?勘違いしないでよ!あたしが心配してるのはSOS団のほうよ!病み上がりだからって足引っ張んないでよね!」 キョン「へいへい、じゃあ今日は授業が終わったら真っ直ぐ家に帰りますよ」 ハルヒ「ダメ。最初っから休むんならまだしも、授業を受けて部活に出ないなんてあたしが許さないわ」 キョン「おいおい、お前言ってることが矛盾…」 ハルヒ「いーから出なさい!これは団長命令よ!逆らったら死刑よ!」 こうしていつも通りの会話を楽しんだわけだが、一つだけ普段と違う部分があった。 それは、ハルヒの今日の髪型が、ポニーテールだったということだ。 終わり
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今の季節は秋。 ある日、いつものように学校を終わらせ、SOS団室へ向かった。 ノックしたが、反応も無い…。 俺は、迷わずドアを開けた。 中に入ると、目の前にハルヒが寝てる。 うむ、道理で返事してなかった訳か…。 「全く…起こすか…」 少し溜息しながらハルヒを起こそうと…思ったのはいいが…。 俺、疲れてると思う。 想像してくれ、寝てるハルヒの後ろに本物の尻尾が生えてるし、頭に本物の猫耳が出てるし、おまけに猫耳がピクピク動いてる。 近くに、水無いのか? 周りを見ても無いので、便所へ行って顔洗い、戻って見ると…やっぱ猫耳と尻尾がある。 これは、どうしたものが…幻覚か!? 長門は、いない。 古泉は、いない。 朝比奈さんは、いない。 …そういえば、3人は用事があったな。 この状況はどう把握すればいい!? 助けて!スペランカー先生! …にしても、起こすべきか?起こさないべきか? もし起こしたとすれば、猫並みに行動するのかもしれない。 いや、ハルヒの事だからな…するに決まってるだろうな…。 えぇい、起こすしかないのか! 「おぃ、ハルヒ…起きろ」 「フニャ?あ、あれ…キョンじゃないニャ」 嘘だろ!?口調も変わってるし! 「ふにゃぁ…って、あれ?何か口調が変だニャ」 これは、ハルヒに知るしかないな。 「ハルヒ…落ち着いて、深呼吸してくれ」 「え?何でニャ?」 いいから、しろよ。 「スー、ハー、スゥー、ハー…したニャ」 「よし、鏡を見ろ」 俺は、どこから取り出したが知らないか、大きな鏡を持って来て見せた。 「…何これ?」 俺に聞くな…俺も頭を抱きたい。 「もー!取れないニャ!どうなってるニャァ!」 俺も言いたいわ!どうなってんだぁぁぁぁぁ… 「ハッ!古泉や長門がここにいなくでも携帯があ…」 しまったぁぁっ!携帯は家に忘れたーっ! 何で事だ…昨日、電気が切れたので充電してたのだ。 それを忘れるなんで…。 落ち込む俺の前にハルヒがいる。 「さっきから、態度が激しいけど…大丈夫かニャ?」 ヤ、ヤバイ…今回のハルヒは可愛すぎる!? 「だ、だ、だだ、大丈夫だ!そぅ、大丈夫だ!はっはっはっはっ…」 俺は、誤魔化しながら部室から出た。 「キョン、どうしたニャ?」 ハルヒは、首を少し横に傾いて、頭の上に?のマークが出る。 ヤベェ、理性が暴走する所だった。 「くそ!誰がやったんだ!」 本当に苦悩してしまう。 ん、待てよ。 ハルヒの能力って確か…どんな願いでも必ず叶えてしまう能力あったな。 バァン! 「うにゃぁっ!」 俺は勢いよく扉を開けたせいで激しく驚いたハルヒがいた。 「ハルヒ、猫になりたいと言う願いあったのか?」 「そういえば、そうニャねぇ…そう思ってたニャ」 やっぱし…こいつの願いのせいで…。 でも、本当によく出来てるなぁ。 俺は猫耳を触れた途端。 「フニャァ、触るなニャ!」 ど、どしたんだ!ハルヒ!? 「そ、その…感じたニャ…」 うむ、そこも完全に猫になってるのか…。 だったら、顎と喉の辺りにを触れたらどうなるのかな? 「ふにゅぅ、気持ちいいニャァ…」 ほほぅ、可愛いなぁ…。 「って、さ、触るなニャ!」 あ、照れた。 よし、色々やってみよっと。 「ちょ、や…やめ…」 ――30分後 「……」 「フン!」 「…痛いんだけど、ハルヒさん」 「知らないニャ!」 俺の体に引っ掻かれた後があり、服もボロボロになった。 全く、引っ掻く事は無いのだろう…いや、俺も悪かったな。 「でも、気持ち良かっただろ?」 「し、知らないニャ!」 ハルヒは俺を見ずに言う。 「だけど、尻尾だけは素直だぜ」 そぅ、ハルヒの尻尾は大きく振っていた。 「な、何をバカな事を…」 「猫の尻尾は感情表れやすく、大きく振れば嬉しい。怖い時は引っ込む。警戒する時は尻尾か立つ…だったな」 「~~~!」 流石、ハルヒは反論出来ないみたいだな。 さて、これからはどうするか…。 このまま出たら、バレそうだな。 どうしたらいいのやら…。 「ハルヒ、取りあえず、尻尾だけは隠しとけ」 「分かったニャ」 俺は、部室から出て、この後どうするべきかを考えた。 まず、ハルヒを俺の家へ連れて行って…古泉か長門どっちが電話するしかないな。 はぁ、何か疲れたよ…。 俺は、大きく溜息した。 これからの目的をハルヒに伝えといたが…。 ハルヒが慌てたり嫌がったりゴロゴロと態度を変わってるのが面白かった。 「さ、帰るニャ」 漸く、落ち着いたようだ。 この後…俺達は、部室を後して学校へ出たのはいいか…緊急事態だ。 何故なら、俺達が歩いてる時に後ろから声が聞こえた。 「やっほー、キョン君とハルにゃん!」 鶴屋さんがやって来たのだ。 「あ、こんにちわ」 「キョン君とハルにゃん、今から帰るのかぃ!」 相変わらずハイテンションな人だな。 きっと、悩み事は無いのだろう。 「え、えぇ…そうです」 「おや、ハルにゃん!何この猫耳は?」 「……」 あ、ハルヒが真っ赤になって黙ったまま俯いてる…。 「んー、どうしたのかぃ?ハルにゃん?」 そうだ、誤魔化さないと。 「あ、ハルヒはですね…昨日、カラオケしてたので、喉が痛んでるんで…あぁ、これは罰ゲームですから」 「あー、そうかぃそうかぃ!私はでっきり、キョン君が何か変な事したんじゃないかと思ってて!」 うっ…これは痛い。 痛恨の一撃だ…。 「す、する訳無いですよ!」 「あー、あっやしい!」 と、ケラケラ笑う鶴屋さんが言う。 からかないで下さい鶴屋さん。 さっきまでは本当に大変なんですよ…。 「じゃ、二人とも、まだねぇ!」 はぁ、さっきより疲れが来た…。 俺は、横目でハルヒを見た。 まだ真っ赤になって俯いてるな。 俺もだけど。 「やれやれ…」 そして、帰路を歩いてる途中、まだ誰が来た。 「WAWAWA、忘れ物~」 ちっ、谷口かよ、こいつはチャックを開ける事が多いから「チャック魔」と呼ばれる可哀相な男だ。 「…うぉぅ!?キョンか…」 何だ、今の安心したような顔は…。 「いやー、実はさ…さっきナンパしたけどな…って、おわっ!?ハ、ハルヒ!?」 おぃ、気付くの遅いわ! 「キョン、これは新しいコスプレなのか?」 どこがコスプレに見えるんだ…。 「ネコ耳ねぇ、尻尾もあるのか?」 さぁ、自分で調べてみろ…殺されるぞ。 「え、遠慮しとくわ」 立ち去ろうとする谷口、腰抜けめ! 「あー、谷口」 「な、何だ」 「言おうと思ったけど、チャック閉め忘れてるぞ!」 「って、おわっ!マジかよ!?」 「あと…後ろ歩きしたら、危な…」 「おうわぁぁぁ…」 遅かったか…。 後ろにマンホールの蓋が外れてるから落ちるぞと言おうとしたのに…遅かったか。 「キョン!それを早く言えぇぇぇ…」 俺は谷口を救ってやりたい所だが…日々の恨みあるので無視しよう。 谷口を放って置いて俺の家に帰った。 さて、家に帰ったのはいいけど…生憎、親が居ないので助かった。 妹?アイツなら、野外活動へ行ったぞ 「あー、キツかったニャ…尻尾を隠すのにキツかったのニャ」 やっと、喋ったな…ハルヒ。 「ハルヒ、風呂沸いたから…風呂に入れ」 「うん」 ふぅ…流石に疲れた。 あ、これで言うの3回目だっけ? まぁ、いい…古泉に電話しとかないと… 「…ョン、キョン!」 「うぉわ!?ハ、ハルヒが…どぅ…」 俺の目の前には、全裸のハルヒがいた。 それは、どういう事だ。 夢なのか!夢なのか!? 「風呂の湯、熱くで入れないニャ!何とかしてニャ!」 「そ、そそ、それは分かったけど…お、おおお、お前…ま、前隠せよ!」 「え?」 ハルヒは、自分の体を見て、顔真っ赤になった。 「ニャァァァァァァァァァ…」 ハルヒの悲鳴は家中に響いた。 ――数分後 ……。 「ゴメン、ゴメンなさいニャ!」 俺は、怒ってるぞ…ハルヒ。 「あまりにも熱さで忘れてたニャ!」 へぇへぇ、そうかぃそうかぃ。 「ちょ、ちょっと聞いてるニャ?」 皆さんに、状況をお知らせしよう。 ハルヒは悲鳴を上げた後、俺の顔に引っ掻かれ風呂場へ逃げ出した。 で、ハルヒが風呂上がった後、自分で何をしたかを把握し謝ってる所だ。 「…で、どうすんだ?この傷はよ?」 「えっと、それは…その…」 戸惑うハルヒって可愛いな。 まぁ、許してやるかな。 「あー、分かった分かった。許してやるよ」 「え、本当?」 目を輝いて、尻尾を大きく振ってやがる。 「取りあえず、腹減ったな…」 今の時間は、もう7時過ぎてる。 夜食を出していい時間だろう。 「あ、あたしが作ってやるニャ!」 ハルヒは、そう言って台所へ向かった。 何分経ったのだろうか。 物音が聴こえない…まさかと思って見てみると。 ハルヒは、よだれを流しながら魚をずっと見てた。 「おぃ、ハルヒ…何やってるんだ」 「え?うわっ!はははは…つい魚を見てると食べたくなるニャ」 こりゃ、猫の本性だな。 「魚は俺がやるから、それ以外のを作れ」 「わ、分かったニャ」 さて、古泉と長門に電話するか。 俺は電話を掛け、古泉に電話した。 「もしもし、カメさん、カーメさんよー」 くだらん事言うな。 「あぁ、面白くなくて、すみませんね」 そんな事より、聞いてくれ。 「はい」 俺は、今までの出来事を説明した。 「…と言う訳だ」 「確かに、涼宮さんの願いによってこうなったと思いますね」 お前も思ってたのか。 どうすればいい。 「キスする事しかないですね」 ふざけるな。 「冗談ですよ、涼宮さんの願いを変えればいいんですよ」 あぁ、その手があったのか。 「と言う訳で、言いたい事は終わりです。では」 お、おぃ!…切りやがった。 明日でも会って殴る事にしようか。 次、長門に電話するか。 「…もしもし」 おぃおぃ、電話を掛けてから1秒も経ってないのに早いな。 「よっ、実はな…」 「状況は把握してる…」 それなら、説明しなくてもいいんだな。 「だったら…」 「あとは、あなたに任せる…おやすみ」 ちょっ…切りやがった…。 ってか、早い会話だったな、おぃ…。 明日でも軽く説教したい気分だぜ。 俺がブツブツ言ってる間に、ハルヒが来た。 「ご、ご飯出来たニャ…」 そんなに顔赤らめても困りますけど。 後は、俺が魚を焼くだけでやっと食べれる。 さっきから、台所の入り口から物凄く見られてるような気がするが…気のせいだと思うことにする。 「ほれ、出来たぞ」 「ゴクッ…」 …ずっと、魚を見てるな。 まぁいい、食べるか。 「いただきます」 「いっただきまーすっ!」 俺は呆然してしまった…何故なら。 合掌した後、すぐに俺の魚を奪いやがった。 「おぃ、ハルヒ…それは俺の物だぞ」 俺は、箸で魚を取り返そうとしたが…手に引っ掻かれた。 ハルヒは、フーーーッと言いながら尻尾立ってた。 あぁ、尻尾立ってるって事は、警戒してるってか。 「はぁ…やるよ…」 ハルヒの態度がゴロッと変わった。 「ありがとニャ!」 魚を奪いやがって…あぁ、いまいましい、いまいましい、いまいましいっ! こうして、夜食が終わった。 ハルヒよ、魚の恨み忘れんぞ。 この後、ハルヒがシャミセンと喧嘩したり、意味も無く壁を引っ掻いたりするから大変だった。 本人は無意識でやっただけらしい…本当に猫の本性を発揮してるみたいだな。 そして、寝る時間になった。 「なぁ、ハルヒ…元の姿に戻りたいと思わないか?」 「んー、戻りたいと思ってるニャ」 なら、簡単だな。 それにしても、何故、猫に? 「なぁ、一つだけ言っていいか?」 「何ニャ?」 ちょとんとするハルヒもまだ可愛いな。 「何故、猫になりたがったのだ」 「んー、猫になれば新しい発見出来るかなと思ってたニャ」 なるほど、単純な考えだ。 「それに…」 それに?何だ。 「あ、な、何でもないニャ!」 「そうか…」 俺は、牛乳入ってるコップを飲み干した。 ふぃー…美味! 「あ、キョン…口の辺りに牛乳が付いてるニャ」 「お、スマンな…」 ティッシュで拭こうと思った瞬間、ハルヒが信じられない行動をした! ハルヒが俺の顔に近づいて、口の辺りに付いてた牛乳を舐めたのである! 思わず、手で口を塞いだ。 「な!ななななななな…」 「あ!ゴ、ゴ、ゴメンニャ!も、もう寝るニャ!」 ハルヒは、素早く俺のベッドへ行き毛布を被って寝た。 俺は、石化してしまった。 翌日、ずっと固まってた俺はやっと動けた…。 「眠い…」 何でこった…昨日からアレのせいで石化してしまったとは…。 洗面所から出た途端、二階から何やらドタバタと聴こえる。 「キョン!猫耳と尻尾が無くなったわよ!」 ほぅ、それは良かったな。 「やったーやったー!」 子供のようにはしゃぐハルヒである。 「さて、朝食作るか…」 「あ、キョン、お礼に朝食作るから…その間寝ていいよ」 おー、スマンな。 ハルヒの手料理はおいしいからな。 「それに、昨日はゴメンね」 分かってるさ、アレは猫の意識だと言いたいのだろう。 さぁ、寝るとするかね。 キョン、ゴメンね。 本当は、あたしの意識でやっただけだからね。 お疲れ様…キョン…。 あたしは、嬉しくて料理いっぱい作っちゃった。 キョンって、全部…食べてくれるのかな? そう思いながら、キョンを起こしに行った。 「起きなさい!キョン!朝食よ!」 シャミセン「ニャア?」 完 「あれ?私の出番、無いんですかぁ~酷いですぅ~」
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桜が年に一度の晴れ姿を披露し始め、幾度も過ごしてきたこの季節がまたやってきた。 オレは大学3回生となり、時期的にそろそろ就職のことを考えなければならないが まだまだ学生気分に浸っていたい、そんな心境で日々を過ごしていた。 この季節になると、数年前のあの日のことを必ず思い出す。・・・オレが ハルヒと出会った日のことだ。 高校に入学早々、自己紹介で突拍子もないことを言ってのけたアイツは SOS団なる謎の団体を結成し、オレや他の団員を巻き込んで高校3年間 よくもまあここまでやれるもんだと関心するぐらい、精力的に動き回っていた。 …もっとも、その大半はオレを始めとした団員たちや、他の北高生の 平穏な高校生活をむやみにかき乱していただけなのだが、今思い返してみれば オレもその実行犯の一人だということにイヤでも気付かされる。 ともかく、そんな波乱な3年間を過ごしたオレであったが、物語はいつしか幕を閉じる。 終わりのこない宴が存在しないように、オレの高校生活も終わりを告げる日がやってきた わけだ。 オレは必死の受験勉強をしたおかげで、なんとか地元の有名私学に入ることができた。 もっとも、第一志望だった地元国立大学に合格することはできなかったが。 長門も家から近いという理由で同じとこを受験し、当然のごとく合格した。 成績優秀のハルヒはやはりというか案の定というか、あっさりその国立に合格した。 …アイツはオレたちと一緒の大学に行きたかったようだが、まさかオレが国立に 落ちるとは思わなかったらしい。どうやらオレの能力を過信しすぎていたようだ。 古泉はというと、都内の大学に進学した。転校前の地元だそうだ。 アイツがなぜハルヒと離れてしまったのかというと、実は高校3年間の間に、 いつのまにかハルヒの力が失われていたからだ。 ハルヒの監視という目的がなくなった機関は解散し、古泉は普通の学生に戻った。 長門はまだやることが残っているらしくまだオレたちの側に残っているのだが、 使命を終えた朝比奈さんは未来へと帰ってしまった。ハルヒには、長期の海外留学と説明したようだ。 こうして、SOS団の面々は計らずも離れ離れとなってしまった。 今日は久々に谷口、国木田と会う日だ。 オレたちは高校を卒業してもちょくちょく会っては現状を報告しあっている・・・というのは 建前で、基本的にみんな暇を持て余しているのだ。 国木田はハルヒと同じ国立大学に進学した。こいつもそれなりに優秀だったから 不思議ではない。谷口はというと、一浪した末になんとか近隣都市の大学に入ることが できたようだ。 待ち合わせの場所でしばし待つこと15分、ほぼ同じタイミングで二人はやってきた。 谷口「よーキョン、相変わらずヒマそうだな」 国木田「僕らも同じようなもんだけどね」 キョン「まあ、お互い相変わらずだな」 いつもの店に入ると、谷口とオレはビールを、国木田はカクテルドリンクを注文した。 コイツはアルコールに弱いので、いつも甘ったるいものばかり飲んでいる。 しかし、それが未だに童顔の国木田には気持ち悪いほど似合っているのだ。 昔一度だけコイツの顔がカワイイなどと思ってしまったことがあるのだが、 年上の強引なお姉さんたちに食べられたりしていないか、少し心配である。 国木田「ねえ谷口、この前言ってた子とは結局どうなったの?」 谷口「あーダメダメ、全然性格合わなくてさぁ。結局2ヶ月で終わった・・・」 谷口にはなぜかよく彼女ができるのだが、例外なく短期間で破局してしまう。 まあ、すべてはコイツの自己申告なので実体は不明であるが。 キョン「またフラレたのか・・・お前の人間性にはなにか根本的に問題があるようだな」 谷口「誰もフラレたなんて言ってねえよ。性格が合わなかったんだ」 キョン「その言い訳はもう3回目になるぞ」 谷口「うるせぇ!オレのことはいい。お前こそどうなんだよ?いい加減涼宮のことは 忘れたらどうだ?」 国木田「そうだね。キョンは少し引きずりすぎだと思う」 キョン「ハァ・・・何度も言ってるだろ?アイツには元々恋愛感情なんて抱いちゃ いなかったっての。そろそろ理解してくれよ」 国木田「ふーん・・・そういえば涼宮さん、また新しい彼氏できてたみたいだけど?」 キョン「・・・知ったこっちゃねえよ」 ハルヒは大学に入学すると、はじめのうちはSOS団的なサークルを結成して 高校の頃と同じようなことをしていたらしいが、さすがに大学生ともなると 誰もハルヒについてこなかったらしい。・・・まあ、高校のときだってオレたち以外は アイツについていけなかったんだろうが。 高校を卒業すると、朝比奈さんを除いた元SOS団のメンバーは極端に会う機会が 少なくなった。オレは長門と同じ大学なのでしょっちゅう顔を合わせているが、 ハルヒは少し離れた国立であり、古泉にいたっては都内の大学のため、 全員が集まる機会といえば年に1、2回しかなかった。 国木田「涼宮さん、いつも不機嫌そうな顔してるよ?高校のころはあんなに楽しそう だったのに・・・キョンもたまには一緒に遊んであげなよ」 キョン「・・・まあ時間があればそうするよ」 国木田「さっき暇だって言ってたくせに・・・」 キョン「新しい彼氏ができて、アイツだっていろいろ忙しいだろ?」 それに、もうハルヒにつきあって不思議探しをするような歳でもあるまい。 アイツだっていつまでも子供みたいなことをやってる訳にいかないんだ。 つまりは、そろそろ大人になるべきなんだよ。 たしかにハルヒの力が消えて、みんなが離れ離れになってしまったことは悲しい。 正直言うと、オレはいまだにSOS団のことを夢に見る。あのころの楽しかった思い出の 数々をな。これは断言できるが、高校時代のオレは今の20倍充実した毎日を過ごしていた。 夢から覚めると、オレはいつも深いため息をついてしまう。 まれに泣いてしまうときだってあるんだ。できることなら、オレはあのころに戻って またみんなと不思議探しに興じてみたい。 だが、そんなことは不可能なんだ。 夢を追いかけるのはほどほどにして、普通の生活を考えてみてもいい年頃だ。 なによりオレたちの目と鼻の先には社会という荒波が待ち構えている。 そこに飛び込んでいくには、SOS団団長の肩書きではなにかと不都合が多いだろう。 などと考えていたら、はやくも酒の回った谷口が絡んできやがった。 谷口「心にもないことを言うんじゃねえ。いいか?お前はな、涼宮と付き合うべきだったんだよ」 …やれやれ。今日もコイツの愚痴につきあわねばならんようだ。 谷口「お前たち・・・いや、お前と一緒にいるときの涼宮は本当に楽しそうだった。 中学時代、3年間のほとんどを仏頂面で過ごしてたアイツがだ。アイツの6年間を 見てきたオレが言うんだ。それは間違いない」 キョン「・・・」 谷口「なぜだかわかるか?・・・涼宮はお前のことが好きだったんだよ。 それもベタ惚れだった。好きな男と一緒にいられるなら、退屈な学校生活だって 毎日が楽しいイベントになるだろうよ。お前は涼宮の気持ちに気付いてなかったのか?」 キョン「・・・まあな」 本当のことをいうと、アイツの気持ちにはうすうす気づいてはいた。 しかしオレは次の段階に進むことをためらった。いつまでもSOS団の輪の中に いたかったんだ。しかし朝比奈さんがいなくなり、ハルヒや古泉と離れて しばらくしてからようやく気づいた。・・・始まりがあれば、必ず終わりは来るってことにだ。 SOS団はオレたちの卒業と共に終わってしまったんだ。 そのことに気付いたときにはもう手遅れだった。ハルヒは寂しさを紛らわすためか 大学で彼氏を作り、なんとかキャンパスライフに適応しようとしていた。 つまりオレより先に次の段階に進んだってわけだ。・・・お相手の違いはあるが。 かくいうオレは大学に入って2年あまりが過ぎたっていうのに、いまだに 足を踏み出せないでいた。 だからこんなふうに、谷口や国木田としょっちゅう顔を合わせては 高校時代の話に花を咲かせてたってわけだ。 谷口「いいかぁ、キョン!まだ遅くはねぇ。すぐに涼宮んとこ行って強引に キスのひとつでもしてこい!それから、アイツとの時間を取り戻すんだ」 だめだ。そろそろ下ネタタイムの始まりだ。オレは谷口から目を離し、 国木田に顔を向けた。なにやら携帯を熱心にいじっている。 どうやら彼女とメール中らしい。・・・一度国木田と一緒にいるところを見かけたことがあるが、 かなりかわい子だった。大学の後輩らしい。谷口とオレが無理矢理聞き出したところによると、 いまだに一線は越えられないみたいである。ま、コイツらしいっちゃらしいんだが。 オレの視線にきづいたのか、国木田はおもむろに顔を上げた。 国木田「ん?ああ、ゴメンゴメン。谷口が暴走し始めたみたいだね」 キョン「お前はどうなんだ?彼女とはうまくやってるのか?」 国木田「もちろんだよ。そうそう、この前さぁ・・・」 墓穴を掘ってしまったようだ。国木田は彼女とのノロケを語り始めた。 谷口は谷口でアンダーグラウンドな演説を繰り広げては、定期的にオレに同意を求めてくる。 ……オレは聖徳太子じゃないんだ。二人同時にしゃべらないでくれ。 まあ、どうせ記憶するに値しない内容だということは間違いない。 オレは二人に気付かれないように大きくため息をついた。 ハルヒサイド ハルヒの通う国立大学は都市の中心部からやや離れた場所にあった。 最寄り駅は急行すら止まらないという立地条件の悪さである。 学生たちは大学の計画性のなさと鉄道会社の方針を呪いながらも、 律儀に時間をかけて大学まで通っていた。 ハルヒ「谷川!あんた今日時間ある?」 谷川「唐突にどうしたんだ?今日は夕方からバイトだって言わなかったか?」 ハルヒ「聞いてないわよそんなこと。それよりちょっと話があるんだけど」 谷川「相変わらず人の話を聞かないヤツだな・・・バイト終わってからにしてくれよ」 ハルヒ「しかたないわね・・・」 谷川と呼ばれた男は、どうやらハルヒの新しい彼氏らしい。 それなりに整った顔立ちをしているが、特にこれといった特徴のない男である。 それから数時間後、 谷川「よ、待ったか?」 ハルヒ「遅いわよ!今日もアンタのおごりだからねッ!」 谷川「おいおいカンベンしてくれよ・・・バイトだったんだから仕方ないだろ」 ハルヒ「だーめ!付き合う前に言ったでしょ?待ち合わせに遅れたらおごりだって」 谷川「・・・・・」 男はハルヒの横暴に不満のようである。だが言い争う気力までは持ち合わせていないようだ。 ハルヒたちはなじみのイタメシ屋に入っていった。 谷川「で、話ってなんだ?」 ハルヒ「この前言ったでしょ?大学の裏山にUFOが着陸したって話! あれね、また目撃者が現れたらしいわよ!」 谷川「おいおい、またオカルト話かよ・・・」 ハルヒ「相変わらず反応悪いわねえ。まあいいわ。私ね、目撃者に直接話を聞いたのよ。 そしたらなんと!UFOから宇宙人が出てきたらしいわよ!」 男はうんざりした口調で適当にあいづちを打っていた。どうやらオカルト話には 心底興味がないらしい。 ハルヒの一方的な話は小一時間ほど続き、それが終わると二人は店を出た。 夜は更け、そろそろ終電を気にしなければならない時間となっていた。 しかし二人は駅に向かうどころか、反対方向に向かっていた。 いつのまにか男はハルヒの肩に手を回している。 しばらくして薄明かりを放つ建物群が見え、二人はその中のひとつに消えていった。 谷川「ハルヒ・・・」 男はハルヒの唇を強引にふさぎ、彼女の胸のあたりを乱暴にまさぐり始めた。 ハルヒ「ン・・・あッ・・うん・・・」 しばらく悶えていたハルヒは息苦しくなったのか、男の唇から逃れるように顔を離した。 ハルヒは肩で浅い息を繰り返しながら、男の顔を少しばかり睨んでいる。 ハルヒ「・・ハァ・・ハァ・・・・強引なのはキライって言ったでしょ」 谷川「悪いな。これでも手加減したつもりだぜ?」 そういうと男はハルヒをベッドに押し倒した。 ハルヒ「もう!言ってるそばから!」 谷川「そう怒るなって」 そういうと再びハルヒの口をふさぎ、なれた手つきで服を脱がしにかかる。 男は上着を剥ぎとり、シャツをめくりあげてブラのホックをはずした。 形のいいハルヒの乳房が露わになる。 ハルヒ「ンン・・!・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」 谷川「いつ見てもキレイな胸だな」 男はそういうと、ハルヒの乳房に顔をうずめた。 男は十分に乳房の柔らかさを堪能し、乳首を口に含んで舌の上で転がし始めた。 器用なことに、同時にハルヒのシャツを脱がしにかかる。 ハルヒ「あッ・・・ぅあ・・・」 男になすがままにされているハルヒは、どこか心ここにあらずといった様子だった。 ハルヒの上半身を剥き終わった男はすばやくシャツを脱ぎ、彼女のスカートに手をかけた。 ハルヒは体をよじって少し抵抗するそぶりをみせる。男はハルヒを抱き寄せ、再び口をふさいで 露わとなった乳房を揉みしだいた。 除々にハルヒの抵抗は弱まっていき、やがて完全に男のなすがままとなった。 スカートを脱がし、同時にズボンを脱ぎ捨てた男は、しばらくハルヒの口をふさぎながら 胸の感触を楽しんでいたが、やがてお腹のあたりを なでさするようになり、その手は除々に下へと向かっていった。 男はハルヒのパンツにそっと手を差し入れ、彼女の林泉にふれた。 そこはすでに熱く熟しており、十分に湿りを帯びていた。 男の口腔はハルヒの口から乳房へと目標を変え、その柔らかさをゆっくり味わいながら 右手は彼女の秘部をゆっくりと、ときに強くさすっている。 ハルヒ「ン・・・あんッ!・・・・・だめ・・」 男(そろそろ頃合いか・・・) 男は両手でハルヒを覆う最後の布きれに手をあて、さっと引き下ろした。 自らも生まれたままの姿になると、再びハルヒの林泉に手をあてがう。 男「・・・いいか」 ハルヒ「ちょ、ちょっと待って!・・・アンタ、ゴムはちゃんとつけたでしょうね・・・?」 男「今日は安全日のはずだろ?たまには」 ハルヒ「つけないと殺すわよ。いいからはやくして」 男(チッ・・・やれやれ) 男はしぶしぶハルヒの言葉に従うと、彼女のそこに自分自身ををあてがい、 そのまま一気に腰を押し付けた。 ハルヒ「あッ!」 ハルヒが短く声を発したが、男はかまわず腰を動かして彼女の中の感触を楽しんでいる。 男(これはこれでいい具合だが、一度でいいからナマで味わいたいもんだ) 男が腰を動かすたびにハルヒは喘ぎ声を漏らしている。 最初は大きく動いていた男の腰は、だんだんと小さく小刻みに動きはじめる。 谷川「くぅっ・・・そろそろイクぞ」 ハルヒ「あ・・・ちゃんと外でイッてよ」 谷川「ああ・・・うぁッ・・っく・・・」 男は素早く自分自身を彼女の中から出し、短く声を発すると同時にハルヒに覆いかぶさり、 そしてしばらく動かなかった。二人とも肩で浅い息を繰り返している。 しばらくすると、ハルヒが小さく泣き声を上げはじめた。 声を押し殺してはいるが、それでも細い泣き声が少しずつ漏れ出しているような泣き声であった。 男は特に驚く様子はなく、ベッドに腰をかけると上着からタバコを取り出し、火をつけた。 谷川(またこれだよ・・・一体なにが悲しいんだ・・・?いい加減うんざりだ・・・) 行為が終わったあとは、彼女は例外なく声を押し殺しながら泣きだすのだ。 最初は彼女を傷つけてしまったのではないかと心配し、必死でなぐさめてもいたが だんだん慣れてくるようになると彼女を心配する心は失せていった。 一度声を荒げて泣くのをやめるよう脅したが聞き入れられず、 今はもうあきらめているようだ。 谷川(ふーッ・・・態度は横暴だわ話すことは電波なことばかりだわ、 そろそろコイツには付き合いきれねえな・・・) 男は枕に顔をうずめるハルヒを横目に見ながら、ゆっくりと煙を吐き出した。 谷川「・・・とまあこんな調子だ」 ツレA「もう限界じゃね?」 谷川「そうなんだが、一度でいいからナマでやっときたいんだ。アイツ性格はアレだが、 体はメチャメチャおいしいんだぜ?」 ツレB「おいおい、ノロケはカンベンしてくれよ」 谷川「バカいうな。あんなの好きになる男がいるわけねえだろ? アイツと付き合い出してからのオレの苦労知ってるだろうが」 ツレA「ぶはははは!そりゃいつも聞かされてるからな」 ツレB「そもそもなんで付き合ったんだよ?」 谷川「だからいったろ?アイツの体すっげーいいんだって」 ツレB「それは同感だ。服の上から見てもあのプロポーションにはそそられる」 ツレA「でもナマじゃさせてくんないんだろ?・・・お前って危ない橋渡るの好きだからなあ」 谷川「あの感触味わったら誰だって戻れなくなるって・・・なあ、なんかいい方法ないか?」 ツレB「そうだな・・・こんなのはどうだ?」 そういうとツレBはバッグからなにかを取り出し、男の顔の前に出した。 谷川「なんだこれ・・・錠剤・・・か?おい、これヤバいもんじゃないだろうな?」 ツレB「・・・人聞きの悪いことを言うな。ただの睡眠薬だ」 谷川「なんでお前が持ってるんだ?」 ツレB「精神科に通院してるツレからたまに譲ってもらうんだよ。これを粉末上にしてだな・・・ 落としたい女の酒にそっと入れれば、後は寝るのを待つだけさ。 いやぁ、睡眠薬ってヤツは実にアルコールとよく合うんだ。たとえ少量でも 相乗効果ってヤツでな。朝までグッスリだよ」 谷川「お前そんなことしてたのか・・・少し危ないヤツだとは思ってたが、 いよいよ縄がかかる日も近いな」 ツレB「お、そんなこと言うのか?じゃあこれは見なかったことに」 谷川「おおおっと!誰もいらないなんて言ってねえぞ。オレたち友達だろ?」 ツレB「だってお前、縄はかけられたくないんだろ?」 谷川「彼女をちょこっと眠らせるだけだ。なにも問題ない」 ツレB「しかたねえな・・・今日は特別、友達価格でひとつぶ二千円にしようか」 谷川「ちょ、金とる気かよ!」 ツレB「当たり前だ。仕入れ価格だってあるんだぞ」 谷川「・・・まあいい。ひとつくれ」 ツレB「まいどありぃ!」 ツレA「オレ聞かなかったことにしよ・・・」 次の日の夜、男はハルヒを近くの飲み屋に誘った。 なんの変哲もない、普通のチェーン系の店である。 ハルヒ「なによ、突然呼び出したりして」 谷川「いやぁ、急にお前と会いたくなったんだ」 ハルヒ「うさんくさいわね。なんか企んでるんでしょ」 谷川「おいおい、彼女に会いたいっていうのに理由なんてないだろ?」 ハルヒ「大学でしょっちゅう一緒にいるじゃないの!・・・まあいいわ」 ハルヒは再びUFO目撃談について語り始めた。男は彼女の機嫌を損ねないように 熱心に話を聞くふりをしながら、薬を盛る機会をうかがっていた。 ハルヒ「・・・でね。そのとき、六甲山山頂の牧場にUFOが」 谷川「ふんふん、それで?」 ハルヒ「ふうっ、ちょっと疲れたわね」 ハルヒはそう言うと席を立った。どうやらトイレに行ったようである。 谷川(チャンス到来!!) 男はハルヒのカクテルグラスに粉末にした睡眠薬を入れ、よくかき混ぜた。 ハルヒ「お待たせッ!えーと、話の続きは・・・」 男は薬の効果に気が気ではなく、話の内容などもはや全く聞いていなかった。 ハルヒは話の途中で薬入りのグラスを空け、追加のカクテルを注文した。 男(よし!第一段階は成功だ) ハルヒはさらに話を続けたが、そのうちにだんだんロレツが回らなくなり、 ついには話をやめてテーブルに手をついた。 ハルヒ「あれ・・・おかしいわね・・・今日は・・・そんなに・・・眠く・・・ない・・のに・・」 谷川「おい、大丈夫か?・・・だいぶ疲れてるみたいだな。そろそろ家に帰ったほうがいいぞ」 ハルヒ「そうね・・・そうするわ・・・・」 男は会計を済ませ、ハルヒを抱えながら店を出た。 彼女の肩を支えながら歩いていたが、その方向は駅とは正反対のほうへ進んでいた。 谷川「まさかこんなにうまくいくとは・・・」 ホテルに着くとハルヒをベッドに寝かせ、タバコに火をつけた。 谷川「今日は安全日だよな。・・・コイツの周期はトコトン規則正しく 動いてるからな。性格はねじ曲がってるクセにホント関心するよ。 ・・・ま、これでいよいよオレの念願が果たせるってわけだ」 焦っていたせいか男は半分あたりでタバコの火をもみ消し、ハルヒに近づいていった。 谷川「お休みのところを失礼するよ、子猫ちゃん」 男は素早くハルヒの着衣を脱がした。 谷川「寝てる人間の服を脱がすのは結構難儀なモンだな・・・」 ハルヒは男に剥かれ、生まれたままの姿を晒した。 男は自らも服を脱ぎ捨て、ベッドに横たわる彼女を抱きしめた。 ハルヒ「うん・・・キョン・・・」 谷川(まただ。こいつの寝言はこれで何回目だ?キョン・・・ってなんだ? まさか人の名前・・・じゃないよな。そんなヤツいるわけねえもんな・・・ まあいいか。コイツの寝言を聞くのもこれで最後だ) ハルヒの秘部に手を触れた男は大胆に動かし始める。 小刻みに動かすと彼女は小さく声を上げ、少し奥まで手をのばすと 短く声を上げた。 谷川「そろそろ頃合いだな・・・」 男は自分自身を彼女の秘部にあてがい、ゆっくりとすべり入れた。 谷川「くっ!!これは・・・きく・・・いい・・・」 薄いゴムを隔てた感触とはくらべものにならない快感が男を襲った。 快楽に酔いしれた男は自然と腰の動きが早くなった。 谷川(最高だ・・・コイツの性格さえよければ・・・もったいねえな・・くっ!) 腰の動きに合わせてハルヒも小さく声を上げる。 除々に間隔が短くなっていき、快楽に溺れた男はすぐに果てた。 谷川「うっ!くっぅぅぅうう・・・ハァ・・ハァ・・ハァ・・・」 どうやら男は、ハルヒとつながったまま果ててしまったようだ。 しばらく肩で息をしていた男は、しばらくしてから再び腰を動かしはじめた。 谷川(こんないいモノを一回で終えてしまうことはない) それから男は再び彼女の中で果て、しばらく休んではまた腰をふって果てるという動作を 力の続く限りくり返した。 やがて男は力尽き、深い眠りに落ちた。 谷川(・・・ン) 数時間経ってから男は目を覚ました。 谷川(あれから何時間経った・・・?) 目を覚ました男はタバコに火をつけた。 谷川(中出しした後始末はつけとかなきゃな・・・アイツに殺されかねん) ハルヒはいまだに目を覚まさないようだった。男は彼女の膣内から精液をふきとり、 一応の痕跡を消した。 外はすっかり明るくなり、普段の朝の喧噪をかもしだしていた。 谷川(今日は朝からゼミがあるからな。そろそろ学校にむかわないと) 男はシャワーを浴びて服を着た。それからまたタバコに火をつけ、吸い終わると 一万円札を一枚テーブルに置き、部屋を後にした。 それからしばらくしてハルヒは目を覚ました。 ハルヒ「・・・うぅ・・ここ、どこなのよ・・・」 ハルヒは携帯のランプが点滅していることに気付くと、すぐにメールを確認した。 ハルヒ「・・・アイツが連れ込んだってわけね。しかも一人で先に帰るなんて・・・」 しばらく携帯を見つめていたハルヒは、やがて顔を枕に埋めて嗚咽をもらしはじめた。 ハルヒ「うう・・・ヒッグ・・・グス・・・ホント・・なにやってんだろ・・・私・・ キョン・・・キョン・・・私・・どうしたらいいのよ・・・」 ハルヒの嗚咽は徐々に大きくなっていき、やがて声を上げて泣きはじめた。 キョンサイド 新学期が始まって2週間ほど経過し、長かった春休みの余韻も除々におさまりかけていた。 午前の授業が終わり、昼休みになるとオレは大学生協の食堂へと向かった。 大学図書館の前を通りかかると中から長門が出てくるのが見えた。 キョン「よっ、相変わらず勉強熱心だな」 長門「私の学部は3回生になっても語学が必修。だから予習していた」 キョン「それはお疲れだったな・・・お前の予習は、一般学生の 試験勉強並みのボリュームに相当するからな」 今の長門は昔に比べてかなり能力が制限されているらしい。通常時はほとんど 一般人と変わらないようだ。とはいえ頭の出来は相変わらずのようだが。 長門「他文化の言語でコミュニケーションをとるためには、 情報伝達に齟齬が発生しない程度に熟知している必要がある」 ネイティブスピーカーになりたいのかお前は?まあ長門が専攻する文化歴史学という ヤツは、対象となる国の言語にある程度精通する必要があるらしい。 ただし、研究者レベルの話ではあるが。 ちなみにオレは法学部だ。・・・今笑ったヤツ、腕立て伏せ50回な。 長門「今から食堂?」 キョン「ああ。お前はどうする?」 長門「・・・一緒に行く」 オレと長門は並んで歩き出した。 長門は高校のころと比べてよく話すようになった。それにいろんな表情も見せるように なっていた。まあ、あくまで本人比の話だから、回りからみればおとなしいというか どこか浮世離れした印象があるらしいが。しかし長門は長門なりに人とのコミュニケーションを 学んだのだろう。大学になって同姓の友達が何人かできたようだ。 いわゆるおとなしいグループってやつだが、なにがあっても動じない彼女は 回りから頼られることが多く、それなりにリーダーシップを発揮しているようだ。 昔を思い返せば、今の長門を見るとほほえましく思う。 …あのときからまるで成長していないオレとはえらい違いだな。 長門とたわいのない話をしているうちに食堂に着いた。 オレたちは席を確保し、それぞれ定食と大盛りカレーを運んできた。 キョン「次の日曜日ヒマなんだ。どっか出かけないか?」 オレの提案に長門は黙ってうなずく。・・・断っておくが、オレたちは別に付き合っている わけではない。 普段バイトをしていない長門は休日になるとたいてい大学の図書館か、そうでなければ自宅に 籠もっている。昔は週末になればSOS団で不思議探しに興じていたわけだが、今はもうやっていない。 思えばあれは長門にとっていい外出の機会だったのだろう。大学に入ってからは あまり外で活動することがないようだ。 というわけで、いい若者が年がら年中屋内で活字を眺め続けるのもいかがなものかと思い、 このオレが機会を見つけては彼女を課外活動に連れ出しているってわけだ。 キョン「どこか行きたいとこあるか?」 長門「・・・二条城」 えらく渋い選択だが、長門が行きたいっていう所ならどこでもかまわない。 オレは即座に同意した。 キョン「ついでに映画でも見ようぜ。今見たいのがあるんだ」 長門「どんな映画?」 彼女は少し微笑みながら聞き返した。 キョン「えっとな・・・ん?」 混雑した食堂の中には見知った顔が何組かいるようだ。 そいつらはオレたちを見つけると、いつもニヤケ顔をしながら意味ありげな視線を送ってくる。 ヤツらは清く正しく交際中の男女をからかっているつもりらしい。・・・やれやれだ。 オレは長門との関係を何度か簡単に説明してやったのだが、ヤツらはどうやら理解できなかったようだ。 最近の大学生の知能低下を嘆きつつ、オレは軽くため息をついた。 そんなオレの様子に長門は首をかしげ、不思議そうな顔で見つめていた。 ハルヒサイド あれから2週間あまりが過ぎた。ハルヒはその間ずっと憂鬱な気分で過ごしていた。 酔いつぶれた自分をホテルに連れ込み、あげくの果てにそのまま放置して帰った彼氏に ずっと憤りを感じていたのだ。 ハルヒは大学生になってから何人かの男と付き合った。しかし彼らはハルヒの内面ではなく、 彼女の体に惹かれただけであった。 ハルヒが彼らと過ごした時間はあまり充実したものとはいえなかった。 誰もがハルヒと真剣に向き合うことはなく、彼女はそれに気づきながらも 寂しさを紛らわすためか、求めに応じて体のつながりを許していた。 一方、ハルヒとの念願を果たした男はその後彼女と距離を置くようになった。 どうやら後腐れなく別れようと企んでいるらしい。 そんな男に用があったのか、その日ハルヒは昼休みに彼を捕まえた。 ハルヒ「・・・久しぶりね」 谷川「あ、ああ。この前は悪かったな。朝からゼミがあったんだ」 ハルヒ「そのことで話があるの」 谷川(・・・まさかバレたんじゃないだろうな) 男がこわごわハルヒの表情を盗み見ると、彼女は心配事でもあるのか、不安げな表情をしていた。 それから自信なさげに口を開いた。 ハルヒ「あれからね・・・・・こないのよ」 谷川「ん、なんのことだ?」 ハルヒ「だからこないの!・・・わかるでしょ?」 ハルヒの突然の言葉に男はかなり動揺した。 谷川(ちょ、ちょっと待て・・・あのときは間違いなく安全日のはずだ。 ・・・そんなはずはない。ただ遅れてるだけだ、動揺するな) 男は内心の動揺を悟られないように平静を装った。 谷川「しっ!声がでかいぞ。・・・ただ遅れてるだけなんじゃないのか?」 ハルヒ「今までこんなこと一回だってなかったのよ!・・・あんたまさかあのとき」 谷川「バカをいうな。お前がそれをいやがるってことはよくわかってるんだ。 ・・・それより、ちゃんと確かめたのか?」 ハルヒ「・・・まだよ」 谷川「じゃあすぐに検査薬買ってこい」 ハルヒ「・・・・・」 ハルヒはしばらく男をにらんでいた。ハルヒの視線から目をそらしていた男は、 2週間前の彼女の寝言をふと思い出して彼女にたずねた。 谷川「おい、キョンってなんのことだ」 ハルヒ「!?・・・知らないわよ」 思いがけない問いに動揺したハルヒは男から視線をそらし、後ろを向いてその場を走り去った。 谷川「やれやれ、最悪の場合も考えておいたほうがいいな」 ハルヒはその足で薬局に向かい検査薬を購入した。その結果は・・・陽性だった。 彼女はその場で男に電話をかけた。 ハルヒ「・・・・・今から時間ある?」 谷川「悪い、これから夜までバイトだ」 ハルヒ「大事な話なの。なんとか時間空けてよ」 谷川「今日はどうしても休めないんだ。・・・バイトが終わってから聞くよ。 北口駅前の広場で待っててくれ」 そういうと男は一方的に電話を切った。 ハルヒ「あ、ねえ!ちょっと!・・・」 ハルヒは電話を持ったまま腕を垂れ、その場でうなだれた。 ハルヒ「なんてことよ・・・私、どうしたらいいの・・・」 男のバイトが終わるまでハルヒは待ち合わせ場所のベンチに座っていた。 男が指定したのは、かつてSOS団で不思議探索を行ったときや、その他のイベントの際に 集合場所として使っていた広場である。 ハルヒにとってはイヤというほど見慣れた場所だった。 待ち合わせの時間にはまだ4時間ほど早かった。 彼女はなにをするでもなく、ただぼんやりと高校時代の楽しかった日々をくりかえし 思い返していた。 今となってはもう戻ることのできない、あの充実した日々のことを。 不意に涙がこぼれそうになったが、彼女は持ち前の気丈さでなんとか耐えた。 やがて時間となり男が現れた。 谷川「待たせたな。・・・結果は?」 ハルヒ「陽性・・・みたい」 ハルヒが重い口を開くと、男は大きなため息をついた。 谷川「まだ妊娠と決まったわけじゃない。近いうちに病院へ行って ちゃんとした検査を受けろ」 男は、厄介なことをしてくれたとでも言いたげな様子である。 ハルヒ「・・・あんた、なんでそんなに落ち着いてられるのよ。私が妊娠したかも しれないってのに。私のこと心配じゃないの?」 谷川「心配してるさ。でもオレがここで慌てふためいたところで 事態が変わるわけじゃないだろ」 男は淡々とした口調で言った。 谷川「それはそうとな・・・」 ハルヒ「なによ?」 谷川「キョンって男、お前が高校のときの彼氏なんだって?」 突然キョンの名前を出されたハルヒはまた動揺した。 谷川「ヘンな名前のヤツだな。まさか本名じゃないだろ?」 ハルヒ「関係ないでしょ!なんであんたがそんなこと知ってんのよ!」 谷川「元北高のヤツならみんな知ってるみたいぜ?北高出身のツレに聞いたよ。 とっても仲がよかったみたいだな。今でもたまに会ったりしてるのか?」 男の言い草に驚いたハルヒだが、なんとか動揺を押し隠しながら口を開いた。 ハルヒ「・・・なにが言いたいの?」 谷川「お前が妊娠してるとしてもな、その、原因が気になるんだ。 その男はどうなんだ?最近してたのか?」 ハルヒは男の冷淡な物の言いかたに再び驚かされた。 ハルヒ「あんた・・・私がそんなことするとでも」 谷川「お前のな、キョンって寝言はよく聞かされてたんだよ」 ひときわ大きい声で言い放った男の言葉にハルヒは絶句した。 谷川「それにお前、意味もなく泣き出したりするよな。もしかしてそいつのことを 考えてたんじゃないのか?」 男の言葉にハルヒは返す言葉がなかった。自分が今だにキョンのことを忘れられずにいるということを 男から指摘されて動揺したからだ。そんなことは彼女自身自覚してはいなかった。特に寝言の話は初耳である。 ハルヒの沈黙を肯定と受け取ったのか、男はさらに言葉を重ねた。 谷川「お前に限ってそういうことはないと信じてたんだけどな・・・残念だよ」 ハルヒ「勝手なこと言わないで!・・・私あんたと付き合ってからは、ずっとあんただけよ」 谷川「どうだかな・・・これもいい機会だ。いい加減お前には付き合いきれないと思ってたんだ。 そろそろ終わりにしよう。オカルト話の続きはそのキョンってヤツとしてくれよ」 ハルヒ「いきなりなに言い出すのよ・・・まさか逃げる気なの?」 谷川「人聞きの悪いこと言わないでくれ。性格の合わないお前とはもう付き合えないって言いたいだけだ。 妊娠は・・・ま、たしかにオレが原因の可能性もある。その始末はつけるさ。」 先ほどよりもさらに冷淡な物言いだった。ハルヒは男の表情を見てわずかに寒気を感じた。 谷川「病院へ行くんだ。もし妊娠が本当だったら、オレも中絶の費用を負担する」 ひとつの命を消してしまおうというのに、それがさも当然であるかのように男は言った。 ハルヒ「あんた・・・・」 ハルヒの声は震えていた。どちらかといえば人情家の彼女にとって男の冷酷さはこたえた。 谷川「今日はもう帰るよ。手遅れにならないうちにはやく病院行けよ。 結果がわかったらすぐに連絡してくれ」 ハルヒ「・・・・・」 そう言うと男は足早に去っていった。 ハルヒは悔しさのあまり体を震わせながら涙をこぼしていた。 もはや彼女の気丈さをもってしても、あふれる涙を止めることはできなかった。 キョンサイド 5月の連休を数日後にひかえたある日、オレは図書館の前で長門が出てくるのを待っていた。 時計の針は12時を指そうとしているところだ。 空は晴れ渡り、道ゆく学生たちは早くも連休に心を馳せているのか、妙に浮かれているようだ。 しばらくすると入り口から長門が出てきた。 彼女はオレに気づくと早足に駆け寄ってきた。 長門「待っててくれてたの?」 キョン「勉強の邪魔しちゃ悪いと思ってな。一緒に昼飯どうだ?」 彼女は黙ってうなずいた。とりとめない会話をしながら二人で食堂まで歩く。 食堂の中は当然のごとく混雑していたが、いつものように二人分の席を確保できた。 キョン「もうすぐ連休だな」 長門「・・・なにか予定ある?」 キョン「連休は毎年親戚の家に行くことになってるんだ」 長門「・・・そう」 少し残念そうな顔でうつむく長門。 キョン「・・・前半だけな。あとはヒマなんだ。よかったらまたどっか行かないか?」 そう言うと、長門は顔を上げてうなずいた。その表情は微笑をたたえている。 オレは長門の笑顔を見るとなぜかうれしくなってしまう。 長門の顔を眺めていると、彼女は少し不思議そうな顔をして見つめ返してきた。 二人の視線が一瞬ぶつかり合い、オレは照れながら視線を外した。 長門「・・・また京都に行きたい」 キョン「お前ホント好きなんだな。今度はどのあたりだ?」 オレが質問すると、長門はカバンからパンフレットのような冊子を取り出して 説明をはじめた。 長門「まずはここ。1000年前に建てられたこの建物は・・・」 長門がめずらしく雄弁に語る姿を見つめながらオレはゆっくりと食後のお茶をすすった。 …断っておくが、これはあくまで課外活動の一環である。 連休中ずっと図書館にこもりきりじゃ味気ないだろうしな。たまの屋外での経験も長門の勉強にとって 必要に違いない。書を捨てよ、町に出ようってとこだな。 それから数日が過ぎ、オレは親戚の家で貴重な連休の前半を費消した。 それが終わると、いよいよ長門との課外活動の日となった。 今日の天候は快晴、これほど課外活動にふさわしい日はないだろう。 待ち合わせ時間の30分前に北口駅前広場に着くと、すでに時計台の下に長門の姿があった。 彼女はオレに気づくと微笑みながら手を上げ、こっちに歩いてきた。 今日の長門は白いブラウスにスカート、青いカーディガンを羽織っている。 見た目の華やかさよりも素朴なさわやかさを重視したファッションは実に長門らしい。 手を振りながら微笑むその姿は、まるで町に現れた春の妖精のようだ。 キョン「待ったか?」 オレがそう言うと長門はわずかに首を振った。 それにしても、今日の長門はいつにましてキレイだな・・・。 透き通るような白い肌、うす紅に色づいた唇、そして まぶたにはわずかにアイシャドーを入れているようだ。 …不覚にもしばし見とれてしまった。突っ立ったままボーっとしているオレに 長門は声をかけた。 長門「・・・いこ」 キョン「あ、ああ。すまん」 オレは長門と並んで駅まで歩き始めた。 本日の予定は午前と午後の二段構成である。 午前中は市内で長門ご推薦の寺院を巡り、午後から嵐山のハイキングコースへ向かうことになっている。 混雑する電車に乗り、オレたちは一路京都へと向かった。 午前中は長門の案内により、バスを乗り継いで寺院を巡った。 長門が選んだスポットはあまり有名ではないらしく、GWとはいえ混雑はしていなかった。 まあ移動手段の混雑は避けられなかったが。 長門曰く、それらは歴史的価値のあるものばかりだったらしい。 しかし今日のオレは、さなぎからかえったばかりの春の妖精に目が釘付けだったため 隠れた歴史的遺物の価値を認識することはできなかった。 オレは気がつくと長門を見つめており、彼女はそんなオレの視線に笑みを返してくれた。 11時半を過ぎたあたりであまり混んでいない喫茶店に目をつけ、軽い昼食を済ませた。 その後もしばらく店内で休み、午後からの英気を養った。 それからオレたちは、嵐山のハイキングコースへ向かう電車に乗った。 キョン「さすがにちょっと冷えるな・・・長門、寒くないか?」 長門「へいき」 電車内を見渡すと家族連れや老人が多く、オレたちみたいなカップルは少数派のようだ。 …あくまで課外活動の本分は忘れていないぞ。 オレは窓から外を眺める長門の横顔を見つめていた。 今日の彼女は儚げというかおぼろげというか、なにやら引き込まれそうな美しさである。 長門「・・・どうしたの?」 しまった。長門に気づかれたようだ。 キョン「ん、いや、なんでもない」 長門「今日のあなたはずっと私を見てる」 長門に指摘されてドキリとした。彼女はまるでお返しだといわんばかりに、 じっとオレの顔を見つめてくる。 適当にごまかそうかと思ったが、説得力のある理由が思いつかない。 しかたない。オレは素直に本心を白状することにした。 キョン「その・・・なんだ、今日のお前は・・・いつもよりキレイだなって思ってさ」 長門「・・・ホント?」 キョン「ああ。お前が化粧をしている姿を見るのは初めてだからな。それにその服 よく似合ってるぞ」 上手い言葉が浮かばなかったが、オレは素直に本心を言った。こういうときに気の利いたセリフが パッとひねりだせるヤツがうらやましい。 そんなオレの葛藤をよそに、長門はなにやらうつむいている。少し顔が赤いのは気のせいか? 長門「その・・ありがとう。化粧には以前から興味を持っていた。 ・・・この服は友達が選んでくれた」 キョン「そうか。友達って、図書館でよく一緒にいるコたちだろ?一緒に出かけたりするのか?」 長門「たまに」 キョン「長門・・・お前変わったよな」 長門「統合情報思念体とのアクセスは以前に比べて格段に減った。今の私は一般人とほとんど同じ」 キョン「そういう意味じゃないんだ・・・なんというか、昔の長門もよかったが、 今の長門はもっといい」 長門「よくわからない」 キョン「スマン。うまく言語化できない・・・ってヤツだ」 オレは昔長門に言われた言葉を、口調もそのまま真似して返してやった。 長門「・・・真似しないで」 そういうと長門は少しふくれっつらをした・・・ように見えた。 こんな表情もできるようになったんだな。そんな長門を見て、オレは声を殺して笑った。 彼女は顔をプイと横に向け、再び外の景色へと視線を移している。 オレは長門の魅力に引き込まれるように、再び彼女を見つめていた。 駅に着くとさっそくハイキングコースを歩きはじめた。 山腹にあるロープウェイから展望台まで上がることができる。 展望台からは市内を一望でき、それはそれはすばらしい景観らしい。 オレは長門の手を引きながらハイキングコースを歩き続けた。 …女性をエスコートするのは男の役目だからな。うん。 ロープウェイで展望台まで上がると、目の前には壮大なパノラマが広がっていた。 あたりには歓声を上げている観光客もいる。 キョン「これはいい眺めだな。ホント来てよかったよ。 ホラ、あの辺からここまで上がってきたんだぜ」 そういうとオレは、ふもとの駅のあたりを指さした。 キョン「あのへんは午前中に回ったトコだな。あそこからバスに乗って あっちの方に・・・」 長門はオレの指さす方向をじっと眺めていた。いかんいかん、年甲斐もなく はしゃいでしまったようだ。 長門「キョン・・・くん」 不意に長門が口を開いた。彼女が二人称以外の呼び方でオレを呼ぶのはめずらしい。 キョン「ん、どうした?」 長門のほうへ振り向くと、目の前まで長門の顔が近づいてきた。これは・・・ 彼女は背を伸ばすようにして、オレと唇を重ねてきた。 柑橘系のいい匂いがオレの鼻腔をくすぐる。わずかに香水をつけているようだ。 数秒の間が流れ、彼女は唇を離した。一体何が起きたのか、オレの低スペックな頭は まだ把握しきれていない。 キョン「・・・・・長門?」 長門「驚いた?」 少しはにかみながら長門が言った。 長門「これも以前から興味のあったことのひとつ。驚かせてごめん」 そういうと彼女はオレから背を向け、天然のパノラマ景観に目をやった。 …今やオレの心拍数は限界近くまで上がっていた。まさか長門がオレに キスをするなんて・・・ キスされた瞬間から、頭がずっと長門の名前を連呼している。今は彼女のことしか考えられないようだ。 オレは自らを落ち着かせるため、昔のことを思い返していた。 初めて長門と合ったときは、ロクに会話も成立しない彼女のことはあまり印象に残らなかった。 マンションに呼ばれて延々と電波話をされたときには正直頭がどうかしていると思った。 しかしその後長門の正体がわかってからは、何度か命を助けられたり、日常のように起こっていた トラブルの解決に毎回尽力してくれたりと感謝してもしきれないぐらいの恩を受けた。 頼ってばかりではだめだと思いつつも、最終的にはいつも長門を頼りにしていた。 冷静で表情を変えることはなく、部室にいても寡黙でずっと本を読んでいた長門。 そんな長門は大学生になってから大きく変わった。 自ら友達を作り、笑顔を見せるようになった。たわいのない会話もなんとかできるようになり、 自分の意見をはっきりと言えるようになった。 それから、化粧をして、おしゃれをするようになった。とてもキレイになった・・・ 今ならわかる。今日オレがずっと長門に感じていたのは、きっと恋心に違いない。 高校を卒業してからずっとくすぶり続けていたオレには今の長門がとてもまぶしく見える。 …オレもそろそろ次のステップへ足を踏み出してもいい頃かな。 長門となら、こんなオレでも踏み出せるのかな・・・ 気づいたときには、オレは長門の手を強く握っていた。 彼女は驚いて振り返る。オレは振り向いた長門の両肩を引き寄せ、 強引に唇を重ねていた。 柑橘系の香りと、髪から香るシャンプーの匂いがまじりあってオレの鼻腔をくすぐる。 長門の唇は甘く、小さく、そしてとても柔らかかった。 オレは長門の肩に置いた手を背に回し、ゆっくりと彼女を抱きしめた。 オレの抱擁に答えてくれたのか、長門もその細い腕をオレの背に回した。 永遠とも思える十数秒が過ぎてから、オレは唇を離して長門を見た。 彼女の白い頬は桜色に染まり、息を止めていたせいか少し肩を上下させていた。 上目づかいでオレの視線を受けている長門の表情がオレの動悸をさらに早める。 …ああ、今すぐ長門が欲しい。彼女のすべてを愛したい。 回りの観光客はそんなオレたちの様子をうかがっているようだった。 ロコツに視線を送ってくる者はいなかったが、 多くの人が視界の端でオレと長門のことをとらえているらしい。 彼らの好奇心が痛いほど伝わってくる。 これはしまった。オレは恥ずかしさのあまり、長門の手を掴んで足早にそこを後にした。 長門はうつむきながらオレの少し後ろを歩いている。 …彼女は今どんな顔をしているのだろうか。オレたちは黙って歩き続けた。 キョン「驚いたか?」 しばらくしてオレのほうから沈黙を破った。 長門は黙ったままコクコクと首を縦に振っている。 キョン「さっきのお返しだ」 長門「・・・もうッ」 長門は満面の笑みでオレを見上げてきた。・・・そうだ。オレはこの笑顔が大好きなんだ。 いつまでもこの顔を見ていたい。 ふと空を見上げると、太陽はややその角度を下げはじめていた。まわりには登山よりも 下山する人の流れのほうが大きくなってきたようだ。 キョン「そろそろ帰るか」 長門「・・・(コク)」 キョン「また来ような」 長門「・・・(コク)」 キョン「今日は楽しかったな」 長門「・・・とっても」 オレは長門の手を握り、二人仲良く並んで帰途についた。 ハルヒサイド あれからハルヒは大学を休みがちになった。 家でボーっとしているか、近くをただブラブラと歩き回ってヒマをつぶしていた。 男からは毎日のように着信が入ったが彼女はそれを無視していた。 男はハルヒのことが心配なのではなく、ただ検査の結果が知りたいだけだろう。 GWを数日後に控えたある日、彼女はこっそりと産婦人科に行った。 検査を受けた結果、妊娠約一ヶ月であることが判明した。 ハルヒはあまり驚かなかった。彼女は今自分に起きている事態を どこか他人事のように感じていたのだ。 男が言うとおり、このまま中絶することになるのだろうか。 その夜、ハルヒは夢を見た。 夢の中で小さな子供が二人出てきた。キョンの妹よりもずっと幼い子だった。 二人は泣いていた。二人が泣くとなぜかハルヒも悲しくなるので、 彼女は二人をなぐさめてやった。 二人をよく見ると女の子と男の子だった。顔はよく見えなかったが、 雰囲気からするとどうやら兄弟のようだ。 それからハルヒは二人と一緒に遊んだ。彼女は久しぶりに充実感を味わった。 まるでSOS団の活動をしているときみたいだった。 しばらくするとまた二人は泣き始めた。ハルヒがどれだけなぐさめても泣き止まなかった。 困った彼女は二人に泣いている理由をたずねた。 二人は泣き声を上げながら途切れ途切れに話すのでよく聞き取れなかったが、 どうやら「消えたくない」と言っているようだった。 その言葉を聞いてハルヒはとても悲しくなった。涙がどんどんあふれ出した。 彼女は涙を止めることができなかったので、二人を抱きしめながら一緒に泣いた。 そこでハルヒは夢から覚めた。まだ朝にはなっていないようで、窓の外は暗かった。 不意に頬の上をなにか流れ落ちる感触があった。ハルヒが頬をさわってみると濡れていた。 枕をさわってみるとそこも濡れていた。ハルヒはまた悲しさがこみ上げてきて、 枕に顔をうずめて泣いた。 それから、またいつのまにか眠ってしまったらしく、目が覚めると昼すぎになっていた。 彼女はもう泣いてはいなかった。かわりにひとつの決意ができていた。 顔を洗って頭を覚醒させると、ハルヒは男に電話をかけた。 谷川「もしもし・・・どうした?検査の結果はどうなんだ?」 ハルヒ「・・・妊娠一ヶ月だって」 谷川「やっぱりそうか・・・連休前ってのが不幸中の幸いだったかもしれんな。 お前、連休中に中絶手術を」 ハルヒ「しないわ」 谷川「え?・・・なんだって?」 ハルヒ「私、中絶はしない」 谷川「お、お前・・・気がヘンにでもなったのか!?今から学校に」 男がなにか言いかけていたようだが、ハルヒはかまわず電話を切った。 谷川(クソ!切りやがった・・・やっかいなことになっちまったな。 手遅れにならないうちに早いとこ中絶させないと・・・) ハルヒはその晩、両親に妊娠した事実を告げた。それから中絶したくないということも告げた。 当然ながら両親は大反対だった。世間一般的には、大学在学中に妊娠して どこの馬とも知れない男の子供を産むなどあってはならないことだ。 両親が反対するのももっともだといえる。 しかしハルヒは納得しなかった。自分の体に宿った小さな命を そんな理由だけで消してしまうのは忍びなかった。 両親は何度もハルヒを説得したが、彼女はその言葉を聞き入れることはなかった。 ハルヒの父親は怒鳴り、母親はなだめながら粘り強く説得したが、 彼女が考えを改めることはなかった。 ハルヒは子供を産んだところで男とヨリを戻せるなんて考えてはいなかったし、 そんなことを望んでもいなかった。また、子供を認知させることで 扶養費を出させようというつもりもなかった。 彼女は出産の後、大学をやめて働きながら子供を育てるつもりでいた。 ハルヒは産婦人科に足しげく通い、出産に向けて現段階で注意することや その心構えを教わったりしていた。 彼女はすぐに産婦人科の院長と仲良くなり、事細かにアドバイスをしてもらった。 両親や男が反対している以上、医者としては立場的に出産を止めるよう 忠告しなければならなかったが、院長は彼女の熱意に打たれてしまい はやくも説得をあきらめていた。 それからひっきりなしに男から連絡が入るようになり、ハルヒは仕方なく 連休中のある日の夕方に男と待ち合わせた。場所はいつもの所だった。 谷川「待たせたな。どっかすいてるトコにでも」 ハルヒ「ここでいいわ。何の用よ?」 谷川「お前・・・わかってるだろ?妊娠のことだ」 ハルヒ「なんでアンタが口挟むのよ。私が妊娠したのは アンタが原因とは限らないんでしょ?」 谷川「・・・すまん、実はあのときオレ、避妊しなかったんだ。 あの日は安全日だったろ?だから大丈夫だと思って」 ハルヒ「そんなことだろうと思ってたわ。最低なヤツね。とっとと 私の前から消えてちょうだい」 谷川「そうはいかないんだ。・・・もうしばらくすれば中絶もできなくなる。 そうなればオレは責任をとることができなくなってしまう」 ハルヒ「アンタに責任をとってもらおうなんて思ってないわ。この子は私だけで育てるの」 谷川「バカなことを言うな。一人で育てられるわけがないだろう。大学はどうするんだ?」 ハルヒ「・・・やめるわ。特に未練もないし」 谷川「ハルヒ・・・わかってくれ。お前は一人で育てられる気でいるが、そううまくいくはずがないんだ。 お前が子供を産めば、オレにだって法的な責任が課せられる」 ハルヒ「・・・どこまでも勝手なヤツね。もう顔を見せないでちょうだい」 そう言うとハルヒは足早にその場を去った。 男はハルヒを説得する言葉がみつからず、立ちつくしていた。 ハルヒ「なんか言うだけ言ったらせいせいしたわ。なんであんなヤツと付き合ったり したんだろ?私ってホントバカね」 彼女は家に向かって歩きだした。連休中とはいえ時間帯のせいか、駅周辺には 人通りが少なかった。 曲がり角のところで、急に出てきた人影とぶつかりそうになった。 ハルヒはさっと身をかわし、人影を振り返った。 「あ、すいません・・・ってハルヒ!ハルヒじゃないか」 その人影はキョンだった。となりには長門も立っている。 二人は手をつなぎ、仲良く並んで歩いていたようだった。 ハルヒ「あ、ああキョン。それに有希も・・・ひさしぶりじゃない!」 キョン「元気してたか?最近は全然会ってなかったから気になってたんだ」 ハルヒ「う、うん・・・」 そういうとハルヒはうつむいてしまった。 ハルヒ(キョンと有希が二人で仲良く歩いてるなんて・・・まさか二人は付き合ってるの? ・・・やだ、私嫉妬してる。せっかく二人が楽しそうにしてるんだから、私も笑わなきゃ) ハルヒは顔を上げて笑おうとしたが、なぜか笑顔が作れなかった。 何度やっても顔がひきつってしまう。 そんな彼女の様子に不審を抱いたのか、キョンが声をかけた。 キョン「おい、急に黙ったりしてどうしたんだ?具合でも悪いのか?」 ハルヒ「・・・んでもない」 キョン「なんだって?」 ハルヒ「なんでもないったら!」 そう叫ぶとハルヒは一目散に駆け出した。 走りに走って川沿いの公園までくると、しばらく息をいれてからベンチに腰掛けた。 ハルヒ(ヘンに思われただろな・・・ひさしぶりに会ったってのにいきなり逃げ出したりして) 夕方の公園は人通りもまばらであった。ハルヒはひざに手を置いてじっと川辺を見ている。 ハルヒ(私服の有希、すごくかわいかったな。あの二人いつの間にあんなに仲良くなってたのかしら。 ・・・本当にお似合いのカップルって感じだったわ。ちゃんと付き合ってるのかな? キョンがいい加減なことしてるんだったらただじゃおかないわよ) 夕日ははるか西の空に沈み、あたりは薄暗くなっていた。それに合わせてか、 ハルヒの気分もだんだんと沈んでくる。 ハルヒ(もし、もし私がキョンと同じ大学だったら・・・今頃キョンと並んで歩いてたのは 私だったのかな・・・キョン、いつも文句ばっかり言ってたけど、付き合いだしたら もっとやさしくしてくれたのかな・・・) ハルヒは疲れていた。数日前に妊娠が発覚してからずっと気を張り続けていたのだ。 彼女は自分に宿った新しい命を守るため、ひとりで戦い続けていた。 おなかの子を守るという意味では、彼女の味方となる人物はほとんどいなかったといえる。 いくら気丈なハルヒとはいえ、そんな状態に長時間耐えられるほど強くはなかった。 今日たまたまキョンと長門が仲良く歩いているところに出くわしたことで、 張り続けていた緊張の糸はプツリと切れてしまった。 ハルヒ(なんだか・・・もうどうでもよくなってきちゃった・・・) ハルヒは両足をかかえ、頭をひざにつけて嗚咽をもらしはじめた。 キョンサイド 京都での課外活動を終えたオレたちは混雑する電車に乗り、地元へと帰ってきた。 課外活動はたぶん今日でおしまいだ。次からはその名称と趣旨が変わっていることだろう。 オレが長門の顔を見ると、長門もオレの顔を見上げて笑顔で応えてくれる。 この笑顔をもっと見ていたい。今のオレの願いはそれだけだ。 キョン「今日の活動ははこのへんで終わりだな・・・ なんだかもったいない気もするけど」 長門「・・・おなかすいてない?」 長門がオレを見上げて聞いてきた。 キョン「そういや昼飯あんまり食べてなかったな。腹が減っておなかと背中がくっつきそうだよ」 オレの冗談に長門は微笑を返してくれた。 長門「・・・私の家に来る?」 それを聞いてオレの心臓が大きく波打った。長門に聞こえるのではないかというぐらい大きな音を 叩き出している。・・・いかんいかん、落ち着けオレ。やましいことを考えるんじゃない。 長門「一緒に夕飯食べよ?」 キョン「あ、ああ。いくいく、絶対行くよ。楽しみだなあ!」 オレがわざとらしく大きな声で言い、内心の動揺をかき消した。 そんなオレを長門は不思議そうな顔で見つめる。 まずい、動揺が悟られてしまう・・・オレは長門の手を引いて歩きはじめた。 こういうときは誤魔化すに限る。 しかし動揺していたせいか、曲がり角のところで人が飛び出してくるのに気づかなかった。 「あ、すいません」 ぶつかりそうになり反射的に謝るオレ。どうやら向こうがオレをよけてくれたらしい。 その人影に目をやると、なんとそこにはハルヒが立っていた。 キョン「ハルヒ!ハルヒじゃないか」 ハルヒ「あ、ああキョン。それに有希も・・・ひさしぶりじゃない!」 ハルヒと会うのは本当にひさしぶりだ。その面影は高校の頃とまったく変わっちゃいない。 キョン「元気してたか?最近は全然会ってなかったから気になってたんだ」 ハルヒ「う、うん・・・」 なぜかハルヒはうつむいてしまった。・・・今日はなんか元気がないみたいだな。 しばらくハルヒはうつむいたまま動かなかった。 キョン「おい、急に黙ったりしてどうしたんだ?具合でも悪いのか?」 ハルヒ「・・・んでもない」 キョン「なんだって?」 ハルヒ「なんでもないったら!」 そう叫ぶとハルヒは一目散に駆け出した。一体どうしたんだ!? オレはハルヒを追いかけようとしたが、ふと長門のことが頭をよぎり、断念した。 …ハルヒの俊足に追いつけるはずもないしな。 長門「落ち込んでいるようだった」 キョン「そう見えたのか?たしかにちょっと元気なさそうだったが・・・」 あれだけの俊足を披露したぐらいだから体調が悪いってわけでもなさそうだ。 キョン「ムシの居所が悪かったんだろ。なんだか怒ってたみたいだしな。後で電話してみるよ」 そういうとオレたちは再び歩き始めた。北口駅から長門のマンションまで 少し歩かなければいけない。 マンションにつくころには日はすっかり沈んでしまっていた。 それから長門の部屋に入って一息ついた。なんたって今日はイベントが目白押しだったからな。 長門がいれてくれたお茶を飲み、しばらく二人でくつろいでいた。 長門「・・・そろそろごはん作るね」 キョン「オレも手伝うよ」 長門「いい。ここで待ってて」 そういうと長門はキッチンに向かった。 オレはやることがなかったので、居間の隅っこに置いてあるテレビの電源を入れた。 長門が大学に入ってから買ったテレビらしい。あまり使うことがないのか、 リモコンは新品同様にキレイだった。 オレはテレビをつけると、Uターンラッシュだの休み中に起きた事故だのという ニュースの数々をボーっとしながら聞き流していた。 台所からは長門が小刻みに包丁を使う音が聞こえてくる。 …なんだかこういうの悪くないな。もしオレたちが結婚したら 毎日こんな感じかな?一緒にメシ食って風呂入って、その後は・・・ いかんいかん!なぜかさっきから考えがやましい方向へいってしまう。 オレは両手でほほをはたき、妄想を頭から追い出した。 そのときオレの携帯に電話がかかってきた。 相手は・・・国木田のようだ。 国木田「もしもし、キョン?」 キョン「ああ、ひさしぶりだな。なんか用か?」 国木田「ちょっと気になることがあってね・・・ キョンに言おうかどうか迷ってたんだけど」 キョン「どうしたんだ?」 国木田「最近涼宮さんが大学に来なくなってたんだ。4月の半ばぐらいからだったと思う。 普段は授業をサボるような人じゃないからずっと気になってたんだよ」 キョン「それ本当か?」 国木田「うん」 体調不良というわけじゃなさそうだな。オレと長門は さっきハルヒが全力疾走する場面を見ている。 あのハルヒに限って登校拒否ということもないだろうし。 国木田「実はね・・・彼女、どうやら妊娠してるみたいなんだ」 オレは耳を疑った。ハルヒが妊娠した?ウソだろ? キョン「・・・あまり笑えない冗談だな。連休でヒマなのはわかるが もうちょっとマシなこと考えろよ」 国木田「ウソじゃないよ。涼宮さんと仲のいい子がそう言ってたし、 それにさっき涼宮さんが駅前で彼氏と言い争ってたトコを みたっていう友達が電話くれたんだ。中絶するとかしないとかで ケンカしてたみたいだよ」 さっきハルヒが駅前にいたのはそういうことだったか・・・? キョン「・・・もっと詳しく話してくれ」 国木田「僕が知ってるのはこのくらいだよ。彼女から直接聞いたほうがいいんじゃないの? 彼氏とはなんだかうまくいってないみたいだし、キョンが力になってあげなよ」 キョン「わかった。そうする」 国木田「それじゃあね」 そう言うと国木田から電話を切った。 長門「・・・どうしたの?」 キッチンのほうを見ると長門が心配そうにオレを見つめている。 キョン「ん、なんでもない・・・全然たいしたことじゃないんだ」 口ではそういいながら、頭はハルヒのことで一杯だった。 あのハルヒが妊娠?なぜ?相手は誰?中絶って一体どういうことなんだ? オレはここでなにをしているんだ・・・? オレはしばらく呆然と立ち尽くしていたらしい。長門がますます心配そうな顔で オレを覗き込んでくる。 長門「ホントのこと教えて・・・一体なにがあったの?」 長門の言葉で我に返ったオレは、彼女にハルヒが妊娠したということを告げた。 そのことでハルヒが苦しんでいるということも付け加えて。 長門「子供を身ごもるということは祝福すべきこと。どうして苦しまなければいけないの?」 長門は不思議そうな顔で聞いてくる。 こういうことについては長門も疎いみたいだな。 キョン「・・・祝福されない妊娠だってあるんだよ。親に望まれずに子供が生まれるなんて そうめずらしいことじゃない」 長門「父親・・・彼女の相手はなにをしているの?」 キョン「どうやら出産することに反対らしい。・・・ハルヒは産みたがっているらしいが。 男に反対されてどうやら一人で苦しんでいるみたいなんだ」 …ハルヒが他の男の子供を欲しがるなんて、正直そんな話は聞きたくなかった。 長門「子供を守るのは父親の役目なのに、なぜ出産に反対するの?」 なぜかオレは、今の長門の言葉にカッとなってしまった。 キョン「・・・そんなことまでオレが知るかよ!」 オレは無意識に声を荒げていた。気づいたときには、 長門がややおびえた表情でオレをみつめていた。 長門「・・・ごめんなさい」 長門は暗い表情でうつむいていた。しまった!オレは彼女になんてことを・・・ キョン「スマン、ちょっと混乱しちまって・・・お前に当たるつもりじゃなかったんだ」 長門「・・・いい」 キョン「すまない・・・突然のことでちょっと驚いただけなんだ。 あのハルヒが妊娠だなんて、考えもしなかった」 しばらくの間重い沈黙が訪れた。再びオレの頭が混乱に包まれる。 …高校三年間、ハルヒのそばにはいつもオレがいて、それが当たり前になっていた。 オレは心のどこかで、まだハルヒのそばに戻れると思っていたのかもしれない。 ハルヒの妊娠の話を聞いてショックを受けているのは、その望みが永遠に断たれてしまったからなのか? オレは今の今までずっとハルヒに未練を持ち続けたっていうのか? …いいやそんなはずはない。オレは認めないぞ。オレにはもう長門がいる。 ハルヒのことはもう断ち切ったはずだ。 オレが混乱しているのは、考えもしなかったハルヒの妊娠という事実に 少し肝を抜かれただけなんだ。ただそれだけのことだ。 この重い沈黙を破ったのは長門の言葉だった。 長門「・・・様子を見に行かなくていいの?」 キョン「えっ・・・?」 長門「さっき彼女と会ったとき、すごく落ち込んでいるようだった。 ・・・今、涼宮ハルヒは一人で苦しんでいる・・・でしょ・・・?」 長門はやや顔を背けながら淡々と語った。オレからその表情をうかがうことはできない。 キョン「・・・いまさらオレの出る幕じゃないさ」 長門「・・・このままでいいの?」 キョン「ああ。こういうことは他人が口出しすることじゃない」 オレはまるで自分に納得させるかのようにつぶやいた。 キョン「・・・それより長門、飯はまだかな? 腹が減って死にそうなんだ。やっぱりオレも手伝うよ」 オレはやや強引に長門の背中を押し、二人でキッチンに向かった。 すでに料理はほとんど完成していたらしく、キッチンにはやたらいい匂いが漂っている。 メニューの内容は、 ポークカツレツ コーンポタージュ 大根サラダ 冷製トマトパスタ となかなか豪勢なものだった。これだけのご馳走を作る材料を家にそろえていたということは、 近々お客さんでも来る予定があったのだろうか。 オレは長門を手伝い、手早く配膳を終えた。 キョン「いただきます」 今日はさんざん歩き回って相当エネルギーを消費してしまっている。 目の前のご馳走でその補給ができるなんてオレは幸せ者だ。 キョン「・・・うん、うまい!長門がこんなに料理上手だなんて知らなかったよ。 これはうますぎだな。いつ覚えたんだ?」 長門「・・・レシピの本を読んだり、友達に教えてもらったりした」 キョン「そうか、お前の友達も料理上手なんだな。・・・しかし、今日の締めくくりに こんなうまい飯が食えるなんて思わなかったよ」 長門はあまり食欲がないのか、ほとんど料理に手をつけずにいた。 オレの真向かいに座っている彼女は食事を始めてからずっとうつむき加減で、どこか暗い表情をしていた。 …さっきまでの笑顔はどこにいってしまったんだ? キョン「長門・・・どうしたんだ?ほとんど食べてないじゃないか。お腹すいてないのか?」 長門「・・・やめて」 彼女はボソリとつぶやいた。 キョン「へ?」 長門「・・・もうやめて」 うつむいたまま長門は言う。一体どうしたんだ? キョン「なんのことを言ってるんだ?」 長門「・・・楽しくもないのに無理して笑顔を作るのはやめて」 キョン「な、なにを言ってるんだ。楽しくないわけないだろ?現に今だって」 長門「・・・うそ」 長門はおもむろに顔を上げた。なぜか目元がきらりと光っている。 長門「さっきまでのあなたはもっと自然な笑顔だった。そんな作り笑いをしてなかった」 キョン「お、おい・・・それは違うぞ」 長門「違わないッ!」 長門は大きな声で言い放った。・・・オレは自分の耳を疑った。 長門がこんな風に叫ぶなんてはじめてのことだ。 長門「じゃあなんで私は全然楽しくないの?なんで私は笑えないの?」 再び目を伏せながら長門は言った。 長門「・・・せっかくあなたと一緒にいられるのに」 キョン「長門・・・オレ、そんなつもりじゃ・・・」 長門「あなたは今、だれのことを考えてるの?あなたが今したいことはなに?」 キョン「・・・長門」 長門は顔を上げてまくしたてる。彼女の目はうっすら涙をためていた。 長門・・・なんて悲しそうな顔をするんだ。長門の泣き顔なんてはじめて見た。 オレが長門をこんな顔にさせてしまったのか・・・? 長門「なんでもっと素直になれないの?私、あなたの作り笑いなんて見たくない」 そう言うと長門は寝室へと走っていってしまった。 …心が痛い。罪悪感が容赦なくオレを責めたてる。 長門が泣いているのはオレが素直になれないから?長門がオレに言いたかったのは・・・ やはりハルヒのことか。さっき国木田から電話がかかってきて、 それからずっとハルヒのことが気になっていた。ハルヒが今どこでなにをしているのか 気になってしかたがない。アイツが今大変な状態だったなんて全然知らなかったんだ。 駅前で会ったときにちゃんと話せばよかった。 実は長門の作ってくれたご馳走だって、ハルヒが気になるあまり ろくすっぽあじわっちゃいなかった。 …そりゃ長門だって怒るよな。せっかく作ってくれたのに、悪いことしたよな・・・ オレは寝室のドアの前に立っていた。今すぐ長門にあやまりたいが、開けることがためらわれたからだ。 …オレはなんてあやまったらいいんだろう。 ドアの前でオレが迷っていると、しばらくしてゆっくりとドアが開けられた。 寝室から長門がうつむき加減で出てくる。 キョン「長門・・・さっきはすまなかった。・・・本当はさっきからずっと ハルヒのことが気になってしかたなかったんだ・・・」 長門はもう泣いてなかったが、オレからやや目を反らしながら口を開いた。 長門「行ってきて。彼女を慰めてあげて」 キョン「長門・・・オレ・・・」 長門「これ・・・持っていって」 そういうと長門はある物をオレの手に握らせた。 これは・・・鍵?それにこのメモ書きは? 長門「・・・この部屋のスペアキー。そのメモは玄関のオートロックの暗証番号。 ・・・あなたに持っててほしい」 キョン「長門・・・それって・・・・」 長門「その・・終わったら・・・戻ってきて。夕飯、一緒に食べたいから」 今度はオレをまっすぐ見つめていった。彼女の顔に少しだけ笑顔が戻ったようだ。 長門の笑顔を見ると、つられてオレも微笑んでしまう。 キョン「・・・ああ、ちゃんと戻ってくるよ。まだほとんどメインディッシュに 手をつけてないしな」 オレの言葉に長門はゆっくりとうなずいた。やはり長門には笑顔が一番よく似合っている。 長門「・・・気をつけて」 それからオレは長門のマンションを出て、夜の町に飛び出した。 ハルヒに電話をしてみたが一向に出る気配はない。 アイツ、もう家に帰ったのかな?さっきの様子だと まだその辺をブラついてるのかもしれないな。 気がつくとオレは走っていた。駅前広場まで行き、ハルヒがいないことを確認する。 オレは高校時代の記憶を総動員してアイツが行きそうな場所を考えた。 まてよ、ハルヒが走っていった方向・・・もしかして川沿いの公園か? あそこならSOS団の不思議探索で何度も足を運んだ場所だ。 ハルヒがいる可能性も高いと思われる。 オレは全力疾走で公園まで向かった。 現地に着くと、ゆっくりと歩きながら十分に息を入れた。 …昼の山登りの疲れがだいぶ残っているようだ。だがそんなこともいってられない。 公園は川沿いに細長く続いており、端から端まで行って戻ってくるだけで早くても20分はかかってしまう。 しかし川沿いを上流に向かってしばらく歩いていると、わりとあっさり見つかった。 川沿いのベンチに体育座りをして、ひざに頭をつけている。 ハルヒ・・・泣いてるのか・・・? かすかにハルヒの嗚咽が聞こえてくる。 オレは声をかけることを一瞬だけためらったが、覚悟を決め直してベンチまで近寄った。 キョン「・・・ハルヒ」 ハルヒ「・・ふぇ・・・・!?」 ベンチの目と鼻の先まで近づいてからハルヒに声をかけた。 彼女はオレの突然の登場に驚き、とっさに逃げようとする。 オレは素早くハルヒの前に回り、なんとかその場に押しとどめた。 キョン「もう逃げないでくれよ。お前の全速力には追いつけそうもない。 ・・・お前のことが気になってな。さっきから探してたんだ」 ハルヒ「・・・・・」 キョン「となり、座っていいか?」 ハルヒの沈黙を肯定と受けとったオレは、彼女の横に腰をおろした。 キョン「お前が今、大変なんだってことは国木田から聞いたよ」 そう言うとハルヒはビクッとしてオレに視線を向けたが、すぐに目を反らした。 キョン「それを聞いてさ・・・オレ、いてもたってもいられなくなったんだ。 お前が一人で苦しんでいたなんてな。・・・なあハルヒ、 よかったらオレに話してくれないか?」 ハルヒ「・・・・・・」 ハルヒは何も言わない。これが昔のハルヒなら確実に「うるさい」とか 「あんたには関係ないでしょ」などと悪態をついてたはずだ。 キョン「・・・お前が落ち込んでいるところを見るのは久しぶりだな。 高校のときのお前はときどき今みたいに憂鬱になってたもんだ。 いつもハイテンションなお前が急に沈んでしまうもんだから、オレはよく心配してたんだぜ」 ハルヒ「キョン・・・私・・・」 ハルヒの顔を見ると、泣き疲れて真っ赤になった目がまた涙で濡れている。 彼女はしきりに目をこすっていたが涙は止まらず、次第に嗚咽をもらしはじめた。 ハルヒは嗚咽交じりの声で、妊娠を疑いはじめた半月前くらいからの事情をぽつぽつと語り始めた。 ハルヒは口数こそ少なかったが、今に至るまでの彼女の憤りや苦しみが痛いほど伝わってきた。 コイツのことだ・・・ずっと一人で苦しんできたんだろう。 肝心の男はハルヒを見捨て、親の支援も期待できない、そんな状況でコイツはずっと頑張っていたんだ。 なぜオレはハルヒのそばにいてやれなかった? 大学が別だから?SOS団がなくなったから?・・・オレは今までなにをやっていたんだ。 どうしようもないやるせなさがオレの心を覆った。 ハルヒ「グスッ・・・ヒグッ・・・キョン・・・私・・もう疲れちゃった・・・・」 ハルヒは嗚咽を抑えながらそう言った。 …オレがそばについてたら、ハルヒがこんなつらい思いをすることはなかった。 うぬぼれかもしれんが心からそう思う。オレ以外にハルヒを許容できる男なんて そうそういないんだ。 ハルヒ「苦しかった・・・怖かった・・・誰も助けてくれなかった・・・」 キョン「ハルヒ・・・辛かっただろうな。本当に苦しかっただろうな。きっとお前のことだから、 ずっと一人で頑張ってきたんだろう?」 ハルヒ「キョン・・・うあぁああッ!キョン!キョン!」 ハルヒはオレの肩に顔をあて、大きな泣き声を上げはじめた。 オレはハルヒの背中を軽く叩いてやる。 …オレが・・・オレが、ずっとそばにいてやれば・・・・・ いつのまにかオレも一緒に泣いていた。どうしようもない後悔が心の中にあふれかえっていた。 オレはハルヒの嗚咽が聞こえなくなるまで、彼女の肩を抱き続けた。 それからどれくらい経っただろうか。永遠に続くと思われたハルヒの嗚咽も 次第にトーンが下がっていき、やがてあたりは静かになった。 川のせせらぎがかすかに聞こえてくる。回りにはオレたち以外に人の気配はない。 もし誰かがそばを通りかかったなら、たぶんオレたちは夜の公園で仲良く肩寄せ合うカップルに見えたことだろう。 ハルヒ「キョン・・・ありがと。アンタのおかげでちょっとだけ元気出てきたわ。 もう大丈夫だから」 ハルヒは不意に立ち上がり、オレに振り返ってそう言った。 キョン「ハルヒ・・・無理をするなよ。つらいときは誰かに助けてもらえばいいんだ。 今後お前がつらくなったときは今日みたいにオレがまっさきに駆けつけてやる。長門だっている。 ・・・きっと古泉や朝比奈さんだって、お前が本当にピンチのときは駆けつけてくれるさ」 ハルヒ「ん、ありがとう。ホントにうれしいよ・・・でも大丈夫」 キョン「大丈夫なもんか・・・お前のことだから、誰がなんと言おうと中絶はしないんだろ? お前はたとえすべてを敵に回そうとも、お腹の子を守る気でいるんだろ?」 ハルヒ「・・・うん」 キョン「だったら、お前の味方ができるのはオレたちしかいないじゃないか。 ・・・今こそ離れ離れになっちまったけど、SOS団はずっと運命共同体だったじゃねえか!」 オレがそう言うと、ハルヒは黙って後ろを向いた。 ハルヒ「・・・有希はどうしたの?」 キョン「ハルヒ!話はまだ」 ハルヒ「あんたたち、つきあってるんでしょ?」 ハルヒは川を眺めたままそう言った。彼女の問いに、なぜかオレは即答できなかった。 オレたちはもう付き合っていることになるのだろうか。 たしかに今日はキスをしたし、長門の家にも上がった。ここに来る前には部屋の合い鍵だって渡された。 国木田からの電話がなければ、ここでハルヒに会わなければ、 間違いなく今日を境にオレたちは付き合っていたに違いない。でも今は・・・ ハルヒ「いい?私は妊娠してるのよ?その私をアンタが助けてくれるってことは どういうことかわかってんの?」 急に振り向いてハルヒは言った。 ハルヒ「有希と付き合っている以上、中途半端なことはこの私が許さないわ。 ・・・それに私だって、一人の力で出産できるなんて思ってないわよ。 ウチの両親は今こそ大反対してるけど、最後にはきっとわかってくれるわ」 キョン「ハルヒ・・・」 ハルヒ「私のワガママだってことは十分わかってる。こんなことは社会的に許されないってこともね。 でも、私もう決めたの。・・・ただ、私が決めたことでアンタたちを巻き込みたくはないわ」 そこまで言うと、ハルヒは少しだけうつむいた。 いつのまにか風は止み、ぽつりぽつりと雨粒が降りはじめていた。 ハルヒ「アンタたち、お似合いのカップルだったわ。まさか有希が あんなにかわいくなってたなんてね・・・あの子、素直でいい子じゃない。 ・・・大事にしてあげてね。あの子を悲しませたりなんかしたら絶対許さないわよ」 キョン「・・・ハルヒ、オレは」 ハルヒ「私はねッ!」 ハルヒはオレの言葉をさえぎるように言った。 ハルヒ「私、ホントのこと言うと、ずっとアンタのことが好きだった」 キョン「・・・・・」 ハルヒ「高校を卒業して、アンタと離れ離れになって、ずっと寂しかった・・・ でも私、素直になれなかった。アンタに好きだって言えなかった」 キョン「ハルヒ・・・」 ハルヒ「チャンスなんていくらでもあったのにね・・・大学では他の男からたびたび告白されたわ。 最初に私が告白を受けたときはほんの軽い気持ちだった・・・もしかしたら、 それを聞いたアンタが嫉妬してくれるかなって思ってね。アンタの気を引こうとしてたの」 キョン「・・・・・」 ハルヒ「わかってる。アンタのこと責めてるわけじゃないのよ。あのとき 素直になれなかった私が悪いの」 …除々に雨脚は強くなってきた。オレたちは雨ざらしのまま、しばらく沈黙が続いた。 雨が川面に落ちる音が無数に響き渡る。 わかっている。オレがハルヒを責められるわけがない。・・・こいつは寂しかったんだ。 みんなと離れ離れになって、新しい環境で親しい人はいなくて、立ち上げたサークルだって 誰もついてこなかった。ハルヒは決して口にしないだろうが、ものすごく心細かったに違いない。 そんなときに、寂しさを紛らわそうとして彼氏を作ったこいつを誰が責められるんだ? 重い沈黙を破るようにオレは口を開いた。 キョン「オレは・・・オレだってお前のことが」 ハルヒ「言わないで!」 ハルヒは再びオレの言葉をさえぎった。 ハルヒ「遅いよ・・・もう私、他の男の子供を身篭ってるのよ。 アンタだって、こんな私・・・イヤ・・でしょ・・・」 キョン「ハルヒ・・・オレ・・・」 ハルヒ「・・・私たち・・きっと縁がなかったのよ」 今や雨は本降りとなっていた。・・・まるでオレたちの心の中を映しているようだ。 なぜか言葉が喉の奥に引っかかって出てこない。 一体どうしたっていうんだ?ハルヒの言葉をこのまま認めちまうのか? はやくなにか言えよ。なにか言わなきゃ・・・ ハルヒ「私、ここでちょっと頭冷やしてから帰るわ。先に帰ってちょうだい」 キョン「・・・・・」 ハルヒ「早く行って!」 …オレは結局ハルヒに何も言うことができず、そのままベンチを後にした。 心がカラッポになったようで、何も考えられなかった。 それからどこをどう歩いたのか覚えていない。時間の感覚などはとっくに 失っていた。・・・心が切り刻まれるように痛い。 これならいっそボコボコに殴られたほうがずっといい。 オレが流す涙はそのまま雨に洗い流されたが、いっそオレの体ごと どこか遠くまで流してほしかった。 気づけば、長門が傘を差してオレの前に立っていた。悲しそうな表情で オレのことを見つめていた。 …またオレが、長門をこんな表情にさせちまったのか。 長門は黙ってオレに傘を差しかけてくれた。 キョン「長門、オレはまた後悔することになりそうだ・・・この2年間、ずっと後悔し通しだった。 本当に素直じゃなかったのはアイツじゃなくてオレなんだ。オレはずっと自分にウソをつき続けていた。 それがこの後に及んで、またウソをつこうとしてるんだ・・・」 長門を見て少しホッとしたのか、体中から力が抜けた。 足が震え、そのままオレはひざをついてしまった。 キョン「なあ長門・・・オレ、わからないんだ」 長門「・・・・・」 キョン「オレは・・・オレは今・・自分がなにをしたいのかすらわかんないんだよ!」 …オレは長門に抱きかかえられて泣いていた。 ひざをついたまま長門にしがみつくオレを、彼女は強く抱きしめてくれた。 どうやらそこは長門のマンションのすぐ近くだったらしい。 長門はオレを抱えるようにして部屋まで導いてくれた。 オレ自身はあまり意識していなかったが、長時間雨ざらしになっていたせいか ずいぶんと体が冷えているようだ。 長門はすでに風呂を用意してくれていた。オレは彼女に言われるまま、 湯船で体を温めていた。 …頭どころか心までがからっぽになってしまったようだ。 今はなにも考えられないしなにも感じない。 もしかしたら心の防衛機能が作動してるのかもしれないな。 これ以上負担がかかれば、かなりの確率でぶっ壊れてしまいそうだ。 オレはだいぶ長い時間入浴していたみたいだ。風呂から出ると、頭がのぼせて ややふらついてしまった。 長門「大丈夫・・・!?」 長門が駆け寄ってきてくれた。心配そうにオレを見上げている。 まさか風呂の前で待っていたわけではないだろうが、絶妙なタイミングだ。 キョン「ああ、問題ない。・・・できれば冷たい飲み物がほしい」 長門はコクリとうなずくと、少し恥ずかしそうにオレから目を反らして言った。 長門「タオルはこれを使って。あなたの服は洗わせてもらった。今乾かしてるの」 キョン「ああ・・・手間をかける」 長門「もうしばらく待っててね」 オレは体の水気をふきとり、バスタオルを腰に巻くとキッチンに向かった。 テーブルの上には長門が用意してくれたドリンクが置いてあったので、ありがたく頂くことにする。 オレはイスに座り、深いため息をついた。 目の前には長門が作ってくれたご馳走の皿がある。まだほとんど手をつけられていないそれらには きちんとラップがかけられていた。 長門・・・おなかすいてるだろうな。オレは一体なにをやっているんだろう。 長門を傷つけて、ハルヒを傷つけて、今は自分の心までもナイフで切り刻んでいる。 オレがはじめから素直になっていれば、誰も苦しむことはなかった。 …いかん。また心が痛み出した。頭をからっぽにするんだ。 そうすれば痛みを感じることもない。 オレはしばらくの間イスに座ったまま目を閉じていた。 どれくらい時間が経っただろう・・・時間間隔が麻痺している今のオレにはわからない。 突然後ろから、なにか柔らかいものがオレの肩に触れた。 それは熱を帯びていて、その感触は除々にオレの胸のあたりまで伸びてくる。 目を開けて振り返ると、長門の顔がすぐそばにあった。 彼女の湿った髪からはシャンプーの香りが漂ってくる。 露わにしたその肩は透きとおるように白い。自然と鼓動が早くなっていく。 …長門はバスタオルを一枚まとっただけの姿だった。 オレは頭をフル回転させて現状の把握に努めた。 長門がオレを後ろから抱きしめているのか?胸のあたりに感じている柔らかい感触は・・・ 長門の腕か。髪が湿っているようだが、いつの間に風呂に入ってたんだ? 彼女の吐息がオレの首筋にかかる。 オレの鼓動は除々に回転を上げ、まもなくレッドゾーンに到達する。 キョン「長門・・・」 長門「だめ。なにも考えないで」 オレはまるでかなしばりにかかったように動けなかった。 長門「素直になるのはきっと難しいことじゃない・・・勇気を振り絞って、 一歩だけ前にふみだせばいいの」 キョン「・・・・・・」 長門「それはとても勇気のいること。・・・踏み出せば自分が傷つくことになるかもしれないから。 でも傷つくことを恐れて何もしなければ、後でもっと後悔することになる」 …それは誰のことを言っているんだ?オレのことか?ハルヒか?それとも・・・ 長門「今はなにも考えてはダメ。頭をカラッポにして・・・」 そういうと長門はオレの前に回った。彼女の顔が除々に近づいてくる。 オレは何かを言おうとしたが、長門の唇がオレの口をふさいだ。 彼女はオレの背中に手を回し、上体にもたれかかってきた。 長門の小ぶりな胸はオレの胸板で押しつぶされ、バスタオルを一枚はさんで 十分にそのやわらかさが伝わってきた。 オレの頭の中は真っ白になり、いつのまにか強く長門を抱きしめていた。 オレの舌がやや強引に長門の唇をこじあけ、彼女の舌とからませる。 その口内は柔らかくて甘く、そして熱かった。 長門から石鹸とシャンプーの入り混じったとてもいい匂いがして、オレの鼓動は今や 激流へと変わっていた。 オレたちはしばらく口内の感触に身をゆだねていたが、少し息苦しくなって やがて口を離した。 長門とオレはお互い背中に手を回したまましばらく見つめあい、オレは再び彼女を抱きしめた。 もはやなにも考えられない。考える必要もない。 今はただ精一杯長門を愛すればいいだけだ。後のことはそんときに考えりゃいい。 オレは長門を抱きかかえて寝室に入った。 長門をベッドに横たえてバスタオルを剥ぐと、彼女の白い肌が目に飛び込んでくる。 オレは長門の乳房に触れ、そのやわらかさを確認するように揉みしだいた。 長門の肌は珠のような輝きをもち、薄暗い部屋の中でもその白さはひときわ際立っている。 オレは片手で乳房をもてあそびながら、もう片方の乳房にキスをした。 それからそのきれいな乳首を口に含み、ゆっくりと、ときに強く刺激しはじめる。 長門「・・あッ・・・」 長門は口を手で押さえながらオレの愛撫に耐えているが、押さえきれずに声を漏らしてしまう。 しばらく乳首への刺激を続けた後、オレは乳房から口を離した。 長門「・・はぁ・・・はぁ・・・」 長門は少し荒く息をついている。彼女の息がおさまるのをまって、オレは彼女の口をふさいだ。 オレの舌が長門の口腔を刺激し、快感を与える。そのまま長門の背に手を回して強く抱きしめた。 形のいい乳房はオレの胸板で音もなく押しつぶされる。 ここまで密着すると彼女の鼓動がダイレクトに伝わってくる。オレの鼓動と合わせると、 まるで世界全体が揺れているように感じた。 オレは長門から口を離して、彼女のふとももに手を触れはじめる。 オレが触れた瞬間長門はビクっとなり、オレを強く抱きしめた。 ふとももに触れた手は除々に上を目指し、やがて彼女のそこにたどり着いた。 そこはすでに熱く熟していた。オレは大胆に指で触れる。 …あったかくてやわらかい。そこはオレのすべてを包み込んでくれるような、 そんな包容力を感じさせた。 長門は刺激に耐えられなくなったのか、オレの背中に回した手に力を入れて声を上げた。 キョン「・・・いいよな」 オレの言葉に長門はだまってうなずく。 オレは手早く避妊具をつけ、両手で長門の足を開いた。彼女のそこに自分自身をあてがい、 ゆっくりと中に沈める。 長門「んッ!」 その瞬間、長門は苦痛に顔を歪めた。 キョン「痛いか?」 長門「・・平気・・・続けて・・」 長門の言葉に従い、オレはゆっくりと腰を動かす。 彼女の中の感触はうすいゴムを隔てても確かに伝わってくる。 わずかでも動かすたびに快楽の波が押し寄せてくる。 オレ自身をやさしく包み込んでくれる長門の中は、まるで母なる海であった。 長門「・・・んッ!・・・ハァ・・・ハァ・・・」 キョン「長門・・・」 長門「・・・いいの・・・あなたの・・・好きなようにして・・・」 そう言うと長門は腕に力を入れた。彼女の爪がややオレの背中に食い込む。 オレは少しずつ腰の動きを早めた。 長門「んッ・・・あッ・・・」 長門は腰が動くたびに短い声を上げる。 オレは押し寄せる快楽の渦にたえきれず、長門に包まれたまま果ててしまった。 オレたちはひとつになったまま、しばらく肩を上下させていた。 長門は今、オレの腕に頭を預けている。 オレに背を向ける格好で横になっているので、オレから彼女の表情をうかがうことはできない。 オレは、長門になんといって声をかけたらいいのかわからなかった。 二人が沈黙したまま時間が流れていく。 長門「・・・私ね」 沈黙を破ったのは長門の方からだった。 長門「・・・私・・・あなたとこうなりたい・・・ってずっと思ってた」 キョン「・・・・・」 長門「ずっとあなたのことが好きだった。・・・でも言えなかった。 言えば今の関係すら壊れそうな気がして」 キョン「・・・・・」 長門「今の大学だって、あなたを追いかけて入ったの。 ・・・私、ずっとあなたのそばにいたかったから」 オレはずっと知らなかった。まさか長門がそんなにもオレのことを想っていてくれたなんて・・・ 長門「私、勇気が出せなかった。・・・涼宮ハルヒの能力が消えてから、 私は統合情報思念体から切り離されてひとりの人間になった。慣れるまで時間はかかったけど、 除々にいろんな感情が表現できるようになった。私はとてもうれしかった」 キョン「そうだったのか・・・」 長門「でも、そのせいでいろんなつらいこと、悲しいことも知ってしまった。 私は一人でいるのが怖くなって、友達を作ろうとした。もし拒絶されたらと思うと怖かったけど、 私は勇気を出して一歩を踏み出した」 長門・・・オレは全然知らなかった。長門のこと、ちっともわかっちゃいなかった。 長門「でも、あなたとの関係は以前のままだった。私は次の段階に進みたかったのに、 その一歩が踏み出せなかった。勇気がなかった」 …オレやハルヒと同じだ。長門もオレたちみたいに、相手から拒絶され、自分が傷つくのが怖くて、 ずっと同じ場所で足を踏みとどめていたんだ。 長門「・・・でも私、やっと勇気を出すことができた」 キョン「長門・・・オレは・・・」 長門「いい。私がこうしたかっただけなの。・・・私、はじめからわかってた」 キョン「・・・・・」 長門「・・・あなたの心には、いつだって彼女がいた。私の入り込む隙間なんてなかった」 キョン「・・・すまん」 長門「私後悔してない。・・・こんな私でも一歩を踏み出すことができたんだもの。 自分の気持ちを隠したままあなたとの関係を維持し続けるよりずっといい」 わずかに長門の声はふるえていた。その表情は、オレからうかがい知ることはできない。 長門「ごめんね・・・最後にひとつだけ、私の願いを聞いて」 そう言うと長門はゆっくり振り向いた。彼女の目から涙がとめどなくあふれていた。 長門はオレの胸に顔をつけて言った。 長門「今だけでいいの・・・今だけでも、私と一緒にいて・・・」 長門はそこまで言うと、声を殺して泣き始めた。オレは彼女の肩に手をあててやさしく抱きしめる。 長門の細い肩はよわよわしくふるえていた。 キョン「長門・・・すまない・・・」 いつしかオレも涙を流していた。二人とも泣きながら、お互いを強く抱き締めあっていた。 翌朝目を覚ますと、窓の外はまだ薄暗かった。 長門はまだオレの横にいる。彼女は泣きつかれたのか、目のまわりを真っ赤にして眠っていた。 ふと枕元にひとつのオルゴールが置いてあることに気づく。なにげなくネジを回してみると、 なにやら聞き覚えのあるなつかしい曲が流れ出した。 …これは高校1年のときの学園祭ライブで、ハルヒと長門が最後に演奏した曲だな。 あのときの曲は、オレもMDにコピーしてもらって何度か聞いたので覚えている。 …明るい曲調のわりに悲しい歌詞で、あまり好きになれなかった曲だ。 曲に合わせて頭の中でその歌詞が浮かんでくる。 そのメロディを聞いていると決意が鈍りそうになるので、オレはオルゴールを止めた。 …長門には大事なことを教えてもらった。ほんの少し勇気を出せば、 傷つくことを恐れなければ、足を踏み出すのは難しいことじゃない。 オレやハルヒや長門はそれができずに2年間も苦しみ続けてきた。 オレはもう迷わない。傷つくことだって恐れない。 長門・・・もう京都には行けなくなっちまったな・・・ オレはベッドを降りると、うつぶせで眠っている長門に肩まで布団をかけてやった。 それから長門が洗ってくれた服を着た。 キッチンのテーブルの上には昨日のご馳走がそのままの状態でおかれている。 オレはポケットをさぐり、テーブルの上に合い鍵と暗証番号の書かれた紙をおいた。 紙は雨のせいでインクがにじんでしまっていた。 …鍵は結局一度も使わず終いだった。夕飯の続きも二度と訪れることはなくなってしまった。 オレは後ろ髪を引かれる思いを振り切って部屋を出た。外は除々に明るくなっている。 いつまでも落ち込んではいられない。オレにはやるべきことがあるんだ。 家に帰ると、ベッドに横になって今後のことを考えた。 ハルヒが出産するのは10ヶ月ほど先だが、それまで彼女が一人でやっていけるとも思えない。 最悪、オレしかハルヒの味方はいないかもしれないんだ。 もしかしたら大学をやめることになるかもしれんな。 父さんや母さん、きっと怒るだろうな・・・ オレはいつのまにか眠ってしまい、起きたら昼すぎになっていた。 顔を洗って目を覚ますと、確認しなければならないことがあったのでオレは国木田に電話をかけた。 そして翌日、GWは昨日で終わりを告げ、世間は日常に戻っていた。 オレは今ハルヒの大学に来て、谷川という男を凝視している。 こいつこそがハルヒを苦しめた元凶の男だ。このまま黙って見逃すわけにはいかない。 なにもとって喰おうってわけじゃないが、一言ハルヒにわびを入れさせないと気がすまない。 昨日国木田に電話して、ハルヒの元彼氏についての情報を聞き出している。 国木田はしぶっていたが、オレの執念深い追及に折れていやいやながらも詳しく教えてくれた。 人数の多い学部だったので、オレは違和感なく潜り込むことができた。 昼の授業が終わるとヤツは大学の近くの飲み屋に入り、先に来ていたツレと合流した。 オレはあやしまれないように近くの席に座った。 ヤツはハルヒのことなど何事もなかったかのように談笑していた。 …なんでコイツは笑っていられるんだ?ハルヒがあれだけ苦しんでいるのを見ながら、 コイツはなんとも思わないのか? オレの心にドス黒い怒りがわきあがる。ヤツは今、オレの手の届く範囲に刃物がおいてないことを 感謝すべきだろう。 ツレB「・・・ところでお前、涼宮のことはどうなったんだ?」 突然ハルヒの名前が聞こえてきて、オレは意識を耳に集中させた。 谷川「だめだ。産むって言い張るだけでオレの言うことなんてちっとも聞きやしない。 ・・・どこまでも厄介なヤツだ」 ヤツの言い草にオレは、怒りのあまり反射的に席を立ちそうになったがなんとか踏みとどまった。 ツレA「ほっときゃいいんじゃね?お前に迷惑はかけないって言ってるんだろ?」 谷川「バカ言え。産まれたらおしまいだ。お前は知らないだろうが、 血縁上の父親には扶養義務っていうのがあってだな・・・」 オレの頭に親族法の講義で聞いた内容がよみがえったが、怒りのせいですぐにかき消えた。 ツレB「それじゃどうすんだ?」 谷川「なんとしても中絶させるさ。なんとしてもな・・・」 ツレA「まさかお前、またヤバいこと考えてるんじゃないだろうな?」 谷川「・・・どうしても言うこと聞かないときはやむを得んな」 ヤロウ・・・! 怒りのあまりオレの手が震えだした。コイツだけは絶対に許せん・・・ オレが席を立とうとしたそのときだった。 ツレA「無茶するな。ヘタすりゃ本当に警察行きだぞお前」 谷川「無茶でもなんでもするさ。なんたってオレの一生の問題だからな」 男の発言を聞いて、オレの頭の中でなにかがブチっと切れる音がはっきりと聞こえた。 怒りも限度がすぎると逆に頭が冴えてくるもんだ。 オレはコップを手に取って席を立つと、男の前まで歩いていった。 男たちは怪訝そうな目でオレを見上げている。オレは黙ったまま コップの中身を男の頭にぶちまけてやった。これで少しは頭が冷えただろう。 谷川「な・・・なにすんだこのヤロウ!」 男はオレに掴みかかってきた。 オレは男の手を振り払い、努めて冷静に言った。 キョン「お前に話がある。ちょっとつきあってくれ」 そう言うとオレはカウンターに札を一枚おき、店から出た。 男は頭に血がのぼったままのようだ。勇み足でオレの後からついてくる。 他の2人は、怪訝そうな顔をしながらもしぶしぶついてきた。 ひとけのない路地まで歩いてくると、男はなにも言わずにオレの頬を殴り飛ばした。 足がよろけて倒れたオレに対して、男は執拗にケリを入れてくる。 谷川「オレになんか恨みでもあるのか!ああッ!」 オレは男の足をつかみ、そのまま立ち上がると足払いをかけた。 男はバランスを失い、その場で盛大に倒れる。 キョン「お前に頼みがあるんだ」 谷川「・・・はぁ?」 キョン「ハルヒ・・・涼宮のことだがな。そっとしておいてくれないか?」 谷川「はぁ?なに言ってんだお前・・・」 男はわけがわからないといった顔をしていたが、なにやら思い当たることがあったようだ。 にやけた顔でオレのことを見て言った。 谷川「そうか。お前がキョンってヤツか。涼宮の高校のときの彼氏だって?ふーん?」 男はオレを鼻で笑い、言葉を続けた。 谷川「アイツのことが忘れられずにつきまとってるって感じだな。 まあ、オレたちはもう別れたんだ。後はお前が好きにすればいいさ。 ・・・しかし、つくづく物好きなヤツだな。3年間もアイツに振り回されて まだあきないのか?アイツの一体どこがいいんだ?」 キョン「そんなことはどうでもいい。オレはハルヒをそっとしておいてくれって言ってるんだ」 男は大きく息を吐いて言った。 谷川「お前も知ってるだろうが、アイツはオレの子を孕んでんだよ。それだけはなんとしても おろしてもらわないとな。お前からもアイツに言ってやってくれよ」 薄ら笑いを浮かべながら男は言う。男の言葉や仕草を認識するたびに、 オレの心の中にどす黒いモノが広がっていく。 キョン「もう一回だけ言うぞ。ハルヒをそっとしておいてくれないか?」 谷川「・・・お前にもわかりやすく言ってやるが、アイツがオレの子を産めば オレは子供が成人するまでずっとめんどうを見なきゃいけないんだ。 お前だって他の男が孕ませた子なんて厄介だと思ってるんだろ? お前がアイツを見捨てて頼る相手がいなくなりゃ、 最後はオレに責任をとらせるだろうからな。今のうちになんとかしなきゃいけないんだよ」 …そろそろ限界だ。これ以上ためこんでしまえば自分がなにをし出すかわからない。 だが、最後に確認だけはしておこう。 キョン「オレの言うことは聞いてもらえないってわけか」 谷川「そうだ」 男がそう言った瞬間、オレは男の顔面を右拳で思いっきり殴打した。 男はもんどりうって2mほど後ろに倒れた。 拳に激痛が走る。あたり場所が悪くて骨にヒビでも入ったのかもしれない。 殴られた男はもっと痛いだろう。だがそれはしかたない。 この男は正真正銘のクズだ。人の痛みなんてなんとも思っちゃいない。 口で言ったってハルヒの苦しみを理解することなんて不可能だろう。 だから、ハルヒの苦しみの何分の1でもいい。この男に理解させる必要がある。 離れた場所から見ていた男のツレ二人はあわててこっちに走ってきた。 一人は倒れた男をのぞきこんでおり、もう一人はオレを止めにかかる。 ツレA「お前っ、事情は知らねえがやりすぎ・・」 キョン「・・・どけ」 オレが目の前に立ちふさがる男のツレを凝視して言うと、そいつは腰が抜けたのか 地面にへたりこんでしまった。オレは今、どんな顔をしているのだろうか。 …まあいい。 オレは倒れている男を引きずり起こし、男の潰れた鼻頭に頭突きをブチ込んだ。 再び男は派手に倒れる。 …不意に頭部に激痛が走った。意識がもうろうとして、立っていられなくなる。 どうやら男のもう片方のツレが、どこかから調達した角材でオレの頭を強打したらしい。 ひざをついたオレに、再びそいつは打ちかかってきた。 オレは気力をふりしぼってそいつに体当たりを仕掛けた。 オレの思いがけない反撃により、そいつは角材を落として倒れる。 オレは角材を拾い、そいつに向き直った。 ツレB「ま、待ってくれ。オレは関係ないからな」 オレの顔色をうかがいながらそいつはゆっくりと後ずさり、 やがて全速力でその場から逃げ出した。 オレは角材を捨てると、顔を押さえて倒れている男を再び引きずり起こした。 谷川「もう・・やめてくれ・・・」 男の懇願に貸す耳は持っていない。 キョン「お前はどうあってもハルヒに中絶させるんだろ?なあ?だったらお前は人殺しだ。 オレはそれを防ぐためにお前を殺すんだから、これは立派な正当防衛だよな?」 刑法典を根底から無視した発言だが、今はどうだっていい。 谷川「た、助けてくれ・・・オレが悪かった・・・」 キョン「殺されたくないか?・・・ならこうしようか」 そう言うとオレは男の右腕を取り、脇固めの体勢に極めてから 思いっきり力を込めてヒジを関節と逆方向に曲げてやった。 …にぶい音がしたと同時に、あたりに男の絶叫が響いた。 男はヒジを押さえながら地面をのたうちまわっている。 キョン「腕が使えなくなれば物騒なこともできないもんな」 言いながら折れた腕を蹴飛ばすと、男はまた絶叫を上げた。 次は男の左腕に狙いをつける。 ツレA「・・やめ・・・もうカンベンしてやってくれ・・・」 キョン「そうだ。忘れてた」 オレは地面でのたうちまわる男を再三引きずり起こした。 キョン「ちゃんと去勢しとかなきゃいけなかったんだ。もう二度とイタズラできないようにな」 オレは男を抱えたまま右ヒザを後ろに下げた。このままヒザで男の股間を蹴り上げるつもりである。 ツレA「そのへんでカンベンしてやってくれッ!もう十分だッ!頼む、この通りだ!」 谷川「もう・・・ゆる・・して・・・」 そいつはオレから男を引き剥がすと、地面に頭をこすりつけた。 男も同様に地面に頭をつけている。 キョン「・・・ハルヒに詫びを入れて、二度と近づくな」 男とツレは大きくうなずいて、足を引きずりながら逃げていった。 その後姿を見送ると、急激に心のもやが晴れていく気がした。 あんなヤツにハルヒは・・・ちくしょう! なぜかむしょうに悔しくなり、オレは右拳を壁に叩きつけた。 目には涙がにじんでくる。叩きつけた拳は今になってひどく痛み出した。 …ハルヒに会いたい。 川沿いの公園に行けば、きっと会える気がする。 オレは痛む体を奮い立たせてゆっくりと歩きはじめた。 その足で電車に乗り、公園の最寄りの駅まで向かう。 他の乗客が怪訝な顔でオレに視線を送ってきた。 どうやら頭から血がたれてきたようだ。角材で殴られた箇所がひどく痛む。 だがそんなことはまったく気にならなかった。今は一秒でも早くアイツに会いたい。 駅を出て、一昨日のベンチまで走って行くと・・・いた。 ハルヒはベンチに腰かけ、川面をじっと見つめていた。 もしかして昨日もここに来ていたのだろうか? キョン「よう。平日の昼間からこんなとこでなにしてるんだ?」 オレが後ろから声をかけると、ハルヒは驚いてふりむいた。 ハルヒ「キョン?・・・どうしたのよその格好!?」 キョン「なんでもない。さっき派手に転んでしまったんだ」 ハルヒ「もしかしてさっきの電話・・・あんたまさか・・・」 あの男はあれからハルヒに詫びの電話でも入れたのだろうか。 ハルヒ「アンタ谷川に会ったんでしょ?なんで余計なことすんのよ! アンタには関係ないでしょ!・・・なんで」 男のことはオレに知られたくなかったのか、ハルヒは猛然とつっかかってきた。 とっさに返す言葉が見つからなかったので、オレは黙ってハルヒの横に腰をおろした。 ハルヒもそれ以上は追及ぜず、黙ったままハンカチでオレの血をぬぐってくれた 平日のせいか周りは人影がまばらだった。傾きかけた太陽が川面に映えて美しい。 頭の痛みは少しずつやわらいでいった。 キョン「・・・あの男、お前に未練があったみたいなんでな。あきらめてもらうよう 説得したんだ」 本当のことは言うわけにはいかないので、オレはあたりさわりのないように言った。 一応ウソはついてない・・・と思う。 ハルヒ「なんで・・・余計なこと・・・」 キョン「・・・そうだな、お前の言うとおりだ。余計なことをしてすまなかった。 オレのせいで事態をややこしくしてしまったみたいだな。・・・その責任は取るさ」 ハルヒ「えっ・・・」 ハルヒは目を見開いてオレを見上げた。 キョン「この2年間、オレはお前を忘れたことはなかった。でもオレは 自分の気持ちに素直になれなくて、ずっと苦しんできた。お前に拒絶されることが怖かった」 ハルヒ「ウソ・・・だって・・・有希は・・・」 キョン「・・・もういいんだ。オレが素直になれなかったせいでアイツをひどく傷つけてしまったけど、 アイツはそんなオレに大事なことを教えてくれた。ほんの少しだけ勇気を持てば、 あとは迷わず踏み出せばいい。それはそんなに難しいことじゃない・・・ってな」 涙腺が弱くなっているのか、すでにハルヒの両目には涙が光っていた。 彼女の声はふるえている。 ハルヒ「・・・でも・・私のお腹には・・・」 キョン「今日からオレの子だ」 オレがそう言うと、ハルヒは大粒の涙を流しはじめた。 彼女はそれをぬぐおうともしなかった。 ハルヒ「ホントに?・・・ホントにいいの?・・・ホントに」 キョン「名前はオレが決めるからな」 ハルヒは泣きながら何度もうなずいた。オレは彼女の肩をやさしく抱いてなぐさめた。 日が傾き、完全に沈んだ後もまだハルヒは泣き続けていた。 それからしばらくオレは大学に行けなかった。 いわゆるケジメってやつをつけるのに時間がかかったせいだ。 本来ならばあの男がつけるはずのことだが、もはやそれはどうでもいい。 オレが自ら望んでしたことだしな。 父さんはなにも言わなかった。 ただ一言だけ、大学はちゃんと卒業しろ、と言ってくれた。 母さんははじめこそ反対していたが、父さんがなにも言わないので 最終的に折れてくれたようだ。 ハルヒの両親にあいさつに行ったときは、はっきりいって気まずかった。 事情が事情だけに、向こうも相当気まずいようだった。 ただ、とりあえずはハルヒの出産を認めてくれたようで、 彼女は大学を休学して出産に専念することとなった。 これでひとまずは一安心といいたい所だが、本当に大変なのはこれからだろう。 翌週の月曜日、オレは一週間ぶりに大学へ行った。 オレが休んでいる間に行われた就職説明会の資料を受け取ったり、 休んでいる間の講義ノートを学部の友達に写させてもらったりした。 たかだか一週間のプランクとはいえ、すべての講義をフォローするのはなかなか骨が折れる。 午前中はほとんどその作業に時間を費やしていた。 気がつくと12時を回っており、腹の鳴る音にせかされて食堂へと向かった。 中は相変わらずの混雑だ。ふと遠くの一角に目をやると、長門とその友達が仲良く談笑している姿が見えた。 …そうだよな。いつまでも落ち込んでなんかいられないよな。 食堂で昼飯を食うつもりだったが、少し気が変わった。オレはパンとドリンクを買って 図書館横のベンチへと向かった。 今日もいい天気だ。オレは説明会の資料に目を通しながらパンをほおばった。 しばらくひざの上の資料に目を通していると、誰かが目の前にきたようだ。 その人物を見上げると・・・そこには長門が立っていた。 驚くことに彼女は眼鏡をかけていた。長門が眼鏡をかけてる姿を見るのは 実に数年ぶりのことである。 長門「・・・お久しぶり」 キョン「ああ。・・・眼鏡、どうしたんだ?イメチェンでもしたのか?」 長門「まあ、そんなとこ」 長門は微笑みながら言った。その笑顔を見てオレは少し安心した。 長門「似合う?」 キョン「ああ、よく似合ってる」 そう言ってから、オレは一言付け足した。 キョン「・・・だけど、やっぱりかけないほうが可愛いと思うぞ」 オレがそう言うと、長門は満面に笑みを浮かべて答えた。 長門「かけたほうが可愛いっていう人だっているわ」 長門の言葉に、オレはあっけにとられてしまった。 彼女はオレの顔をニコニコしながら見つめている。 …はは、なんだか一本とられたみたいだな。 長門は本当に変わった。オレは長門を深く傷つけてしまったけれど、 そんなオレにさえ彼女は最高の笑顔を見せてくれる。 …もしかしたら、長門の心の傷は一生癒えないのかもしれない。 しかし、つらいことの後には必ずいいことが訪れるはずであり、 人はそれを励みにして生きていくことができる。 人の一生はその連続であり、つらいことを経験した数だけ強くなっていける。 その数だけ人の痛みがわかるようになる。 こういう人の心の動きは、人知の及ばない宇宙生命体が 何百万年もの時間をかけて観察したところで決して理解できないだろう。 長門「・・・お願いがあるの」 キョン「お前の頼みならなんだって聞いてやるぞ」 長門「私、涼宮ハルヒに会いたい。会って聞きたいことがあるの」 キョン「その言葉を聞いたらアイツ喜ぶと思うぞ。・・・何が聞きたいんだ?」 長門は少し照れながら言った。 長門「その、出産について・・・いろいろ教えてほしい」 彼女はそれに小声で付け加えた。 長門「私も・・・いつか子供を産んでみたいから」 長門が恥じらいながら言うのを見て、不覚にも鼓動が早くなってしまった。 …それから、ほんの少しだけ後悔した。 エピローグ …目覚ましの大音量で強制的に起こされた。寝ぼけまなこで時間を確認すると、 まだ6時20分である。誰がこの時間にセットしたんだ?まったく、今日は土曜だってのに・・・ オレは目覚ましをぶっ叩いて止めると、そのまま枕に顔をうずめた。 今日は休みなんだ。最低でも10時すぎまではゆっくり寝るぞ・・・ 再びオレが眠りに落ちかけていると、突然背中にするどい痛みを感じた。 キョン「ぐぼぁッ!」 「パパ!休みだからっていつまでも寝てちゃダメじゃないッ!」 キョン「お前・・・エルボーはやめろって言っただろ・・・殺す気か!」 そのままオレの背中に乗っかって体を揺らし続けているのは・・・娘のハルカだった。 ハルカ「ちゃんと目覚まし仕掛けといたでしょ?これで起きないパパが悪いのよ」 キョン「お前はたまの休日ぐらいお父さんを労わろうって気はないのか?」 ハルカはオレから布団を引き剥がして言った。 ハルカ「もうごはんできてるから早く降りてこいってママが言ってるの。 40秒以内だからねッ!」 そう言うとハルカは駆け足で下に降りていった。 ふー、やれやれ。一体誰に似たんだか・・・ オレは顔を洗ってキッチンに向かうと、すでに朝食の準備は整っていたようだ。 8人がけの大テーブルの上に4人分の朝食が湯気を上げていた。 キョン「おはよう。今朝はお前たちだけか?」 「アイツら、とことん朝弱いからねえ・・・」 オレの問いに答えたのはハルカの双子の弟、ハルキだった。 16年前のあのとき、ハルヒが苦心して守り抜いたお腹の子はなんと双子だったのだ。 双子は二人ともハルヒに似て、とてもりりしい顔立ちをしている。 というか、ほとんどハルヒの生き写しといっていいぐらいであった。 特にハルカに至っては高校時代のハルヒそのままだった。 ハルヒと違うのは、頭につけたカチューシャとリボンの色ぐらいのものである。 あのときの苦労を思うとオレは今でも涙がにじんでくる。 ハルヒ「他の子たちはちっとも起きてこないの。しかたないから私たちだけで 先に食べちゃいましょ」 …朝に弱いのはどうやらオレの血筋らしいな。 ハルヒはすでに30代も後半にさしかかっているというのに、いまだその美貌は失われていない。 20代でも通用するかもしれん。・・・決してオレのひいき目じゃないぞ。 長く伸ばした髪は後ろでくくってポニーテールにしている。お互いもういい歳なのだが、 オレのたっての願いでいまだにこの髪型を維持してもらっているというわけだ。 あと5年は続けてもらう予定だ。 キョン「今日もまた不思議探索をやるのか?」 ハルカ「そうよ!最近は除々に団員が増えてきたからね。 探索地域も初期の頃に比べてかなり拡大したわ!」 ハルカはごはんをかきこみながら言った。 ハルキ「・・・姉さん、そろそろ僕は文芸部の活動に専念したいんだけど」 その言葉にハルカは目を光らせ、弟の頭にすばやくヘッドロックを極めた。 ハルカ「なに言ってんの!アンタは由緒あるSOS団の団員第5号なのよ! そのことを誇りに思えばこそ、やめるなんてこの私が許さないわよ!」 ハルキは必死で姉の腕にタップしているが、どうやらハルカの辞書に ギブアップという言葉はないらしい。 …ハルキが団員5号ってことは、オレはいまだにSOS団の団員ってことになるな。 記念すべき団員1号だ。 ハルヒは結局大学には戻らず、出産後は育児に専念した。 才能あふれるハルヒのことだから、どんな道に進んでもある程度の成功は約束されていたはずだ。 オレは幾度となく大学への復帰をほのめかしたが、そのたびにハルヒは首を横に振った。 …正直なところ、オレとしてはハルヒが家にいてくれるほうがうれしかったのではあるが。 ハルヒはその持て余した時間のほとんどを子供たちの英才教育につぎ込んだ。 おかげで子供たちはそれぞれ独自の才能を開花させつつある。 特にハルカに至ってはハルヒの思想を濃厚に受け継いでいた。もしかしたらハルヒはひそかに 伝承法を編み出しており、自分の娘に人格をそっくりそのままコピーしたのではないかと疑いたくなるぐらいである。 ハルカは中学で優秀な成績を修めながらも、進学先はオレとハルヒの母校である北高を選んだ。 ハルキも同様に優秀な成績を修めていたが、姉に強制的に進路を決められて 同じ道に進むこととなった。 彼は中学生にして直木賞の選考に残るほどの作品を書く大型ルーキーであるが、 最近の執筆活動はどうやらハルカの妨害によりかんばしくないようだ。 ハルキが高校で入部した文芸部は、あわれハルカの陰謀により十数年ぶりに復活したSOS団の根城となってしまった。 彼はかつての長門の位置で本を読みつつ、2代目団長にツッコミを入れるという離れ技を披露しているようだ。 オレと長門の役を一人でこなすとは、我が息子ながら見上げたものである。 ハルヒ「今、団員はどれぐらいいるの?」 ハルカ「聞いて驚いてよママ!一週間前に入団した転校生を合わせて、 なんと総勢45人になったわ!」 ハルヒ「へぇ~、大したもんね!この子はきっと私を超える団長になるわ!ね、キョン?」 キョン「まったくだ」 嫁さんからいまだに高校時代のあだ名で呼ばれていることはさておき、新生SOS団は なぜかおそるべき大所帯となっていた。 ハルカの人間離れした魅力とハルキの人当たりのよさがどうやら人を惹きつけるらしい。 さすがに宇宙人その他もろもろはいないと思うが、断言はできない。 というわけで、SOS団の二代目団長はかつてのハルヒ以上の台風の目となり、 北高及びその周辺地域を暴れまわっているというわけだ。 そんな姉の様子を見て、ハルキは気づかれないようこっそりとため息をついた。 …息子よ。お前の気持ちは痛いほどわかるぞ。かつてはオレがその立場にいたんだ。 むしろ双子なだけに、お前たちはオレとハルヒ以上に運命共同体なのかもな。 いつかハルカに一生を共にしてもいいっていう男が現れるまでは お前がパートナーを務め続けることになるんだろう。 ハルカ「それでね。団員も増えてきたことだし、今日はSOS団初代団長と 栄誉ある団員1号にご足労願いたいの!みんなきっと喜ぶと思うわ!」 …なんだって? ハルヒ「そうねえ・・・今日は特に予定もないし、いいわッ!初代団長であるこの私が、 若い団員たちにありがた~い話を披露してあげる!いいわよねキョン?」 キョン「お、お前・・・本気で言ってるのか?」 ハルヒ「もちろんじゃない!私たちの意思を受け継いだSOS団よ。一度お目にかかりたいと 思ってたの。アンタだってそうでしょ?」 …そうだった。コイツはいつだって本気なんだ。前言を撤回しよう。 オレはいまだに昔と変わらない立場にいるようだ。 オレはハルキと目を合わせると、同時に深いため息をついた。 くそ、なんだか急に目が覚めてきた。こうなりゃヤケだ。 今日はとことん新生SOS団につきあってやろうじゃないか。 不思議探しをするのも十数年ぶりだ。もしかしたら、あのときにはなかった不思議が 新たに発生してるかもしれんしな。 窓からは明るい日差しが差し込んできて、絶好の探索日和である。 しかし初代と二代目がそろってしまえば、なにやらとてつもないモノを 発見してしまいそうな予感がして、少し不安でもある。 願わくば、後処理が比較的楽な不思議が見つかりますように。 -fin-
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涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡 「今日はこれで終わり! みんな解散よ!」 窓から入ってくる夕焼けに染められたわけではないだろうが、ハルヒの黄色く元気の良い声が部室内に轟く。 この一言で、今日も変わったこともなく、俺は古泉とボードゲームに興じ、朝比奈さんはメイドコスプレで居眠り、 長門は部屋の隅で考える人読書バージョン状態を貫き、年中無休のSOS団の一日が終わった。 正直ここ最近は平凡すぎる日常で拍子抜け以上に退屈感すら感じてしまっているのだが、まあ実際に事件が起これば 二度とご免だと思うことは確実であるからして、とりあえずこの凡庸な今日という一日の終了に感謝しておくべき事だろう。 俺たちは着替えをするからと朝比奈さんを残しつつ、ハルヒを先頭に部室から出ていく。どのみち、朝比奈さんとは 昇降口で合流し、SOS団で赤く染まったハイキング下校をするけどな。 下駄箱に向かう間、ハルヒは何やら熱心に長門に向かって語りかけている。 それをこちらに注意を向けていないと判断したのか、古泉が鼻息をぶつけるぐらいに顔を急接近させ、 「いやあ、今日も平穏無事に終わりましたね。こうも何もないと返って不安になるほどですよ。 まだまだあの神人狩りに明け暮れていたときのくせが抜けていないようでして」 「ないことに越したことはないね。犬が妙な病気になったことを相談されたりされるぐらいならちょうど良い暇つぶしにはなるが、 事と次第によってはとんでもない大事件の場合もあるからな」 俺は古泉と数歩距離を取りつつ返す。古泉はくくっと苦笑を浮かべると、 「何かが起こった方が楽しい。だけど、その影響範囲を含めた規模や自分にとって利益不利益どちらになるかわからないなら、 いっそどちらとも起きない方が良いというわけですか。実にあなたらしい考え方と思いますよ。 恐らく涼宮さんとは正反対の思考パターンですが」 「あいつの場合は、自分にとって楽しいことだけ起こればいいと思っているんだろ。世の中そんなに甘くはねぇよ。 ま、命を狙われたり世界を改変されて孤立したりしたことがないんだから、当然っちゃ当然だな」 大抵、人間ってモノはどこかで何かが起こることを期待しているもんだ。俺だって昔は宇宙人とか未来人とか超能力者が いてくれればいいなぁとか、映画並みのスペクタクルが起きたりしないかと思っていたしな。 ただ、実際に目の前でそんなことが起これば考え方も変わる。少なくとも、もう俺はタヒチのリゾートにあるような 透明度の高い純真な期待感なんて持たないだろう。 そんな俺に古泉はさらに苦笑いして、 「おや、ひょっとして今まで多くのことを経験しすぎて、一生分のインパクトを消化してしまったんですか? 前途ある十代の若者にあるまじき枯れっぷりな考え方ですよ」 うるせえな。一度ヒマラヤの頂上に届きかねないびっくり仰天事やマリアナ海溝以上に深いどん底に突き落とされる 経験しちまうと、何だかんだで海抜ゼロメートルプラスマイナス数百程度が一番いいと思い知らされただけだ。 そんな話をしている間にようやく下駄箱に到着だ。ハルヒの長門に対する語りかけは、もうヒトラーの演説、 テンション最高潮時な演説と化している。もっとも当の長門は相づちを打つように数ミリだけ頭を上下させるだけなんだが。 しかし、そんな自分に酔っているような話し方をしながらも、ハルヒはちゃっちゃと下駄箱から靴を取り出し 下校の準備を進める。全く口と身体が独立して稼働しているんじゃないか? もう一つの脳はどこにある。やっぱりあそこか。 「遅れちゃってごめんなさい」 背後から可憐ボイスが背中にぶつかる。振り返れば、いそいそと北高セーラ服に着替えた朝比奈さんが小走りに現れた。 背後にある窓から夕日が入り、おおなんと神々しいお姿よ。 俺がそんな神秘的情景を教会で奇跡がおきるのを目撃した神父の如く感涙して(していないが)いたところへ、 「ほらっキョン! なにぼーっとしてんのよ! とっとと靴履いて帰るわよ!」 いつの間にやら演説を停止したハルヒ団長様からの声で、幻想的光景から強引に引きずり出された。 全くもうちょっと堪能させてくれよな。まあ、当の朝比奈さんもとっとと俺を追い越して、靴をはき始めているから俺も続くかね。 そんなわけで俺は自分の下駄箱を開けて―― 「…………」 すぐに気がついた。俺の靴の上に一枚の紙切れ――手紙じゃない。本当にただの一枚紙である――があることに。 朝比奈さん(大)の仕業か? またいつもの指令書か…… しかし、違うことにすぐ気がつく。朝比奈さん(大)はもっとファンシーで可愛らしくいい臭いがしそうな封筒入りを使うが、 今ここにあるのはぴらぴらの紙一枚。こんな無愛想なもので送りつけるような人じゃない。それに書いてある内容が 『あと30分以内に●●町の公園に来なさい。一人で』 とまあ何とも一方的な内容である。しかも命令口調。まるでハルヒからの電話連絡みたいだ。 ふと、これはハルヒが書いて何か俺に対してイタズラでもしようとしているのでは?と思ったが、 「なーにやってんのよ! さっさとしなさい!」 当のハルヒは俺につばを飛ばして急かしてきている。大体、こんな手紙なんていう回りくどい手段をあいつがとるはずもなく、 誰もいなくなったところで俺のネクタイ引っ張って行きたいところに走り出すだろうな。 じゃあ、これはなんだ? ラブレターの可能性は否定できないのも事実。せっかくだから行ってみるのも悪くないか。 時計を確認する。ここから指定された場所まではゆっくり歩いて30分もかからない。帰りに道に寄ってみるかね。 俺は他の団員に見つからないように、その紙をポケットにねじ込んだ。 ◇◇◇◇ さて、下校途中に他の連中と別れた俺は、とっとと目的の公園に向かう。初めて行く場所だったので、 その辺りにあった看板の地図を見ながら向かった。 が。 「……全く」 おれは嘆息する。さっきから背後をハルヒたちが付けてきているからだ。どうやら、あの紙をもらってからの俺の挙動が 不審だとハルヒレーダーが捕らえていたらしい。相変わらずの動物並みの嗅覚だよ。 しかし、別に俺はやましいことをしているわけでもないんだから、このまま放っておいてもいいか。 俺はそう割り切ると、俺は背後のストーカー集団を無視して目的地に向かった。 ◇◇◇◇ 俺はようやく目的地にたどり着いた。時計を見ると、あの紙切れを読んでから20分程度。指定された時間には間に合っている。 平日夕方でぼちぼち日が落ちつつあるためか、指定された公園には人一人おらず、閑散とした静けさに覆われていた。 どこからともなく流れてくる夕飯の香りが俺の空腹感を刺激する。 ふと、背後を突けていた連中がいなくなっていることに気が付いた。なんだ? 捲いたつもりはなかったから、 途中でハルヒが尾行に飽きたのか? 俺はそんなことを考えながら、あの紙切れをポケットから取り出して―― この時、初めて俺はここに何の警戒心も持たずのうのうとやってきてしまったことを後悔した。見れば、その紙の文面が 『付けていた連中はいないわよ。邪魔だったから追っ払っておいたわ』 そう変わっていた――ちょっと待て。この紙はずっと俺のポケットに入ったままになっていたはずだ。 それを書き換えるなんていう芸当ができるのはごくごく限られた特殊能力を持つものしかあり得ない。 つまり、俺を呼び出した奴は一般人ではなく、宇宙人・未来人・超能力者――あるいはそれに類する奴って事だ。 ちっ。これで呼び出したのが朝倉みたいな奴だったら、洒落にならんぞ。 すぐに携帯電話を取り出し、とりあえず古泉に―― しかし、時すでに遅し。俺の周りの景色が突然色反転を起こしたかのようになり、次第にぐるぐると回転を始める。 やがて、俺の意識も落下するように闇に落ちていった…… ◇◇◇◇ 「いて!」 唐突に叩きつけられた感触に、俺は苦痛の悲鳴を上げた。まるで背中から落ちたような痛みが全身に走り、 神経を伝って身体を振るわせる。 そんな中でも、俺は必死に状況を探ろうと密着している地面を手でさすった。切れ目のようなものが規則的に感じられ、 コンクリートや鉄ではなくそれが木でできている感触が伝わってくる。 ようやく通り過ぎた痛みの嵐に合わせて、俺は閉じたままだった目をゆっくりと開けた。まず一面に広がる教室の床が 視界を覆う。同時についさっきまで俺に浴びせられていた夕日の灯火が全くなくなっていることに気が付いた。 俺を月明かりでもない何かの弱い光を包み込んでいる。その光のせいか、俺のいる部屋の中は灰色に変色させられ―― 気が付いた。この色合い、以前に見たことがある。あのハルヒが作り出す閉鎖空間と同じものだ。 俺は痛みも忘れ、飛び上がるように立ち上がり、辺りを見回した。 出入り口・黒板・窓の位置。俺がいるのは文芸部室――SOS団の根城と同じ構成の狭い部屋だった。 ただし、ハルヒの持ち込んだ大量のものは一つとして存在せず、空き部屋の状態だった。ただ一つ、見慣れた団長席と同じように 窓の前に置かれた一つの机と、その上に背中を向けてあぐらをかいて座っている一人の人間を除いて。 「……誰だ?」 自分のでも驚くほど落ち着いた声でその人物に語りかける。窓から見える景色は、薄暗い闇に包まれた灰色の世界だった。 やはりここは閉鎖空間なのか? しかし、誰だと語りかけた割には、俺はその机の上に座っている人物に見覚えがあった。いや、そんな曖昧な表現ではダメか。 北高のセーラ服に身を包み、肩に掛かる程度の髪の長さ、そして、あのトレードマークとも入れるリボンつきのカチューシャ。 該当する人間はたった一人しかいない。 こちらの呼びかけに完全に無視したそいつに、俺は再度声をかける。 「俺を呼び出したのはお前なのか? ここはどこだ?」 「黙りなさい」 ドスのきいた声。しかし、殺気に満ちたそれでも、俺はその声を知っていた。 ………… ………… ………… 長らく続く沈黙。俺はどう動くべきか脳細胞をフル回転させていたが、さきに目の前の女がそれを打ち破った。 「――よしっ!」 そう彼女は威勢のいい声を放つと、机から身軽に飛び降りてこちらをやってきた。そして、問答無用と言わんばかりに 俺のネクタイをつかむと、 「成功したわ。奴らにも気が付かれていない。今回はちょっと難易度が高かったから、失敗するかもと思っていたけど、 案外簡単にいったわね。そういうわけで協力してもらうわよ」 おいちょっと待て。なにがそういうわけだ。その言葉には前後のつながりがなさすぎるぞ。 「そんなことはどうでもいいのよ。あんたはあたしの質問に答えれば良いだけ。簡単でしょ?」 「状況どころか、自分が一体全体どこにいるのかもわからんってのに、冷静な反応なんてできるわけねぇだろうが」 ぎりぎりとネクタイを締め上げてくるそいつに、俺は抗議の声を上げた。 だが、この時点で俺は確信を持った。今むちゃくちゃな態度で俺に接してきている人物。容姿・声・性格全て合わせて、 完全無欠に涼宮ハルヒだった。ああ、こんな奴は世界中探してもこいつ以外一人もいないだろうから、 そっくりさんということはないだろう。 俺の目の前にいるハルヒは、すっとネクタイから手を離すと、腰に手を当てふんぞり返って、 「全く情けないわね。少しは骨があるかと思っていたけど、どっからどうみてもただの一般人じゃない」 「当たり前だ。今までそれは嫌というほど見せつけてきただろ」 俺の返した言葉に、ハルヒはふんと顔を背けると、 「あんたとは今日初めて合ったんだから、そんなことわかるわけないでしょ」 あのな、初対面の人間に一方的に問いつめるのはどうかと――ちょっと待て。なんだそりゃ、俺の記憶が正しければ、 お前とはかれこれ一年以上の付き合いになるはずなんだが。しかも、クラス替えまでしてもしっかりと俺の後ろの席に 座り続けているじゃないか。 「それはあんたの所のあたし。あたしはあんたなんて知らないし、こないだ平行時間軸階層の解析中に見つけるまで 存在すら知らなかったわ」 このハルヒは淡々と語っているんだが、あいにく俺には何を言っているのかさっぱりだ。しかも、話がかみ合ってねえ。 このままぎゃーぎゃー言っても時間の無駄だろう。 俺は一旦話をリセットすべく両手を上げてそれを振ると、 「あー、とりあえず話がめちゃくちゃで訳がわからん。とにかく、まず俺がお前に質問させてくれ。 それで状況が把握できて納得もできたら、お前に協力してやることもやぶさかじゃない」 俺の言葉にハルヒはしばらくあごに手を当てて考えていたが、やがて大きくため息を吐くと、 「わかったわよ」 そう渋々承諾する。よし、とにかくボールはこっちが握った。まずは状況把握からだ。 真っ先に俺が聞いたのはこれである。 「お前は誰だ?」 俺の質問に、ハルヒはあきれ顔で、 「涼宮ハルヒよ。他の誰だって言うのよ」 「巧妙に化けた偽物って可能性もあるからな。俺の周りにはそんなことも平然とやってのけそうな連中でいっぱいだし」 「それじゃ、証明のしようがないじゃん。どうしろっていうのよ」 ハルヒの突っ込みに俺は返す言葉をなくす。確かに疑えばどうとでも疑えるのが、俺を取り巻く現在の環境だ。 となると、これ以上追求しても意味がない。それに俺の直感に頼る限り、今目の前にいるのはあのわがまま団長様と 人格・容姿ともに完全に一致しているわけで、それを涼宮ハルヒという人間であると認識しても問題ないだろう。 だがしかし、先ほどの言い回しを見ていると、俺が知っている『涼宮ハルヒ』ではない。 「えー、聞きたいのはな、お前がハルヒであることは認めるが、俺の知っているハルヒじゃなさそうだって事だ。 なら俺のつたない脳を使って判断すると、ハルヒが二人いるって事になるんだが」 「そうよ」 そうよ、じゃねえよ。そこをきっちり説明してくれ。 「あー。あんたの頭に合わせて言うと、別の世界のあたしってことよ。平行世界って言葉ぐらい聞いたことあるでしょ? ここはあんたのいた世界とは似ているけど別の世界ってことよ」 簡単すぎてかえってわからんような。まあいい、いわゆる異世界人ってことにしておこう。このハルヒから見れば、 俺の方が異世界人なんだろうが。 ……しかし、ついにでちまったか、異世界人。しかもよりにもよって別の世界のハルヒとはね。こいつは予想外だったぜ。 ここでふとハルヒが口をあんぐりと開けて呆然としているのが目に入った。 「ちょっと驚いたわ。随分あっさりと受け入れるのね」 「最初は本意じゃなかったが、いろいろ今までそういう突拍子もない話は聞かされまくったから、 いまさらここは異世界で自分は異世界人ですっていわれても、今更驚かねえよ。異世界人については今まで伏線もあったからな」 俺の言葉にハルヒは興味深そうに目を輝かせている。何だ? こいつも宇宙人・未来人・超能力者のたぐいを求めているのか? まあいい。俺は次の質問に移る。 「ここはどこだ?」 「時間平面の狭間よ」 ……何というか、ハルヒが真顔で朝比奈さんチックなことを言うと違和感がひどいな。それはさておき、それじゃわからん。 わかるように説明してくれ。 「何よ、そんなことぐらい直感でピンと来ないわけ? 呆れたわ。未知との遭遇体験に慣れているだけで、 肝心の理解能力は本当に凡人なのね。まあいいわ、ざっと説明すると、あたしが作った空間で誰も入って来れず、 誰も認識できない場所。これくらいグレードを落とせばわかるでしょ」 いちいち鼻につく言い回しなのもハルヒ独特だよ。確かにわかりやすいが。って、なら俺が今ここにいるのは、 お前が招待したからってことなのか? 「そうよ。もっとも周りの人間に悟られずにやるのには、それなりに細工が必要だけどね」 なら次に聞くことは自然に出てくる。 「で、一体俺を何のためにここに連れてきたんだ? 何が目的だ?」 これが核心の部分になるだろう。自己紹介は終わった以上、次は目的についてだ。 ハルヒは待ってましたと言わんばかりに、にやりと笑みを浮かべ、 「それは今から説明してあげる。長くなるから、そこの椅子に座って聞きなさい」 そうハルヒは、また窓の前にある俺的に団長席の上に座る。そして、すっと手を挙げると、床から一つのパイプ椅子が 浮かび上がってくる。 ここまでの話で大体予測していたが、このハルヒは普通じゃない。いや、確かに俺のよく知っているSOS団団長涼宮ハルヒも 変態的神パワーを持ってはいたが、自覚していないため自由にそれを操ることはできない。しかし、この目の前にいるハルヒは 自分の意思で長門レベルのことを今俺の目の前でやってのけたのだ。 やれやれ、これはちょっと異世界訪問という話で済みそうにない気がしてきた。 俺はハルヒの頼んでもないご厚意に甘えることにして、パイプ椅子に座る。 「さて……」 ハルヒはオホンと喉の調子を整えると、 「あんた、宇宙人の存在は信じる?」 このハルヒの言葉に何か懐かしいものを感じた。あの北高入学式のハルヒの自己紹介。ただ、いくつか欠けてはいるが。 俺は当然と手を挙げて、 「ああ信じるよ。少なくとも俺の世界ではごろごろ――とはいかないが、結構遭遇したしな」 「……情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースに?」 返されたハルヒの言葉に、俺は驚く。何だ、このハルヒは長門のパトロンのことを知っているのか? 「当然よ。あいつらの存在、そして、どれだけ危険な連中かもね。実質的にあたしの完全無欠な敵よ」 ――敵。ハルヒの口から放たれた声には明らかに敵意が混じっていた。 どういうことだ。俺が知っている限り、奴らは内部対立はあるとはいえ、主流派は黙ってハルヒを観察することにしていたはず。 あからさまな敵意を見せてはいないんだよ。 「何ですって……? まさか……いや……」 ハルヒは予想外と言わんばかりに思案顔に移行するが、軽く頭を振ると、 「まあいいわ。とにかく、あたしと情報統合思念体は対立関係にある。というよりも、情報統合思念体が一方的にあたしを 敵視して排除しようとしているだけなんだけどね。こっちとしても、敵意さえ見せなければ別に相手にする気もないんだけどさ」 ハルヒはあきれ顔でふうっとため息を吐いた。 排除しようとしているとは、まるで俺の世界とは正反対の行動じゃないか。 「何で対立しているんだ? いや、どうして情報統合思念体はお前を排除しようとしているんだ?」 「細かいレベルでの理由は知らない。とにかくあたしの存在を勝手に危険と認識して、襲ってくるのよ。 それも狙うのはあたしだけじゃない。この星ごと消滅させようとするわ。そんなの許せるわけないじゃない」 「星……ごと?」 何だか話がSF侵略映画っぽくなってきたぞ。情報統合思念体が地球を攻撃するとは、まさにハリウッド映画。 ――ここでハルヒは思い出に浸るように天井に視線を向けると、 「三年前――いや、あんたのいた時間から見れば四年前か。その時、あたしは自分が持っている力に気が付いた。 野球場に連れられていったあの日、自分の存在がどれだけちっぽけな存在であるか自覚したとたん、体内で何かが爆発したような 感覚がわき起こり、この世の全ての存在・情報がどっとあたしの中に流れ込んできたのよ。当然、その中に情報統合思念体に ついてのこともあった」 ここで気が付く。さっきまで俺は灰色に染まった教室の中にいたはずなのに、いつの間にかまるで360度スクリーンの 映画館のような状態になっていることに。そこには野球場の人数に圧倒されるハルヒ・電卓で野球場の人間が 地球上でどのくらいのわりあいなのか計算するハルヒ・ブランコで物思いにふけるハルヒの姿が映し出される。 「きっとその時に向こう――情報統合思念体も気が付いたんでしょうね。あたしはその巨大な存在に触れてみようとした。 そのとたん……」 ハルヒの言葉に続くように、今度は宇宙から眺める地球の姿が映し出される。そして、 「嘘だろ……」 俺は驚嘆の声を上げた。まるで――そうだ、長門が朝倉を分解したときみたいに、地球が一部が粉末のように変化を始めた。 それは次第に地球全土へと広がっていき、最後には風に飛ばされるようにちりぢりにされ消滅してしまった。 呆然と見ることしかできない俺。と、スクリーンに星以外に一つだけ残されているものがあった。 「無意識に自分のみを守ろうとしたんだと思う。気が付いたとき、あたしは宇宙から消えていく自分の星を眺めていた。 ただその恐ろしさと悲しさに泣きじゃくりながら何もできずに」 ハルヒだった。まだ幼い容姿のハルヒが宇宙空間で座り込むような格好で泣きじゃくっている。 目の前で淡々と語るハルヒは決してそのスクリーン上の自らの姿を見ようとせず目を閉じながら、 「何でこんな事になったのか、この時は理解できなかった。いや、今でも完全に理解できた訳じゃないけど。 あたしはただ情報統合思念体という大きく魅力的に見えたものに触れようとしただけ。なのに、奴らはあたしどころか、 周囲全てを巻き込んで消し去ろうとした――許せるわけないじゃない。あたしは何の敵対行動も取っていないのに」 その声には怒気どころか殺気すら篭もっていた。確かに、なにも悪いことをした憶えもないのに、いきなり攻撃されて しかも無関係な人たちまで抹殺したんだから怒って当然か。しかし、何でそこまでして情報統合思念体はハルヒを消そうとする? 「知らないわよそんなこと。とにかく、その後あたしは情報統合思念体からの次の攻撃に備えていた。 あたしの抹殺に失敗した以上、また仕掛けてくると思ったから。でも、いつまで経っても襲ってくる気配はなく、 ただ時間だけが過ぎたわ。おかげでその長い時の間に大体自分ができることがわかったわ。奴らへの対抗措置もね」 「何で連中は追撃してこなかったんだ?」 「あとで奴らの内部に侵入して確認したときにわかったんだけど、最初の攻撃時にあたしは無意識に情報統合思念体に対して ダミー情報を送り込んだみたい。あたしは強大な力を手にした。だけど、あたしはそれを自覚していないという形でね。 だから、奴らは地球を抹殺した理由がなくなり、どうしてそう言った行為を取ったのかわからない状態として処理されていた。 そこにあたしは目を付けた」 ハルヒの言葉に続き、周囲のスクリーンに無数――数えることのできないほどのガラス板のようなものが並列で並んでいる 映像が映し出される。その一枚一枚には無数のカラフルな丸い点が描かれ、様々な形に変化・縮小・拡大・消滅・発生を 繰り返している。 「あたしは地球抹殺の理由の接合性がなくなっていた情報をさらに改ざんした。あたしは自分の力を自覚していない、 だから情報統合思念体は何の行動も起こさなかった。だから地球は消滅していないと。 地球自体は消滅前の時間軸に残されていた情報をコピーしてあたしが再生した。幸い、連中も脇が甘いのか、 そういったことは多々にあるのか、あっさりとあたしの情報改ざんは成功したわ。おかげであの日の惨劇はなかったことにできた。 ただあたしが力を得たという情報まで奴らから消去することはできなかった。結構希少な情報だったせいか、前例として 広域な情報に関連づけられていたから、これを改ざんすると他への影響範囲が大きすぎて、全部改ざんなんて不可能だったから」 あまりのスケールの大きさに呆然と耳を傾けることしかできない。 「……ここじゃそんなことがあったのかよ」 俺は聞かされた衝撃的な話に疲れがたまり、パイプ椅子の背もたれに預ける体重を増加させる。 ハルヒは続ける。 「とりあえずリセットはできたわ。状況はあたしは力を得たが、それを自覚していないと情報統合思念体は理解している。 この状況下でどうすれば奴らの魔の手から逃れることができるのか、次はそれを模索する必要ができたのよ。 あたしが力を得たことで奴らに目を付けられた以上、うまくやり過ごなければならない」 ここでスクリーンに映し出された一枚のガラス板がアップになる。 「一度でうまくいくとは思っていなかったあたしは、一つの時間平面――このガラス板一枚があたしたちのいうところの『世界』と 認識すればいいわ――を支配することにした。こうしておけば、いざ奴らにあたしが力を自覚していることに気が付かれても いつでもリセットできるし、情報統合思念体には同じようにダミー情報を送り込めばごまかせるから」 「で、どうなったんだ?」 俺の問いかけに、ハルヒはいらだちを込めたように髪の毛を書き上げ、 「それがさっぱりうまくいかないのよ。どこをどうやっても途中で奴らに力を自覚していることがばれて終わり。 その度にリセットを続けて来ているけどいい加減手詰まり状態になってきて……」 ここでハルヒはびしっと俺を指差し、 「そこであんたを呼び出したって訳よ」 「何でそうなるんだよ?」 俺が抗議の声を上げると、ハルヒは指を上げて周囲のスクリーンに別のガラス板――時間平面とやらを映し出す。 「手詰まりになったあたしは別の時間平面に何かヒントがないか調べ始めたのよ。そこであんたたちの存在を知った。 同じようにあたしが力を得ながら、情報統合思念体が何もせずにずっと歩み続けている。力を自覚した日から、 4年も経過しているってのに。それはなぜなのか? どうしたらそんなことができるのか? 詳しく別の時間平面を調査していると奴らに気が付かれる可能性があったから、とりあえず一人適当な奴を こっちに連れてきて教えてもらおうってわけ。とはいってもあたし自身を連れてくるとややこしいことになりそうだから、 事情を知っていそうな奴を選んだけど」 そういうことかい。で、唯一の凡人である俺が選ばれたって事か。 ここでハルヒは机を飛び降り、また俺のネクタイをつかんで顔を急接近させると、 「さあ、白状なさい。一体あんたの世界のあたしは何をやったわけ? どうやったら情報統合思念体は手出しできなくできる?」 「何もやっていない。少なくとも俺の知っているハルヒは自分の力を自覚していないからな」 「は?」 ハルヒの間の抜けた声。が、すぐに眉間にしわを寄せて額までぶつけて、 「そんなわけないじゃない! 例えなんかの拍子で自分の力に自覚していなくても、周りに情報統合思念体がいるなら どこかでちょっかい出してくるに決まっているんだから、すぐに気が付くはずよ!」 「だが、事実だ。情報統合思念体はハルヒがその状態を維持することを望んでいるし、それに俺をここに呼び出す前に 俺を付けていたハルヒと一緒にいた小柄な女の子はその対有機生命体ヒューマノイドインターフェースだ」 「バカ言わないで! あたしがあいつらと一緒に仲良く歩いていられるわけがないじゃない!」 ハルヒはつばを飛ばして言ってくるが、そんなこと言われても知らんとしかいいようがない。 それにしてもこのハルヒが持っている情報統合思念体への敵意は痛々しいまでに強く感じる。 「じゃあなんであんたはあたしの力について知っているのよ!」 「長門――情報統合思念体とかその他周囲から教えてもらった」 「じゃあなんであたしに教えようとしないわけ!?」 「一度言ったが、信じてくれなかった」 とりあえず事実だけ淡々と返してやると、ハルヒの顔がだんだん失望の色に染まっていった。やがて、ネクタイから手を離し、 机の前まで戻ると、 「……だめだわ。それじゃだめよ。ただ運良くそこまで進んだだけじゃない。とくにあたし自身が自分の力の自覚がないのは 致命的だわ。自覚したとたん、情報統合思念体に星ごと抹殺されて終わり。そして、リセットもダミー情報による偽装もできない。 あんたの世界も長くはないわね」 そうため息を吐く。 このハルヒの言葉と態度に、俺の脳天に少し血が上り始めた。まるでいろいろあった俺のSOS団人生を 簡単に否定された気分になったからだ。 「おい、俺のやってきたことをあっさりと否定するんじゃねえぞ。確かにお前みたいに壮絶じゃなかったかもしれないが、 俺は俺で色々やってきたんだ。大体、俺のいる世界を全部見たって言うなら、俺たちのその後もわかっているんじゃないのか?」 「あのねぇ、時間平面ってのは数字に表せないほど大量にあるのよ。そこから無作為に検索をかけて、 偶然見つけたのがマヌケ面のあんたがあたしと一緒に歩いている姿を見つけただけ。その後の様子まで確認している余裕は なかったわよ。あまり長時間の時間平面検索は奴らに察知されかねないから」 それを先に言えよ。ってことは、このハルヒは俺たちSOS団についてもさっぱり知らないって事になる。 そこで俺はこのハルヒに対して、俺を取り巻く環境についてかいつまんで説明してやった。 情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースである長門有希。 未来からハルヒについての調査・監視を命じられてやってきた朝比奈みくる。 ハルヒの感情の暴走を歯止めする役目を与えられた超能力者古泉一樹、そしてそれを統轄する組織、『機関』。 ………… だが、ハルヒは話自体は信じたようだったが、やはり俺たちがその後も平穏に進むということについては 懐疑的な姿勢を崩そうとしなかった。 「まさかあたし自らそういう連中とつるんでいたとはね。それも自覚がないからこそできる芸当なんでしょうけど、 とてもじゃないけどリスクが大きすぎてできそうにない。それに皮一枚でぎりぎりあたしに気が付かれていないだけにしか 感じられない以上、いつ自覚してもおかしくないわね。その時点であんたの世界は終わりよ」 「なぜそんなに簡単に否定できるんだよ?」 ハルヒはわからないの?と言わんばかりに嘆息し、 「まず『機関』とやらは、情報統合思念体に逆らえるだけの力があるとは思えない。あんたと一緒にいた色男――古泉くんだっけ? ――が、機関の意向よりあたしが作ったSOS団とやらを優先すると言っても、個人で何ができるわけもなし。 未来人については、同じ時間平面上なら移動可能ということは使えそうだけど、そもそも情報統合思念体はそんなことなんて 朝飯前。対抗手段としては物足りないわね。最後の情報統合思念体の対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインタフェースについては論外。 奴らの支配下から離れて独立しつつあるとか言われても、信じられるような話じゃない。所詮は操り人形なんだから」 その言葉に俺はいらだちを募らせるばかりだ。まるで外部の人間にSOS団の存在意義を必死に説明してみせているような 気分になってくる。いや、このハルヒは確かに俺たちについてまるっきり知らない――それどころか、情報統合思念体に対して 明確な敵意を見せているので余計たちが悪い。 だが、俺はSOS団として満足して生きてきていたし、危険も感じていない。長門のパトロンはさておき、 長門自身には信頼を寄せているし、古泉はSOS団副団長という立場の方がすっかり似合っている状態。 朝比奈さんはもうマスコットキャラが板に付きすぎて抱きしめて差し上げたいぐらいだ。そして、皆ハルヒとともに 平穏無事にいたいと願っている。 それの何が問題だというのだ? このハルヒは自分の力を自覚していないとダメになるということを 前提に語っているようにしか見えない。 その後も必死に説明した俺だったが、ハルヒは聞く耳を持たない。 「悪いけど、これ以上議論しても無駄よ。あんたを元の時間平面に送り返すわ。一応礼を言っておくけど、 そっちもかなりぎりぎりの状態ってことはわかったんだから――」 「そうはいかねえよ」 「え?」 元の世界への機関を拒否した俺に、ハルヒはきょとんとした表情を浮かべた。 俺は正直このまま元の世界に戻るような気分じゃなかった。このままSOS団を完全否定されたっきりでは、 気分が悪いことこの上ないし、そもそもこのハルヒのいる世界は破滅とリセットのループを繰り返している。 だったら、俺の世界と同じようにSOS団を作れば同じように平穏に過ごせる世界が作れるはずだ。 俺にはその絶対の確信があった。 「何度でもリセットできるんだろ? だったら、俺の言うとおりに動いてくれ。そうすりゃ、俺たちの世界が どれほど安定しているか教えてやれるし、ここの世界の安定化も図れる。お前だって手詰まり状態だって言っているんだから、 試す価値はあるはずだ。少なくともお前が到達できない場所に俺たちは到達できているんだからな」 「…………」 ハルヒはあごに手を当てて思案を始めた。 ふと、他人の世界にどうしてそこまでするんだという考えが脳裏に過ぎる。しかし、すぐにその考えを放り捨てた。 ここまであーだこーだな状態になっておめおめと引き下がるほど落ちぶれちゃいない。 「……わかったわよ」 ハルヒは渋々といった感じに了承の言葉を出した。しかし、すぐにびしっと俺に指を突きつけ、 「ただし! 条件付きよ。あんたのいう宇宙人・未来人・超能力者にまとめて接触はしない。一つずつ試していくわ。 情報統合思念体の目はどこでも光っているんだから、変に手を広げて取り返しの付かない事態にならないよう 石橋をハンマーで殴りつけながら進ませてもらうわ。あと、あたしは自分の力の自覚はそのままにする。 この一点だけは譲れない。これがダメというなら即刻あんたを元の世界に送り返すから」 条件付きというわけか。はっきり言って、3勢力がそろわないとSOS団には成り立たないが、この際贅沢はできない。 一つずつ接触しても俺のいた世界のSOS団と同じぐらいの平穏な関係は築けるはずだ。 力の自覚については仕方ない。ハルヒは自分がそれを理解していない状態を極端に恐れている節がある。 それに、これに関してはうまい具合にハルヒが黙っているだけで済むから大丈夫か。 「わかった。それで構わん」 「じゃ、決まりね」 こうして別の世界でSOS団再構築という壮大なプロジェクトが始まった。 ――そして、俺がどれだけ甘い考えをしていたのか、嫌と言うほど思い知らされることになる涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡
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その2 俺とハルヒの前に姿を現したのは佐々木だった ニッコリ微笑みながら、静かに歩いてきた おい佐々木 お前がこの閉鎖空間を作り出したのか? 「僕は閉鎖空間とは呼ばないがね。君がそう呼びたいのなら否定するつもりはない」 お前が作った閉鎖空間の中にどうやって自分が入れるんだ? 「はっはっはっ キョン、君は何でも自分を中心に考えてはだめだよ 僕もあれからいろいろ話を聞いて、それなりに勉強したんだ 君たちの事も、僕の事も、そして橘さんや藤原さん、周防さんの事もな 僕と涼宮さんがあそこから飛ばされたのにもきっと理由があると思う 涼宮さんをあの中に入れない方がいいのなら、それができるのはおそらく僕だけだろうからね」 俺は無意識にハルヒをかばうように立っていたが、俺の腕のすり抜けてハルヒがわめいた 「ちょっとあんた、これはいったい何よ? あんたの仕業だって言うの?」 「涼宮さん、私はあなたに何も恨みはないの でもね、あなたのただ一つの欠点は自分が何も分かってないという事なのよ キョンや他の人たちに守られているだけでは何も生み出せない 何も作り出せない ただ破壊するだけの空間なんて私には理解できない」 「何を言ってんのよあんた いいからあたしとキョンを有希の所に連れていきなさい、今すぐに!」 「そう願うならご自分で行けば?できるものならね」 「ちょっとキョン!説明しなさい!」 だから俺に話を振るなよハルヒ えーっとこんな時、古泉ならどう説明するだろう いや長門でもいいか ダメだ長門の話は電波話にしか聞こえないし朝比奈さんなら・・・禁則事項か 「じゃあ僕から説明しようか?キョン 涼宮さん、あなたは自分の力について何も理解していない 自覚していない所でさまざまな現象を発生させる」 「はぁ???」 「あなたはとても面白い人。才能もあるし、きれいだし でもね、あなたにその力は荷が重すぎる。だから私に白羽の矢が立った」 おい佐々木 それ以上言うな 「だってキョン その通りじゃないか だから君や仲間たちがひどい目に会ってきたんだろ 君だってそう思っているはずだ 涼宮さんが普通の女の子に戻ってくれたらって それで僕が選ばれたんだ 僕も正直迷惑を隠せない気持ちだけど、涼宮さんを見ているとやっぱりそう思うね」 佐々木、もう黙れ ハルヒにそれ以上わけの分からん事を吹き込むんじゃねえ 「涼宮さんには荷が重すぎるから その重い荷物を全て僕たちが引き受けようとしてるんだ 君にとっても悪い取引じゃないと思うのだが」 荷が重い?迷惑だ? いったい誰がそんな事を言ってるんだよ 誰もそんな事は一言も言ってねえぞ いい加減な事を言うんじゃねえよ ハルヒは俺たちのリーダーだ SOS団の団長だ そして俺たちは仲間なんだよ かけがえのない仲間なんだ 俺たちの仲間に傷一つつけてみろ 俺はお前を絶対に許さないぞ 「ほう、キョンがかい 君も変わったものだな ずっと平凡に人生を送りたいって 中学の頃からそうぼやいていたのに ただの思いつきで君たちを引っ張り回す変人が 君にとっての大事な仲間なのかい?」 佐々木 お前は何も知らない 高校に入ってからの俺を知らない SOS団で楽しく遊んでいる俺を知らない そしてお前は ハルヒの事を何も知っていない もうそれ以上言うな 俺がお前をブン殴らないうちに さっさと俺とハルヒを長門の部屋に送り込め 「それは僕にはできない相談だね マンションをシールドしているのは僕の力じゃない 行きたかったら自力で行く事だね そこまでは僕も止めはしないよ」 「キョン、何なのよこの女は 全然意味分からないわ さっきからいったい何言ってんのよあんたたち 私がバカだって言いたいの?」 ハルヒよく聞け お前の力で長門を助けに行こう お前ならそれができる 俺とお前を長門の所まで連れて行ってくれ 頼むハルヒ 「?????」 「ふふふ はたしてあなたにそれができるかしらね 破壊しかできないあなたに 人を助ける事ができるのかしら」 黙れ佐々木、あと5分だけ黙ってろ おいハルヒ この1年で何かに気付いたことはないのか? 「1年で?」 ああ SOS団を作ってからいろんな事があっただろ お前の知らない所で起こったことが多かったけどな お前にも薄々気付いた事ぐらいあるだろ 「え・・・?」 お前は長門が普通の女子だと思っているのか? 古泉はただの転校生だと思ってるのか? 朝比奈さんは・・・ちょっと分かりづらいけど、お前にだって何か気付いたことがあるだろ? 「キョン・・・」 思い出せハルヒ 俺たちの事だ SOS団全員で作ってきた歴史だ 楽しい事や、不思議な事がいっぱいあっただろ それは偶然起こった事だと思うのか? 宇宙人や未来人、超能力者が本当はいないと思ってるのか? 「・・・・・・」 ハルヒの瞳が不思議な輝きを放ってくる ここか? ここでいいのか古泉? 今ここで使ってもいいのか? 「キョン」 何だハルヒ? 「1つだけ教えて」 ああいいとも 「あんたの本当の名前は何?」 名前? 「そう、キョンの他にもあるでしょう? あんたの名前が」 あああるともハルヒ 俺の名前がもう一つな お前が中学生の時に聞いたはずの名前がな 「ある・・・のね・・・やっぱり」 ああそうだよ あの時に名乗った名前だ 「キョン・・・」 もうどうにでもなれと思った このくそったれな状況を脱するために 今ここで使うしかないと思った 言うぞ ついに ハルヒ 俺の名前は・・・・・・ ついにその時が来たのか 俺の持っている切り札 世界がとんでもなくややこしい事態になってしまった時のために 俺がずっと隠してきた切り札をついに使う時が来たのか 分断されているSOS団を救うために 今ここで使ってもいいよな古泉よ ハルヒ 俺の名前はな 「あんたの名前は」 一緒に言うぞ 「いいわよ」 グオオオオオオオオオオと激しい地鳴りが響いた 巻き起こった突風に俺とハルヒは吹き飛ばされそうになるが 必死で足を踏ん張って立った ハルヒの目を見つめたまま、ハルヒも俺を見つめたままで 俺は禁断の6文字を言おうとした 「・・・・・・」 「・・・・・・」 あれ? 何だ? 声が・・・ 出ない・・・・・・ 振り向くと佐々木はまだ立っていた 俺とハルヒのパントマイムを楽しそうに眺めていた すさまじい旋風は収まろうとしない あああとしか声が出ない俺もハルヒも、その風のうなりに飲み込まれそうになっていた 佐々木 声を出なくしちまいやがったのか? 「それは分からない さっき言った通りだよ もう少し時間を稼ぎたい だからこうやっている」 ハルヒ 何とかしてくれ もう分かってるだろ 声に出さなくても 俺の正体を 中学1年の時に東中の校庭にあの奇妙キテレツな地上絵を描いた時の事を あの時にお前を手伝った哀れな高校生を 「・・・・・・」 ハルヒも懸命に口をパクパクさせているが もちろん声は出ていない 俺の顔に恐怖が走る 今まで一度も見た事がなかったハルヒの表情 自己中心で傍若無人な爆弾女 このいつ発火するかも分からないとんでもない時限爆弾が なぜか自己消火しようとしていた ハルヒは今 明らかにおびえた表情をしている 今にも泣き出しそうになり 俺のシャツの袖を掴んでいる こんなハルヒは初めてだ あまりの急速な展開と自分の無力さにおびえているのか 鶴屋さんと森さんにかけられた言葉が再び蘇る ハルヒはこう見えても神経の細い女なんだ ハルヒはいつもみんなに気を使っているんだ この女を知る人間が聞いたら腹を抱えて笑うようなセリフだが 今目の前にいるハルヒは明らかにその通りだった どうするんだよ俺 考えろ、考えろ どうすればハルヒに思い出させることができるのか いやもうとっくに思い出してるはずだ 後は何をすればいい? 何をすればハルヒが怒れる獅子に変身できるんだ? ええい もうこうなればあれしかないのか? 1年前にハルヒに巻き込まれた閉鎖空間を思い出した 大人の朝比奈さんに言われた言葉 パソコンのか細い糸で長門に教わった言葉 もう一度あれをやればいいのか? 「キョン 君はそれでいいのか?」 後ろから佐々木の声が聞こえる 「君はそれで満足するのか? そんな目的のためだけに 自分を犠牲にするつもりなのか?」 犠牲? 犠牲だって? 俺は佐々木を振り返った 面白そうに眺める佐々木の目を 穴が開けとばかりに睨みつけた 佐々木は動じる事もなく話し続けた 「彼女のお守りをして これからもずっと振り回されて 危険が迫るたびにそうするのか? それじゃ君の気持はどうなるんだ? 一生そんな事を続けるつもりなのか?」 佐々木 やっぱりお前は何も分かっちゃいない 俺の事を何も理解していない 自分を犠牲にしてハルヒの面倒をみるって? バカ言ってんじゃねーよ お前は確かに頭のいいヤツだよ よく考えてると思うよ ハルヒの行動パターンも俺の事も よく研究したもんだよ けどな佐々木 お前が1つだけ見落とした事があるぞ 俺も成長してるって事だよ この1年で大きく変わったよ俺は 俺が変わったことはたくさんあるけどな その1つがこれだ 俺はいやいややってるんじゃない 自分がしたいからするんだよ 俺はハルヒと キスしたいからするんだ 口をパクパクさせてもがくハルヒにそっと顔を近づけた ギョッとした目で俺を見上げていたハルヒは 俺の行動を理解したのか そっと目を閉じた 俺は 自分の意志で ハルヒにキスをした 時間が止まった 吹きすさぶ風の音も聞こえなくなった 佐々木が何かを叫んでいたが その声すら耳に入らなくなった ハルヒの体から力が抜け そして・・・・・・ (同じ時間に、別の次元で) 新しい登場人物を見て 古泉と朝比奈さんは腰を抜かしそうに驚いていた 「ごめんなさーい こんなに早く来るつもりはなかったんですけどー あちらの皆さんがちょっとお急ぎだったみたいなんで そろそろ始めさせていただきまーす」 「あなたは・・・・・・?」 「はい先輩、その節はどうも」 「あわわわわ・・・」 「先輩にもお茶をご馳走になって、ありがとうございます 本当はちゃんとSOS団に入って たくさん冒険したかったんですけど・・・」 「ちょっとあんた、こないだの新入生じゃないの」 「はい!涼宮先輩! だけどちょっと待ってて下さいね、場所を変えますから」 その北高の新入生はニッコリ笑って 手にした小さな金属の棒を振った 幾何学模様の入った細い棒がキラリと輝き ハルヒと佐々木の姿がポンと消えた 「何をしたんですか?」 「ご心配なく、後でまた来られると思います でもまだ主役の登場には早いので 先にみんなで行くことにします」 「あなたはいったい?」 古泉の質問には答えず、新入生は再びオーパーツを振った 今度は空間がグニャリとねじれ、全員の姿が消えた 「く・・・・・・・」 ズキズキするこめかみをさすりながら古泉が起き上がった そして周囲の景色を見てギョッとした 周りは一面の宇宙空間で、真っ黒な地面がはるか先まで広がっていた 星空以外に何のディテールも見分けられない ただの真っ黒な平面だった そこには全員がいるようだった ピクリとも動かない長門の側には朝比奈さんが横たわり 少し距離を置いて橘京子、藤原、そして周防九曜がいた 全員が気を失っているのか、黒い地面に突っ伏していた 立っているのはただ1人、まだ名前も覚えていない新入生1人だった 素早く意識を取り戻した古泉が詰問した 「まずはあなたの事を聞かせてもらいましょうか」 「ふふふ先輩、さすがですね こんな時にも理性的です」 「質問に答えて下さい」 「ここは皆さんの地球とは別の世界です そしてご覧の通り、何もありません」 「別の惑星という事ですか?」 「別という表現がふさわしいのかは分かりません でも地球から宇宙船に乗ってもたどり着けない場所です」 古泉は長門をチラリと見た 長門ならもう少し詳しく解析してくれるかもしれないが 長門はまだ気を失ったままだった 「銀河系の1惑星ではないと?」 「たぶんそうです。どう説明したらいいのか分かりませんけど」 「まさか、異世界だとか」 「言葉の意味ではそれが一番近いですね とにかく、普通の手段では行き来する事はできません」 「僕たちをここに引き込んだ理由は?」 「それは皆さんが目を覚まされてからご説明します」 「長門さんと朝比奈さんの様子を見ても構いませんか?」 「もちろんです、早く起こしてあげて下さい」 古泉は素早く移動して朝比奈さんを揺り起こした 朝比奈さんはすぐに目を覚まし、置かれている状況を見て予想通りの悲鳴を上げた 「ひゃぁぁぁこっこここここどこなんですかぁーっ?」 「落ち着いて下さい朝比奈さん、僕にもまだ分かりません とにかく落ち着きましょう」 「ふわぁぁぁ」 「長門さんはどうですか?」 長門はずっと変わらない姿勢で眠っている 布団はもうなかったが、几帳面に制服姿だった その格好のままで寝ていたのか さすがに靴は履いていないが、靴下はちゃんと履いていた 古泉が揺り動かしても全く動かない その体はまだ熱く、呼吸も浅く小さかった 「長門さん・・・さっきと変わりませんね」 ようやく落ち着き始めた朝比奈さんがつぶやく 「涼宮さんもいなくなってしまいましたし、これは厄介です」 その頃には敵の集団も目を覚ましており、頭を振りながら起き上ってきた 周防九曜は起き上がるなり長門にひたと視線を向けている 何か呪詛でもしているように、人差し指を小さく振っている 古泉がさりげなく長門をかばうように立ち、新入生に目を向けた 「1人を除いて全員目を覚ましました」 「はい、それでは説明させていただきます ここは地球がある銀河系とはまた別の空間にある世界です 詳しい事は分かりません 異次元とか異世界とか、たぶんそういう世界だと思います そしてここは私の生まれた世界です」 「あなたの世界?」 「はいそうです ここには私1人しかいません そしてご覧の通り、ここは死に絶えた世界です 原因は分かりませんが、植物も生えず、何の生命もない世界です 生命どころか、それを誕生させるエネルギーすらない世界なのです 私はここで1人で生まれ、1人で暮らしてきました」 「ちょっと待って下さい 生命のない世界でどうしてあなたが生まれたんですか?」 「それは私にも分かりません ただ、生命をはぐくむエネルギーが枯渇したのは たぶんそんなに昔ではないと思うんです 私は最後の生き残りなんじゃないのかなって」 「それと僕たちが集められた事との関係は?」 「もう少し聞いて下さいね 私が生まれた時に、側にこの棒が転がっていたんです」 「そのオーパーツですか?」 「オーパーツって言うんですかこれ? 名前なんかつけたことなかったんですけど 一人ぼっちで生まれた私にこの棒がいろいろ教えてくれました 成長するのに必要なエネルギーも与えてくれました そして、別の世界には豊富なエネルギーがあるという事も教わりました 皆さんに集まってもらったのは、そのエネルギーを分けてもらいたいからなのです」 「分かりませんね」 「でしょうね先輩 だって私にも何も分かってないんですから この棒に指示されて 私は別世界への旅に出かけました そうするより他に方法はなかったのです ここにいつまでいても一人ぼっちだし そして長い旅の後に、あの地球に到達したんです」 「どうして地球に?」 「それも分かりません この棒の指示通りに進んでいくと地球に着いたのです ただ・・・地球に着くとこの棒は消えていて 私は何も覚えていませんでした 何の記憶もないままに、私はただこの棒を探しました この棒を探す事だけが記憶に残っていたのです」 「北高に入ったのはそれを見つけてから?それとも記憶が戻ったから?」 「棒を見つけたのはつい最近です 北高の近くにあることが分かったので、私は北高に入学しました いろいろ情報を操作するのは大変でしたけど、何とか合格して、腰を据えて探そうと思ったのです そしてSOS団の事を知りました とっても面白いグループだって聞いて、しかも部員を募集するって言うから さっそく入部希望しました 今さらこんなこと言うのも変ですけど、本当に入部したかったんです だけど・・・そちらの皆さんが動くのが早すぎて、遊んでられる状況じゃなくなってきたんで、それで申し訳ないんですけど、大きなお屋敷に忍び込んでこの棒を取り戻し、あのマンションに行ったってわけです」 「あっ・・・あのっ・・・キョンくんと離れちゃったのもあなたの操作ですか?」 「キョン先輩って、あの面白い方ですよね うふふふ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなくって キョン先輩の事は私は知りません ここにおられないんであれって思ったんですけど」 「そろそろいいでしょう、ここに連れてきた目的を教えて下さい」 「それはそこの先輩次第です」 新入生が声をかけた瞬間、周防九曜がビクリと動いた 「・・・・・・ここは・・・楽しい空間・・・・・・心が・・・躍る・・・」 周防九曜はそうつぶやいて、長門に歩み寄った 「待って下さい、長門さんは意識不明です 彼女を回復する方法はありませんか?」 「・・・・・・あなたの・・・瞳も・・・きれいね・・・・・・」 周防九曜の指先がぼんやり光り、1本の光の矢が長門に向かって走った 古泉が素早く回り込んでその矢を叩き落とした 「ん・・・これは?」 古泉の体が赤く輝き始め、閉鎖空間にいるような球体に変化した 「ふえぇぇぇー、古泉くぅーん」 「ここでは僕の力が有効に使えるようですね」 赤い光球と化した古泉は、地面からフワリと浮かび上がった 「それでは説明になっていませんね周防さん 挨拶もなしでいきなり攻撃ですか?」 「・・・・・・ここで戦えば・・・この世界は生まれ変わる」 「それはどういう意味なのでしょうか?」 「ごめんなさい古泉先輩 つまり皆さんにここで戦ってもらい、そこで生じる膨大な生命エネルギーを少し分けていただきたいのです もちろんそれによって皆さんの戦いに影響はないと思います 私は余剰エネルギーをいただくだけですから」 「つまり、ここで僕たちを意味なく戦わせて生体エネルギーを放射させ、それをそのオーパーツが吸収してこの世界を再生するとでも?」 「ごめんなさい、私にちゃんと説明できる知識はないんです ただ、佐々木さんのチームが皆さんと戦うという話を聞いたので、それならぜひここを使って下さいと申し上げただけなんです」 「それでははっきり申し上げましょう 我々SOS団は戦いなど望みません こんな事をしても無駄です」 一瞬殺意を盛り上げた古泉だったが、すぐに冷静になり元の姿に戻った 「ケンカはダメですぅ!危ないですぅ それに・・・それに・・・涼宮さんもキョンくんもいないし 長門さんがこんな状況では戦えません」 「朝比奈さんのおっしゃる通りです 我々には戦う意志も戦力もありません あなたには申し訳ないのですが、こんな事を受けるわけにはいきませんね」 「・・・・・・うるさい・・・・・・口が多すぎる・・・」 周防九曜が再び攻撃を仕掛けた 人差し指から数本の小さな矢が飛び出し、長門に命中する寸前に古泉が叩き落とした 「待って下さい、戦うつもりはありません」 「こここ古泉くん、もはや話しても無駄、かもしれませんね」 「朝比奈さん?」 「古泉くんは長門さんを守って下さい 私も・・・・・・戦いますっ」 朝比奈さんの声に反応して、今まで黙っていた2人も前に出てきた 「ふっ、やっと俺の出番か」 そう言ったのは藤原だった 「わ、わ、わ、あんまり近づかないでくださぁい!」 「あんたにどれほどの事ができるのか、見せてもらうとするか」 「朝比奈さん!」 「おっと、あなたの相手はここにもいるのよ」 「橘京子・・・」 「キョンくんだけを別行動させたのは私たちの作戦よ 今ごろ彼は私たちの組織に捕らえられてるわ」 「何ですって?」 「涼宮さんは佐々木さんが抑えているはず まあ抑えるほどの事もないでしょうけどね 長門さんは周防さんが封印しているし、さあどう戦うつもりかしら?」 「ですから僕は戦いませ・・・」 橘京子の全身がぼんやり青く輝き始め、いくつかの光点に分かれて宙に浮いた 古泉も赤い光球に変わり、橘京子とにらみ合った 「ほら、早く攻撃してみろ」 「うわっ、こ、こ、こ、来ないで下さーい!」 「朝比奈さん!」 「・・・・・・・べらべらしゃべる男は・・・美しくない」 周防九曜の攻撃が古泉に集中し、危うくかわしたその横から小さく分裂した橘京子の光球が襲いかかる 藤原はめんどくさそうに朝比奈さんの目の前に立ちはだかっている おびえる朝比奈さんの姿がチカチカと点滅し、やがて空間から消滅した 「朝比奈さん!」 朝比奈さんはしばらく消えていたが、すぐにまた姿を現した 「あれ?」 「どうしましたか?」 「禁則が・・・・・・消えました」 「と言うと?」 「TPDDの使用制限が消えちゃいましたぁ・・・」 「それは、ここが異世界だからでしょう 未来からの干渉がなくなったのではないですか?それと、TPDDはまだ使えますか?」 「はい・・・ちゃんとスイッチは入っています」 「それはよかった。朝比奈さん、あなたのその力で僕たちを守って下さい」 「わ、わ、わ、分かりましたぁっ!」 朝比奈さんはこめかみに指を当てて、小声でボソボソとつぶやいた 周防九曜の攻撃が動かない長門を襲ってくる 古泉が急いで防御するが間に合わない 小さな数本の光の矢が長門に命中する寸前、長門の姿がパッと消え、数秒後にまた姿を現した 光の矢はその間に空間を空しく貫いただけだ 「こここ、これでいいんですか?」 「さすがは朝比奈さんです、素晴らしい作戦です」 「・・・・・・それは何?・・・・・・認められない・・・・・・」 周防九曜は今度は朝比奈さんに向けて矢を放つ 朝比奈さんの姿がパッと消えて、少し離れた場所にまた姿を現した 「すごい・・・TPDDにこんな使い方ができるなんて・・・」 「・・・・・・・気に入らない・・・・・・それは・・・美しくない・・・・・・」 周防九曜は狂ったように矢を発射させ続けた そのたびに古泉が防御に飛び回り、朝比奈さんは姿を消し続けた 「ふっ、面白くなってきたな」 藤原がやおら腰を上げると、手のひらを朝比奈さんに向けた 姿を消そうとしていた朝比奈さんがグラリとバランスを崩し、その胸に数本の矢が突き刺さろうとする その寸前に危うく古泉が飛び込んできた 「大丈夫ですか朝比奈さん?」 「ふえぇぇぇ、大丈夫ですぅ でもこれをずっと続けるんですか?」 「続けるしかないでしょう 長門さんが目覚めるまで、そして・・・・・・」 (またキョンの世界) 硬直するハルヒの唇に俺はキスをした ハルヒの体がぐったりと弛緩し、そしてガタガタと震え出した おいハルヒ 大丈夫か?どうしたんだ? 「ョン・・・・・・」 えっ? 「ジョン・・・・・・」 ああ 「ジョン・スミス」 ああ あれ? 声が出るぞ おいハルヒ!しっかりしろ! 「ジョン・・・・・・あんただったのね」 ああそうだ 俺がジョン・スミスだ 「やっと会えたんだ・・・ やっぱりあんただったのね」 気付いてたのか? 「ううん、何となくそんな気がしてただけ そうだったらいいのになって」 悪かったな こんなに報告が遅くなっちまって 「いいの・・・嬉しいから」 いいかハルヒ、よく聞け 俺は確かにジョン・スミスだ あの時東中に行って校庭にあの絵を描くのを手伝った それから背負ってたのは朝比奈さんだ 朝比奈さんが俺を3、いや4年前に連れてってくれたんだ 「みくるちゃんが?」 そうだ 朝比奈さんは未来から来た TPDDっていう装置を使って時間を自由に行き来できる ついでに言うとあの後『世界を救うためのどうたらこうたら』と言ったのも俺だ 「マジで?」 ああ まだあるぞ 実はあの時ちょっとした手違いがあって未来に帰れなくなった その時に俺たちを助けてくれたのが長門だ 「有希が?」 そうだ 長門の魔法みたいな力で3年間時間を止めてもらって 俺と朝比奈さんは現代に帰って来れたんだ 長門の不思議な力はお前も覚えがあるんじゃないか? あいつは宇宙人が作った俺たちとのコンタクト用インターフェイスだ 「コンタクト用?」 ああ ちょっと説明すると長くなるけどな この銀河系の真ん中で俺たちの事をずっと見ているような存在だ それから去年、お前と一緒に不思議な空間に閉じ込められた事があっただろ あの時に出てきた青い怪人だけどな あれが暴れ出すとこの世界がとんでもない事になっちまうから、退治するって言うか、あれを消すための組織がある 超能力者集団って言うのか、そのメンバーが古泉だ 「・・・・・・」 つまりだ 宇宙人も未来人も超能力者もみんなお前の側にいるってことだよ いつでもお前の側にいて、いつでも一緒に遊んでたじゃないか 呆然としていたハルヒの目がギラギラと輝いて来る もう少しだ 頑張れ俺! 俺はまたあいつらと一緒に遊びたいぞ 全員俺たちの大事な仲間だ だけどなハルヒ、俺が一番心配なのは お前の事だ お前がみんなの事を心配し過ぎてフラフラになってる所なんか見たくないんだよ お前はSOS団の団長だ いつも何でも好きな事をやればいい 後は俺たちがいくらでも後始末してやるから 「キョン・・・」 長門の事も古泉も朝比奈さんももちろん心配だけどな 今俺が見たいのは、お前の元気な姿なんだよ 俺が大好きな 涼宮ハルヒの突拍子もない姿なんだよ 頼む!ハルヒ! 長門を助けてくれ 朝比奈さんも古泉も 今ごろお前がいなくて不安なんだぞ さあ、早く行ってみんなを助けてやろうぜ 「キョン・・・」 目をらんらんと輝かせたハルヒの全身から不思議なオーラが広がりだし たちまちのうちに佐々木が作ったベージュの空間を吹き払った 「行くわよキョン」 ああいつでもいいぞハルヒ 「有希を助けにね!」 (同じ時間、別の世界で) 「古泉くぅーん・・・ちょっと厳しいですぅ」 「朝比奈さん、もう少し頑張りましょう! きっと涼宮さんが助けに来てくれるはずです」 「うぇーん、涼宮さーん・・・」 朝比奈さんは藤原の妨害を乗り越えながら古泉と長門を次々に時間移動で防御し、古泉は襲い来る周防九曜の矢から長門をガードしている そのすきをついて橘京子はひたすらゲリラ攻撃を続け、古泉一人では防げなくなってきていた 朝比奈さんが泣きながらハルヒの名を呼んだ瞬間に、長門の前にまばゆく白い光が輝いた 「あいやーっ!」 朝比奈さんが叫んで長門のもとに駆け寄ろうとしてつまずいて転んでしまうが その白い光の中から現れた人影を見て、朝比奈さんも古泉も驚きに目を丸くした 「うふっ、お久しぶり」 その人物は登場するが早いか、襲ってきた周防九曜の矢を握りつぶし、逆に周防めがけて撃ち返した 「あなたは・・・・・・」 「長門さんが危険だって聞いたから助けに来たの ごめんね遅くなっちゃって」 「朝倉さん・・・・・・」 「覚えててくれたのね、嬉しい!」 「・・・・・・お前は・・・・・・美しくない・・・・・・」 「あら、ご挨拶ね。せっかく1年ぶりに登場したっていうのに」 光の中から現れた朝倉涼子は、次々と襲い来る光の矢を素手で握りつぶしながら 分裂して攻撃してくる橘京子の赤い光をまるでハエでも叩いているかのように楽々と落としている 「朝倉さん、情報統合思念体に戻ったのではなかったのですか?」 「そうよ、向こうにいるのよ でも今のこの私はまたそれとは別の存在 私をここに呼んでくれたのはね、涼宮さんよ」 「涼宮さん?」 「そう、彼女ももうすぐここに来るわ もちろんキョンくんも一緒にね」 「本当ですか?」 「もう少しよ、今ごろはここへの抜け道を探しているはず。だからそれまで頑張るのよ」 「はい!」 古泉は久しぶりの笑顔を見せた かなりやつれた表情だが 朝倉涼子の登場と、ハルヒがもうそこまで来ているという情報に新たな力を得たように 朝比奈さんを助けて明るく輝き出した その光景を少し離れた所から見ている女子高生がいた 北高の制服を着た新入部員は、手に持ったオーパーツが輝きを増すのを嬉々として見つめていた 「うふふふふ やっぱりすごいエネルギーですね 地球を選んで正解だったかな? こんなにたくさんの異人種の戦いが見られるなんて」 (またもやキョンの世界) ついに覚醒した涼宮ハルヒ そのハルヒの目にもう涙はない キッとまっすぐ佐々木を睨みつけて 「もういいでしょうこれで 私は有希の所に行くから あんたも来るんでしょ? それとも何よ 部下を放っとくのがそっちのやり方なの?」 「いいえ。そうじゃないわ。私はあくまで時間稼ぎだから あなたがついに目覚めた以上は私もあちらに合流します では後ほど」 おい佐々木! 向こうでいったい何が起こってるんだよ 「それは自分の目で確かめてね」 チッ 佐々木のやつ、どうなっちまってるんだ まさかあいつらに言いくるめられて 本気で神様になろうなんて思ってるんじゃないだろうな ん?という事は 本気で戦うつもりなのか? 「ちょっとキョン」 あ?何だ 「これからどうやったらいいのよ?」 へ? 「あんたがジョン・スミスであたしに何かの力があるんでしょ? じゃあそれをどう使ったらいいのよ?」 ああそれか 何でもいいんだよ お前が心で思うだけでたいがいの事はかなうからな 映画撮った時の事を思い出せ 朝比奈さんの目からビームが飛び出したり、秋に桜が咲いたり あんまり思い出したくない過去だけどな、全部お前の力でやった事だ 「本当なの?」 ああそうですよ それがお前の力だ 「くっ・・・ 何でそれをもっと早く教えてくれなかったのよ!バカキョン! そんな楽しい事があるのなら、もっとやりたい事がいっぱいあったのに!」 だからお前には教えなかったんだよ お前が自覚して何か始めてしまったら、お釈迦様でもびっくりってもんだからな 「しないわよそんな事!ちゃんと地球の平和を祈ってるわよ!」 まあとにかく終わってから好きなだけ祈ってくれ まずは長門を助けるのが先だ とにかく長門の部屋に入るぞ 「だって、有希のマンションは消えてるじゃないの」 だからそれをお前が何とかするんだよ 「どうするって言うのよバカキョン!」 知らん。お前が考えろ そのバリヤーの向こうに長門の部屋があると思って押してみろ もしかしたらバリヤーがビリッと破れて そこには長門の寝室が 「あったわよキョン!早く入んなさい!」 って本当に押したんかい!マジかよこいつ ハルヒが両手をバリヤーにかけてメリメリと引き裂いたら そこに開いた空間から見慣れた長門の部屋につながっていた おいハルヒ 長門の部屋は7階のはずだぞ なんでこの1階から行けるんだよ 「あんたがそうしろって言ったからじゃないの!」 目を逆三角形に釣り上げるハルヒに引っ張られ、俺は開いた隙間から長門の部屋に侵入した ハルヒはズカズカと居間を通り抜け、和室の扉を開いた 「いないわよキョン!」 部屋の中央に布団が一組敷かれていたが長門の姿はない もちろん古泉と朝比奈さんもいない そして侵入してきた佐々木の仲間たちもいなかった 「どこに行ったのかしらね?」 さあどこだろう 次にハルヒに何をさせればいいのか 俺はもう一度居間に戻ってみた 北高の通学カバンがいくつか置かれていた おそらくハルヒ達のだろう あれ?そう言えば俺のカバンはどこに置いたっけか? きっと鶴屋さんの家に忘れてきたに違いない 「ちょっとキョン!」 ハルヒに呼ばれて部屋に入ると、ハルヒは1枚の大きな額の前に立っていた 「あんたこんなの見覚えある?」 その額には奇妙な絵が飾られていた 黒い画用紙の真ん中に、グラデーション模様のアメーバのような絵が1枚入っている 長門にこんな趣味があったのか? 「おっかしいわねー、さっき来た時はこんなのなかったような気がする」 おい 本当かハルヒ? 「はっきり覚えてないんだけど こんな気持ち悪い絵があったら絶対記憶してるはずよ」 という事はおいハルヒ 「何よ?」 いつぞやの事件を思い出せ 「事件?」 そうだ 去年の暮れの事件だ 雪山で遭難した時のあのお屋敷だ 「あっ!」 あれと同じだ もしかしたらこれは、長門が作ってくれた入口かもしれない あいつらがいるどこかにつながってるのかもしれないぞ 「そうね!思い出したわ!あのクイズみたいなのね」 そうだ どっかに方程式か何かのヒントが書いてないか? 2人でその額の周りを調べてみたが メッセージのようなものはなかった 長門の布団もひっくり返してみて、何か手紙でも出て来ないかと思ったのだが やはり何も出て来ない 和室を探索しているハルヒを置いて、俺は居間に戻った 何冊か置いてある本をパラパラとめくってみて栞などを探しているうちに ハルヒが大声を上げた 「キョン!キョン!あったわよ!」 急いで和室に戻ると、ハルヒは額の周囲を指差していた 「これよこれ!」 何だこれ? 黒い画用紙のような額の周囲の金属の縁には、小さな数字が無数に並んでいた 0から9までの数字がデタラメに書いてある 虫眼鏡が欲しくなるぐらいの細かい文字だった この数字の羅列に何か意味があるのか長門? しかしお前のヒントはいつもこんなのばっかりだよな オイラーの定理だとか何だとか 俺が数学苦手なのを分かってての事なのか? それとももしかするとこれもまた長門流のジョークなのか 細かい数字を読んでるだけで頭が痛くなってくる 「これはキョン用の問題ね」 何だよハルヒ お前まで俺をいじめるのかよ 「有希に感謝しなさいキョン!簡単な問題にしてくれてありがとうってね」 どこが簡単なんだよお前 俺にはまだ問題の意味すら理解できてないのに 「アホキョン!小学校で習ったでしょ! ゆとり教育でもこれぐらいは習ってるはずよ!」 俺はハルヒに首根っこを捕まえられて額の数字を口に出して読んだ 額には小さな菱形の模様が付けてあり、その一つ一つに数字が書いてある 286208998628034825342117067931415926535897932384626 43383279502884197169399375105820974944592307816406 数字はどんどん続いている 何だこれは ハルヒはニッコリ笑って俺を見ている 「この数字に見覚えあるでしょ?」 何かの乱数表か? 2つか3つ置きに飛ばして読んだらメッセージが浮かび上がるとか 「違うわよ!もっとちゃんと読みなさい!」 ハルヒ、もうダメだ こんな細かい数字をじっと見ていると眠くなってくる お前と算数クイズやってる場合じゃないんだから 「もう!バカねまったくあんたは あと10秒だけ時間をあげるから考えなさい」 うるさいハルヒ こんな数字で人間の一生が決まるわけないんだから 「有希の命がかかってるでしょう!」 それでも分からんものは分からん 俺は何とかの定理などはさっぱり理解できん それともこんなにたくさん数字が並んでいるのは円周率か何かか? 「ピンポーン!大正解っ!」 えっ 本当に正解なのか? 「そうよ、こんなの5秒で気付きなさいよキョンのくせに」 くせには余計だ それでこの円周率がどうしたっていうんだよ 「円周率の最初の数字は?」 3.14だから3だろ 「そう!普通数字はどっちから書く?」 どっからって左上からか? 「そういう事! この額の数字はバラバラだけど この314の所を左上に置き直すと・・・・・・」 ハルヒが額を回転させ、円周率の最初の314が左上に来るようにセットすると ブルンと音がして黒い画用紙が震えた 「ほらねキョン 頭は生きてるうちに使わないと毛が抜けちゃうのよ」 画用紙と思っていた黒い絵は、向きを変えた途端にプルプルと震え出し、まるで羊羹かコーヒーゼリーのような表面に変わっていた 「さあ行くわよキョン!」 ちょい待ちハルヒ! 行くってどこに行くんだ? 「決まってるじゃないの、ここに飛び込むのよ」 ちょ、ちょっと待て 確かにこの感じじゃ向こうに何かがありそうだけど 一応調べてみてからの方がいいんじゃないのか? 「そんな暇があるわけないでしょう! あんたがモタモタしてる間に有希に何かあったらどうすんのよっ! あたしは行くからね あんたは動物実験でも人体実験でも何でもやってから来なさい」 ハルヒは少し後ろに下がり、距離を計って助走しようとしている 待てハルヒさん 分かったよ俺も行きますから プルプルと震える額はかなり大きく、二人同時でも入れそうだった 俺とハルヒは部屋の反対側まで移動し、呼吸を合わせて助走した そして頭から飛び込んだ 「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」 リンク名 その3に続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/897.html
なぜだ? いや、理由は分かるが予想外だ。 なぜだ? あれ?だって古泉も朝比奈さんも、さらに長門も大丈夫だって・・・ あれ? 今、俺の目線の先には、夕日に照らされ、だんだんと背中が小さくなっていくハルヒの姿が映っている。 先ほども述べたように予想外なことがおきた。 いや、ちょっと前の俺ならこれは予想できるレベルなんだ。 ただ、古泉や朝比奈さんや長門にも予想外なことが起きてしまったから俺は今困惑している。 多分、谷口や国木田に聞いても、その3人と同じ言葉をかえしてきたと思う。 なのに、なぜだ? 俺は今、北校の校門前で棒立ちになっている。 ハルヒは今、俺からかなり離れた坂の下で走っている。 えっと、俺が今考えなければいけないことは多分、明日からどうやってハルヒと接していくかということだ。 まあ、ハルヒにはさっき、今までと変わらずに・・・とか言われたんだが・・・ どちらにしろだ。俺がさっきやったことは、失敗に終わったわけで・・・ ああもういい、何があったかさっさと言っておこう。 俺は、俺は先ほど、 ハルヒに告白して振れらた。 次の日の上り坂はいつもよりかなりきつかった。 ちょっと誰かに前からつつかれたら、俺は下まで真っ逆さまで転がり落ちる自信がある。 とりあえず、俺が今考えなくちゃいけないのは、これからハルヒとどのように接していくかだ。 いや、今までと同じように、告白なんてなかったかのように接していくのがやはり一番いいような気はする。 しかしだ、悪いが俺にはそういうことができる自信がない。 現在の俺の心境は、けっこう辛いのだ。 心にポッカリ穴が開いたというのはこういう時に使うんだなというのがよく分かる。 もしかしたら、谷口あたりに聞けばいい答えがもらえるかもしれないな。 あいつなら、こういう経験何度もしてそうだし。 と思ったのだが、谷口よりも、ハルヒのほうが顔をあわすのは当たり前だ。 なんたって、俺の席の後ろの席なんだからな。 何か言うべきなのだろうか?それとも、何も言わずにするべきだろうか? 普段の俺はどうしてた? そうだ、いつもハルヒに話しかけてたじゃないか。 だが残念、今日の俺にはそういうことできそうにない。 と思っていたのだが、 「おはよっ!キョン!」 ハルヒのほうが俺に、挨拶をしてきた。 どことなく、無理して作った笑顔という感じで・・・ こいつも、もしかしたら俺と同じ心境なのかもな・・・ 今までよく一緒に行動していた相手に告白されて、そしてそれを振った相手とどう接していけばいいか・・・ 「ああ、おはよう」 とりあえず、俺も返事を返しておく。 自分でも分かるぐらい、元気のない声でな。 「今日も部活に来なさいよ!」 「ああ」 そういや、昔谷口が言ってただろうか? ハルヒは、告白されても、その場で振ることを知らないと。 っていうことは、俺が最初に告白してその場で振られた第1号というわけだ。 そうとうのショックだぞこれは。 そんなこんなで、俺とハルヒはまともに話さずに、どことなく気まずい一日を送った。 時は放課後。 俺は今、文芸部室のドアの前にいる。 ノックをする。朝比奈さんの「はぁい」という声が聞こえる。ドアを開ける。3人の顔を確認する。 ハルヒは掃除当番なため、まだ教室にいるはずだ。 ところで昼休みに、谷口に昨日のことを話したら、ざまあみろと言いたげな顔になっていた。 少しはいいアドバイスをくれると思った俺がアホだったか。 国木田はいろいろ、励ましてくれたようだが、 もう一度告白できるわけがねーだろうが! 古泉と目が合う。テーブルにはチェス盤。 どうせヒマなので、俺は古泉の向かいの席に座り、朝比奈さんからもらったお茶を受け取り、飲んだ。 「おや?思ったより元気がないですね。今日は笑顔で入ってくると思ったのですが・・・」 目の前の古泉が言う。 そういや、こいつらには話してなかったな。昨日のことを。 いろいろ、アドバイスしてくれたんだ。 言っておいたほうがいいだろう。 「ハルヒには振られたよ」 そう言ったとたん、ポーンを持っている古泉の手の動きが止まった。 いや、古泉だけではない、長門も朝比奈さんもだ。 しかも、3人とも目線は俺の顔。 まあ、こいつらも多分、俺と同じことを思ってるんだろうな。 なぜだ?・・・と。 「本当に、振られたのですか?」 「ああ」 「何かの間違いでは?」 「間違ってたのはお前らのほうだ」 そう言うと、古泉は何も言い返すことがなかった。 しばしの沈黙。 長門からの目線が痛い。 朝比奈さんはどこか、オドオドとしている感じだ。 俺は、先ほど朝比奈さんから受け取ったお茶を口につける。 いつもよりおいしく感じないのは俺の気のせいか? 沈黙を破ったのは古泉だ。 「できるなら、昨日のことを詳しく聞かせていただけませんか?」 まあしかたがない。 一応、昨日の告白は3人に協力してもらってやった行動なんだ。 あまり乗り気ではないが、喋ってやろう。 昨日の放課後、古泉はバイトと偽って先に帰り、朝比奈さんも用事があると偽って先に帰り、長門も(以下略) そんなわけで、部活終了時には俺とハルヒだけになった。 「なんか、あの3人って用事があるときかぶるわよねー」 とかハルヒが言っていたような気がする。 いや、はっきり言って、いまいち曖昧だ。 なんたって、その時の俺は、その後に取る行動のことで頭がいっぱいだったんだからな。 「じゃあ、あたし達も帰りましょうか」 「そうだな」 ちなみに、この時間、他の部活も終了時間であるにもかかわらず、校門にはほとんど人がいなかった。 それもそのはず、機関の協力があったからだ。 あまり、あいつに貸しを作りたくないんだが・・・。 まあいい、感謝しておこう。 時は夕方、日は傾きだし、坂の上から見下ろした町はオレンジ色に照らされていた。 こういう景色を見れる時だけ思う。 北校が、こんな坂の上でよかったなと。 その時のハルヒは、 「明後日の市内探索は遅れずに来なさいよ!」とか言ってたような気がする。 気がするというのは、先ほども言ったように次に取る行動のことを考えていたのと、ハルヒの後ろにいたということの二つの理由がある。 そして俺はさらに、ハルヒから少し距離をとり、 「ハルヒ!」 ハルヒの背中に向かって叫んだ。 ハルヒがこちらを振り向く。 夕日に照らされたそいつの顔は、この世にある言葉じゃ形容できないほど、キレイだったのを覚えている。 「お前と初めてであったとき、変な女だ、できるだけ近づかないほうがいい・・・俺はそう思っていた」 ハルヒは、何言いだすんだ急に?というような顔をしている。そりゃそうだろうな。 「でもな、今気づいたんだ、俺はそのときからハルヒを見ていた。モノクロ世界からカラーの世界になったような・・・」 ああもう、何が言いたいんだろうな俺は? しかも、心を落ち着かせるためにいろいろ台詞考えてきたが、逆に恥ずかしい。 ああ、もういい。 俺は、考えていた台詞を捨てて、ハルヒに言った。 「単刀直入に言わせてもらう」 その時、俺には回りの音なんて聞こえてなかった。 いや、実際なにも音はしてなかったのかもしれないけどな。 で、だ。俺は一度深呼吸して言ったわけよ。 「俺はお前が好きだ。俺と付き合ってくれないか?」・・・ってな。 このときの俺は、別に、OKされると思っていたわけじゃない。 だからといって、振られるとも思っていなかった。 いや、どちらかというと、OKしてもらえるという気持ちのほうが強かった。 そんな時に、 「ごめん」 ハルヒの声が聞こえてきた。 その時のハルヒの顔を俺は見ていない。 頭をさげて告白してしまったからな。 いや、それよりもだ。なんだったんだろうな? 心臓にグサッと何かが刺さったような感覚は。 おい、今なら朝倉出てきてもいいぞ!とか一瞬だけ思ったような気がする。 そういや、その時にカラスがとんでいるのを見たような気がする。 まあ、これがアニメなら、 「アホーアホー」とか言って鳴いてたかもしれないな。 そこまで説明して、俺はもう一度、朝比奈さんのお茶を飲んだ。 やっぱり、さっきよりぬるくなってるな。 にしても、ハルヒはまだやって来ない。 まあ、普通に掃除をやってたら、これぐらいの時間、別に遅くはないのだが、 それが、ハルヒだと別だ。 この時間になっても来ないのは遅い。 あいつも、俺と顔を合わすのが気まずいような気がしてるのかもな。 それから、俺がポーンを動かすと、 「それだけですか?」 古泉が訊ねてきた。 それまでもなにも、振られるまでの仮定を聞きたかったんだろうが。 俺の話は以上だ。 「その後の話を聞きたいのですが・・・そうですね、たとえばなぜ涼宮さんはあなたを振ったとか言ってませんでしたか?」 ん?そうだな・・・ そういや言ってたな・・・ とりあえず、もう一度俺は、昨日のことをを回想しながら、話し出した。 俺はハルヒに振られ、呆然と立ち尽くしていた。 一応、俺は聞いた。 「何で?」 そこから、2拍ほどの空きがあって、 「あたし、キョンよりも好きな人がいるの」 ハルヒはそう言った。 「あんたが、いきなりこんなこと言い出してビックリしたけど、その・・・今の、なかったことにしよ!明日からも普段どおりに」 そんな無茶なことができるかよ・・・ 長門に頼めば、記憶が消せるかもしれないが。 「あっ!そうだ、あたしも用事があるんだった。じゃあ、先に帰るね!」 そう言って、ハルヒは走り出した。 俺は、呆然と立ち尽くしていた。 そこからは、冒頭通りだ。 にしても、あいつの好きな人ってどんな人だろうな? そういや、前に言ってたか? 付き合うなら宇宙人、もしくはそれに準ずる何か・・・ってね。 まだ、あいつはそんな人間だったか。 あいつをはじめてみたときからと、今のあいつはかなり変わってると思ったんだがな。 「おかしい」 これを言ったのは、先ほどから電池を充電中のロボットのように止まっている長門だ。 何がおかしいって? 「涼宮ハルヒの恋愛感情と呼ばれるものはいつもあなたにむいている・・・」 それは、お前にアドバイスしてもらってるときにも聞いた。 だけど、違うんだよ。 あいつはやっぱり、宇宙人とかそんなのがいいんだ。 俺はあいつとはつりあわないほど、普通すぎだ。 「もしかしたら、涼宮さんの言ってることは嘘だったのかもしれませんよ」 古泉が言う。 「何のために、嘘をつくんだ?」 「たとえば・・・」 そして、一瞬古泉は視線を長門のほうにむけ、もう一度俺の顔を見て、 「あなたは、僕と付き合ったほうがあっていると考えたとかね」 何だそれは気色悪い。 それはお前の願望だろうがバカやろう。 「冗談です」 そうだとは思ったさ。 でもまあ、少しは気分がマシになったかな? 「悪いがみんな、ハルヒの前では今までどおり普通にいてくれ。俺から何も聞いてないフリを貫き通してくれ」 「それが一番いいでしょう。涼宮さん自身も、今までどおりがいいと考えてそうですし」 それから数分後、いつものようにドアが勢いよく開き、 「やっほー!」 とか言いながら、ハルヒが登場した。 それからはいつもどおりだ。 俺と古泉はいつもどおりチェスをやって、俺の圧勝。 朝比奈さんは、パソコンに慣れてきたらしく、お茶に関するサイトを見ていた。 ハルヒはいつものようにネットサーフィン。 ただ、長門は時折、こちらを見ていたように思われる。 長門が本を閉じる音が聞こえた 「よーし、じゃあ今日はこれにて解散!明日は市内探索だからね!みんな遅れないように。特にキョン!遅刻したら罰金よ」 遅刻しなくても罰金だけどな。 と思いながら、俺は帰路についた。 ところで、普段なってほしいと思っていて、たまたまなってほしくないと思ったときにかぎってなってしまうことがある。 どういうことだ、なんて別にいい。 いや、ただたんにあれだ。 市内探索の午前の相手がハルヒになってしまっただけだ。 ハルヒと二人だけのペアは久々かもしれないな。 さて、俺はどうすればいいのだろう? まあ、別に考えていない。 ハルヒについていくだけだ。 「………」 「………」 「………」 「………」 ハルヒと二人っきりの状況でこんなに無言がつづくのは久々・・・いや、初めてかもしれないな。 ちなみに、俺たちが今歩いているのは、いろいろな衣料品店がある街だ。 先ほどから、いろんなショーウインドーが俺たちの左右に存在する。 にしても、最近マネキンの顔がなくなってきている。 理由は簡単、金がかかるからだ。 まあ、俺にとっちゃあどうでもいいんだがな。 と思っていると、ハルヒが何か呟き、幽霊のように歩いて、そのままショーウインドーにぶつかった。 おいおい、大丈夫か?ハルヒ。 「ごめん、ちょっとボーっとしてた。さあ、不思議を探しに行くわよ!もしかしたら近くにあたしを操った超能力者がいるかもしれないわ!」 そう言って、ハルヒは俺を置いて歩き出した。 俺は、ハルヒがぶつかったショーウインドーを見た。 そこには、俺が映っていた。 皮肉なことだ。長門の言ってたことは間違っていなかったらしい。 ハルヒは先ほどこう呟いた。 「ジョン?」 午後のメンバーは幸いなことに、ハルヒと一緒になることはなかった。 ハルヒは朝比奈さんを連れてどこかへ行く。 つまり俺は、古泉と長門と一緒だ。 俺と古泉はとくに行きたいところはないので、長門を先頭にして、どこかへ向かっている。 まあ、図書館だろうな。 「ところで、午前中は何をしていたのですか?」 横にいる古泉がそんなことを言い出した。 「ああ、いや、多分だけどな・・・ハルヒが好きな人が分かった」 古泉は笑顔の中にどこか驚いた顔をしている。 長門は先ほどと変わらない歩調で歩いている。聞こえているとは思うんだがな。 「興味がありますね、それは。是非教えてくださいませんか?」 「それは機関の一員だから言ってるのか?それとも、一人の人間として言ってるのか?」 「もちろん、後者ですよ。僕が機関に所属して無くても同じことを言っていたでしょう。まあ、機関には報告するかもしれませんが・・・」 こいつは聞きたいのか聞きたくないのかどっちなんだ・・・ 無駄な言葉が多いとは思っていたが、お前が損するようなことを言ったぞ。 まあいい、 「ハルヒが好きなのは、ジョン・スミスだ」 古泉は少し、普段と比べてだが、ポカーンとした顔になった。 まあ、誰か知らないからあたりまえだ。 長門はジョンが俺だということを知ってるのか、少し歩調が短くなった。 「あなたは、それが誰か知ってるのですか?」 「ああ」 古泉はそれ以上、何か言うことはなかった。 まあ、いざとなったら機関がてっていして調べることぐらい簡単だと考えたのか、それともこれ以上聞いても無駄だと思ったのか。どちらでもないのか。 俺にしてみりゃどれでもいい。 とか考えていると、急に止まった長門とぶつかった。 おいおいどうした長門? と聞こうと思っていたら、長門は古泉のほうこうを向き、 「あなたの服を借りたい」 と、古泉に向かって言った。 長門が、古泉に何か言うなんて珍しい。 ってか、なぜに古泉の服? なぜだろう? よく女の子の一人暮らしであるのが、部屋に男物の服をぶらさげて、同棲している男がいると誰かに思わせるというのがありきたりだが。 それなら、なぜ古泉?俺でもいいだろ。 いや、確かに古泉のほうがオシャレをしているような印象は受けるが・・・ って、長門にかぎってそんなことはないか。 で、長門がそんなことを言ってしまったせいで、俺たちは今、古泉の家にいる。 家には誰もいない。 こいつも一人暮らしなのか、それともただたんに親は外出中なのか。 それも、俺にとっちゃあどれでもいい。 そして、長門は古泉がだしてきた服の中からカジュアルなもの選びだし、それから俺のほうを見る。 「あなたには明日、これを着てもらう」 おいおい、古泉の服なんて着たくねーよ。 「大丈夫、情報操作は得意。あなたの身長は高くする」 そっちかよ! ってか、何で俺にそんなことを・・・ と言おうとしてやめた。 「ジョンになれとでも言うのか?」 「そう」 ・・・・・ 「俺が、ジョンになってどうするんだ?」 「それからはあなた次第」 古泉の顔は、最初ハテナという感じだったのだが、だんだん状況が理解できてきたという感じの表情になる。 ったく、今の話だけで状況が分かるってのに、なぜチェスの先読みができないんだろうね? 「どうする?」 長門が聞いてくる。 そんな、急に言われてもな・・・ よさそうな台詞なら、古泉に頼んだら嫌と言うほど教えてくれるだろうが・・・ でもまあ、 「やってみる」 っていうのもいいかもしれないな。 次の日の午後8時。 俺は長門の家に来た。 そこには、古泉もいる。 まずは、古泉の服に着替えだ。 すこし袖が長いのがどこかシャクに触る。 「準備はいい?」 ちょっと待ってくれ。服装はともかく、心の準備はまだだ。 それから、一度俺は深呼吸し、古泉が書いた台本を心の中で読み。 こんなうまくいくはずがないだろ!と思いながら、 「いいぞ」 長門にそう言った。 とたん、長門はいつもの高速呪文を唱え、俺は一瞬頭がクラッとした。 まあ、あの時間遡行と比べればマシだけどな。 「完了した」 どうやらもう終わったようだ。 確かに、袖の長さはぴったしになっている。 「ありがとう」 おっと!声も変わってるじゃないか! 一応、鏡で顔も確認。 ああ、こりゃ別人・・・だけれどまあ、少しは俺に似てるな。 少しかっこよくなってるような気もする。 「それが、涼宮ハルヒが現在イメージしているジョン・スミス」 そうか。ハルヒはこんなふうにイメージしてるのか。 ところで、実は言うと先ほど、ハルヒの家のポストに、 『今日の午後9時半頃、東中校門まで来てくれ』 という紙を機関の人間が置いておいたようだ。 ちなみにこれを書いたのは俺ではなく、20代前半の機関に所属している人間だ。 どこの誰かは知らんが、一応感謝しておこう。 ところで、あんな手紙でハルヒがちゃんと来てくれるのかどうかが不安だ。 だいたい、ジョン・スミスがハルヒの家を知ってるわけがないだろ! 俺さえ、どこにあるか知らねーよ。 というわけで、俺は東中に行くことにした。 時間は9時ごろ。 まあ、9時半まで後30分もあるんだから、まだ来てないだろう・・・ と思っていたのだが、ハルヒはもう来ていた。 いつぞやの七夕のときと同じように、Tシャツに短パンなラフな格好。 これは間違いなく、意識しているような気がする。 どうせなら、俺も古泉の制服を借りて着たらよかったかもしれん。 ハルヒと目が合った。 「ジョン?」 ハルヒが訊ねてくる。 「ああ、久しぶりだな」 どこからか吹いたか知らんが、風が俺とハルヒの間を駆け抜ける。 「どうして?」 何がだ? 「どうしてまた、あたしに会おうとしたの?」 確か、この質問をされたときになんと答えればいいか先ほどの古泉の紙に書いてあったはずだ。 なんだった? そうだ、確か、 「お前の話を、後輩から聞いたんだよ。黄色いカチューシャをつけた女が高校で暴れてるってな」 「そんなことはどうでもいいのよ!」 どっちだよ・・・ 「何で今頃になってあたしの前に現れたか聞きたいの。1年前でも2年前でもなくて」 やばい、この回答は持ち合わせていないぞ・・・ 「だから、その、お前の話を聞いたのがつい最近で・・・」 「あたしはあんたに会いたかった!」 ハルヒは叫ぶように言う。 それから、いつぞやのようにハルヒは校門によじ登って、中に入っていった。 「あんたも早く来なさいよ」 ったく、ハルヒらしいぜ。 そして、グラウンドの真ん中で俺とハルヒは突っ立った。 「あんたに話したいことがたくさんあるのよ」 空を見上げながらハルヒが言う。 やっぱ、この季節はほとんど星が見えねーな。 「何だよ?」 「あたしね、北校に入って部活作ったの・・・それから・・・」 それから、ハルヒは延々と話し出した。 ほとんどが俺の知ってる話だ。 俺は、それをずっと黙って聞いていた。 悪いが、俺自身が懐かしさに浸ってしまう。 この話を初めて聞いたような素振りを俺はできそうにない。 「それでね、キョンっていうヤツがいて、そいつの雰囲気がどこかジョンと似ていて・・・」 それから何分ぐらいたったかな? 10分はたっていると思う。 やっと、ハルヒは喋り終えた。 そして俺はというと、 「そうか」 これしかいえなかった。 情けない・・・ 「あんたは?何か話したいことがあって呼んだんじゃないの?」 まあな、何も話すことがなくて呼び出したなんて不自然すぎる。 えっと・・・確か・・・ そうだそうだ、古泉に言われたことは。 「お前と前に会ったとき、北校にお前みたいなやついるって言ったこと覚えてるか?」 「ええ、覚えてるわ」 「実はな、俺そいつと付き合ってたんだが、こないだ振られちゃったんだよ」 一瞬、空気が凍りついたような気がしたが、気にせず話を続ける。 「ちょうどジョン・スミスっていう役名が出てる映画の後振られたんで、あの七夕のことを思い出してな」 話を続ける。 「それでだな、ある程度のことは後輩から聞いてたから、それでお前に会おうと」 しばし沈黙。 「あたしに何を言いたいの?」 いつもより小さい声でハルヒが訊ねる。 「いや、だからそいつと似ているお前なら、何かよりを戻すいい案が思いつくんじゃないかと思ってな」 「分かるわけないじゃない!」 だよな・・・普通に考えてそうだよな。 くそ、何を言ってるんだ俺は、ってか古泉は、バカか。 「バカ!」 ハルヒに直接言われた。 「バカバカバカ」 そう連呼するな。 と思っていたら、ハルヒが俺の胸にもたれかかった。 「バカ」 いつまで言ってるんだよ・・・ と思ったその時、何か冷たい感触が俺の腕に感じた。 泣いてるのか?こいつ。 ここからはハルヒの頭しか見えないから、どっちなのかは分からん。 ただ、シャンプーのにおいがするのだけは分かった。 おいおい、後で外出するって分かってたのに、風呂入ってから来たのかよ。 とか思っていると、ハルヒがなにか呟いた。 「あたしじゃダメなの?」 俺にはそう聞こえた。 そして、ハルヒはゆっくりと顔をあげ、 「あたしじゃダメなの?」 もう一度言った。 ハルヒの顔が近い。 泣いているのかどうか、 はっきり言って暗いからよく分からん。 にしてもなんだろう?このデジャヴは。 そうだ。あの閉鎖空間のときだ。 あの時も、こんな暗闇で運動場に二人きりだったか。 「あたしはずっとあんたを探してた。あの七夕の後、北校に潜入してまであんたを探した、それぐらいあたしはジョンのことが好きなの!」 ジョンは・・・告白されたんだな・・・ ったく、幸せ者だ。うらやましいぜ。 俺は、ハルヒの頬に手をやった。 やっぱり泣いているようだ。 「ずっと、ジョンのことが忘れられずにいた」 ゆっくりとハルヒの顔が近づいてくる。 俺も一瞬目を閉じ、 それから、ハルヒの行動を拒否した。 ハルヒの肩を押す。 「俺とお前は付き合ってはいけないんだ」 「何で?もしかして年齢のこと気にしてるの?そんなの離れていたとしても5歳ぐらいでしょ」 「違うんだよ」 ここから言う言葉は古泉に渡された台本に載ってない言葉だ。 今分かったが、あいつはあてにならん。 俺が今そう決めた。 だが、俺が次にやる行動が正しいのかどうかも分からん。 「俺はこの世に存在しないんだよ!」 ハルヒは近くにいるというのに、俺は50メートル先でも聞こえそうな声で叫んだ。 「どういう意味?」 ハルヒの疑問形。 「さっき俺が言ったことは全部嘘だ」 「何で嘘なんか言うのよ?」 「いいから、俺の話を聞いてくれ」 さて、どうする俺。 どうしようか・・・ジョン=キョンと言うのか。 いや、ダメだ。それじゃあダメなんだ。 「実はな、あの七夕の日の後、交通事故で俺、死んだんだよ」 ハルヒの表情が変わっていく。 「まあ、今の俺は幽霊ってわけだ。いや、でも幽霊っていうのは形がないんでな。この体の人物に乗り移ったんだよ。俺に似てるけど、背が高くてちょっとかっこいいしな」 一呼吸。 「だから、俺はお前と付き合うことができない」 そういいながら、俺は一歩後ろに下がった。 「だから、俺の外見と、俺に対する気もちは忘れてくれ」 もう一歩後ろに下がる俺。ハルヒはずっと俺の顔を凝視している。 「そろそろお別れの時間だ」 それっぽく言ってみた。 今から俺が行くところは天国でも地獄でもなく、長門の家だけどな。 俺はハルヒから離れ、校門に向かって走りだした。 と、俺が20メートル走ったところで、 「最後に一つだけ聞かせて!」 ハルヒは叫ぶように言った。 「あんた名前なんて言うの?」 俺はハルヒのほうに振り向いた。 別に、人差し指を唇に当てて、「禁則事項です」なんて言うつもりはこれっぽっちもない。 「ジョン・スミスだ!」 まあ、意味は似たようなもんかもしれねーけどな。 だけど、心に響くものは大きく違うぜ。 「この名前だけは忘れないでくれよ!また、別の人間に乗り移ってお前の前に現れるかもしれねーからさ!」 「忘れないから!死んでも忘れないから!」 「今度お前にジョン・スミスとしてお前にあったときは、宇宙人や未来人や超能力者を紹介してやるよ!」 「楽しみにしてるわ!」 「姿形が違っても、お前のことを見てるからな!」 それから俺は走り出した。 これで、よかったんだろうか? 空を見上げ、一つだけ光っている星にむかって、 「世界を大いに盛り上げるためのジョン・スミスをよろしく!」 そう言った。 次の日の朝、扉を開けるとハルヒはいつものように空を見上げていた。 どこか悲しげなのは気のせいではないだろう。 「よっ!」 軽い挨拶をしておく。 鞄を置き、ハルヒのほうを見る。ハルヒもこちらをむく。 「あたしね、恋愛感情っていうのは精神病の一種だと思ってるの」 急にハルヒがそんなことを言い出した。前にもそんなこと言ってたな。 まあ、そう思いたきゃ思えばいいじゃないか。 宇宙人や未来人がいると思われるよりよっぽどかマシだろうしな。 「でもね、その病を治すには一つ方法があると思ってる」 おっ!そんなところまで考えていたのか。 聞いといてやろう。 どうせ、恋愛感情なんて忘れるとかだろ。 「それはね、恋愛感情をむけている相手と結ばれることよ」 ・・・・・・ 予想外に反してマジメな意見が返ってきたから、俺はしょうしょう驚きを隠せないでいる。 さて、ここで俺はどうするべきだろうか? と、考えてると、ハルヒが言葉を続けた。 「だから、あんたの病を治せるのはあたししかいないわけ」 おいおい、その話はなかったことにするんじゃなかったのか? 俺もそのつもりで接していこうと思ったのだが・・・ ってか、それはどういう意味だ? やっぱり、告白にたいしてOKと言ってると思っていいのか? 「バカ。そんな簡単に了承するわけがないでしょ。そうね、もっとあたしにふさわしい男になるといいわ。そうね、宇宙人や未来人を見つけてきたらいいわよ」 もう見つけてるんだがな。 ん?それより今の言葉の意味ってあきらめるなってことか? 「まさかあたしをあきらめたつもりじゃないでしょうね?別にあたしはそれでもいいけどね。勘違いしないでよ、別にあんたが好きなわけじゃないんだから」 それからハルヒは空を見上げた。 「ねえキョン」 「何だ?」 「あんたが幽霊に乗り移られたらすぐに言いなさいよ」 俺はハルヒと同じ方向を見る。 青いな。どこまでも続く青さがそこに広がっている。 「その時は宇宙人や未来人や超能力者を紹介してやる」
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今日は週に1度の不思議探索の日。俺は普段通り集合時間の30分前には到着する予定で歩いている。 そのとき突然ハルヒからの電話があった ハ「今日は中止にして。あたし熱出しちゃったから。みんなにはあんたから言っておいて・・・」 集合場所に着くと、やはりみんなもう着いていた。 キ「今日はハルヒが熱出したから中止だ。さっき電話があった。」 長「・・・そう。」 朝「涼宮さんは平気なんでしょうか・・・」 キ「どうでしょう。元気の無い声してましたけど、電話できるくらいなら平気だと思いますよ。」 古「・・・わかりました。それではこのまま解散でよろしいですか?」 古泉はこういうときだけ副団長の役割をしていると思う。 キ「いいんじゃないか。長門も朝比奈さんもいいですよね?」 朝「あ、はい。」長「・・・いい。」 古「それでは解散ということで。」 朝「あ、キョン君。涼宮さんのお見舞いに行ってあげてくださいね。」 キ「はあ・・・でもそれならみんなで行った方が・・・」 朝「みんなで行ったら迷惑になりますから。」 長「・・・貴方一人の方がいい。」 おいおい長門まで・・・ 古「僕もそのほうがいいとおもいますよ。」 古泉、お前もか。 キ「ふぅ・・・行くだけ行ってみるか。」 俺一人が行こうがみんなで行こうが迷惑なのは変わらないようなきがするんだが。 そう思いつつもハルヒに電話をした。 キ「よう。元気か」 ハ「元気じゃないわね、熱が出たって言ったの聞いてなかったの?」 キ「聞いていたとも。今から見舞いにいくからおとなしくしてろよ。」 ハ「ちょっ、キョン!!こ、こなくて(ry」 俺はハルヒが何か言う前に電話を切っていた。ピンポーン。 キ「よう。ハルヒ。・・・何でそんな格好してるんだ?」 ハルヒはこれから出かけるのではないかというような格好をしていた。 それも額に冷却シートをはったまま。 ハ「だ、だって、急にキョンがくるなんていうから・・・///」 キ「それは・・・悪かった。そんなことより起きていていいのか?」 ハ「あんたがチャイムならしたからわざわざむかえにk・・・」 クラッとハルヒは倒れかかった。 俺はハルヒを両手で支え、 キ「おっと、そんな格好してるからだぞ。熱が出てるときぐらいパジャマで布団に寝てろ。」 ハ「わかったわよ・・・でも、起き上がれそうに無いの。」・・・ってことはこのまま運べと? キ「本当か?うそなんてこと無いか?」 ハ「本当に体が重いの。」俺は仕方なくお姫様抱っこのままハルヒの部屋まであがった。 そのときのハルヒの顔は終始真っ赤だった。 ハルヒに聞いてみると「熱だから仕方ないのよ。」 まぁ俺の顔も赤くなっていたことは秘密だ。 ハルヒの部屋は初めてではないが、女の子の部屋っていうのは入るたびに緊張するものだな。 ハルヒをベットに寝かせた後俺はその辺に腰掛けた。 キ「ハルヒ、大丈夫か。」 ハ「大丈夫じゃないわ。こんな格好してるし、さっき無駄に声出したから。」 キ「じゃあそのまま寝てろ、やって欲しいことがあるなら聞いてやるから。」 ハ「・・・ありがと。」 ハルヒは俺に聞こえるか聞こえないくらいの声でそういった。 だが俺にはちゃんと聞こえていた。こういうときのハルヒはものすごく可愛い しかし、可愛いと思えたのもつかの間。とんでもないことを言ってきた。 ハ「ねぇ、キョン。///」 キ「なんだ?」 ハ「この服着替えさせてくれない・・・//////」 キ「ぶふぅ!! やって欲しいことがあるならやってやるといったが、それはないだろ・・・///」 ハ「だ、だって・・・この格好じゃ寝にくいじゃない・・・/////」 キ「でもな、ハルヒ。俺がやるってことは ハ「じゃあいいわよ。」 そういってハルヒはそのまま俺に背中を向けて寝てしまった。 キ「・・・ハルヒ。悪かった。でも流石に俺にはそれはできない。他のことなら聞いてやれるから・・・機嫌直してくれ。」 そういうとハルヒはこっちを向き、 ハ「じゃぁ、しばらく手握ってていい・・・////」 キ「そ、それなら・・//////」 俺はそのままハルヒが寝付くまでずっと手を握っていた。 一生その手を離したくないと思いながら・・・ おわり